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◆白夜◆





〜2〜

 

 

「やっと、見つけました」

 何度帰ろうと思っただろうか? マティアの前に見るからに怪しげであり、かつホラーである建物があった。表道から歩いて五分。そう、ルカのメモにはあった。実際には三時間ほどを探索に使うことになったが。

「けど、こんなお店の横にある料理屋とか、茶屋。繁盛しているのでしょうか?」

 マティアは周りをものめずらしげに眺める。

 ゆっくりと歩みを進め、建物のドアを開ける。恐る恐る足を踏み入れる。ホコリとかび臭さが蔓延する古びたお店。

 お店。……だった。そうは見えないが。しかし、何屋だろう? 中に入っても皆目つかない。

「あの〜。だれか、存在しますか〜? いや、いなくてもいい気がしないでも……」

「なんじゃい小娘」

「あ、あはは……。いらっしゃったんですね。で、あの、私、ルカからここを紹介されて……」

 店の奥から出てきたのは、老婆であった。緑のローブを頭からすっぽりとかぶる様はあからさまに魔女とかそんな感じだった。一見人の良いおばあさんっぽく見える外見だけにその様とのミスマッチさが妙な雰囲気を作っていた。

「ああ、ルカね。天使のお嬢さんの友人かい」

「天使?」

「……いや、かわいらしいということさ。それより、用事はなんじゃい。丁寧に扱ってくれっていられとる。ほれっ。さっさといいな。大体はきいとる」

「あの、私。王子様が好きなんです! でも、私、宮廷召喚士だし。それより何より……それすら危ういし……。だからどうすればいいか……」

「ふむ。王子ね。まあいい。運命の輪はお前と王子の道が交わることを予言した。どこぞの雷国の姫を貰うよりはいいじゃろうて。方法は一つ。お前が姫になることだ」

「ひ、姫ですか!? ちょっと無理なんじゃ……。私、貧乏じゃないし、人魚だったりしないし、あ、よく眠りますけど」

 老婆は大きくため息をついた。

「そうじゃない。姫は姫でも雷竜の姫になってもらう」

「いや、だからそのための相談をしていたんじゃ……」

「まあ落ち着け小娘。すなわちじゃ。竜王国とは国ではなく、神竜とその使い手をいう。神竜がいなくなれば竜王国にあらず。逆に、神竜と使い手がいれば、民がいなくとも竜王国と呼ぶ。すなわち。小娘、お前が竜を手に入れれば、自然と竜王国の女王となり、彼と同じ、いや上の立場となるわけさ」

「な、なるほど!」

「竜を手に入れ、王子に言えばよい。「結婚してください」これでハッピーエンドさ」

「うひゃ〜。恥ずかしいですね。このこのぉ〜。……マティア=レムレス。がんばらせていただきます!」

「今がんばる必要はないがね。約二ヵ月後。竜を王子が継承する。その儀式にわりはいればいいのさ。失敗すれば死んでしまうが」

「ニケ月……。宮廷召喚士の試験は受からないといけないんですね……」

 宮廷召喚士の試験は一ヵ月と半、後のことだ。二週間家なしで生きれるほど蓄えはない。さらに言えば働く気もあまりない。というか眠りたい。

「そんなこと知らんよ。ともかく。継承の儀式の一週間ほど前にまたここにきな。いろいろ話があるから」

「はい。どうもありがとうございました。お世話になります」

 マティアはさび付いてるのか、開きにくいドアを力をこめ、開けてでてゆく。

「勉強がんばりますかー」

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

「いいのかい? あんなことさせて」

 マティアがでてゆき、一人になったその店で老婆は呟く。

「いいのさ。……雷竜の王子は失敗作だ。彼は竜を継ぐ素質はあるが、竜を使える人間じゃない。彼にできるのはせいぜい今日と同じ日を明日も過ごすくらいだよ。世界を変えられる人間じゃあ……ない。マティアは違うよ。ボクの友人だけはあるさ」

「友人……ね。ホントにそんなことをしているんだねえ。くだらないよ。くだらない。私には理解できないね」

 怪しげな店のより濃き闇に身を置いている少女が答える。

「キミにはわからないさ。人形。命じるよ。マティアに不審を抱かせずに竜を手に入れさせろ。必要があるならボクも手伝うよ。人形でも、まだ生きていたいだろう? だったらちゃんとやることだね」

「ルカ。私は予言するよ。……あんたはいつか破滅する。復讐の刃がお前を貫くよ」

 それを聞いた少女は嬉しそうに笑う。

「そうだよ。だからボクはなんだってできるのさ。そう、キミにいましているみたいにね。知っているからこそ、ボクは自由だ。キミとは違って。

 ……復讐の刃がボクを貫くまでまだ。時間がある。せいぜい好きにやらせてもらうよ」

 少女の気配が周囲から消える。けれど老婆は動かない。

「人形にだって心はあるんだよ。ルカ。あんたが一番知ってるはずじゃないか……」

 老婆は何もない空間を見つめ、呟き続けた……。

 

 

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