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◆白夜◆ |
第九話 〜1〜 |
流れる。ゆらゆらと流れる。 手をかざし陽光をさえぎる。伝う汗、流れるもの・留まるもの。 鼻孔に広がる潮の香り。 「いい天気だよな」 その言葉に彼の横にいる男はいらだったようだ。 「バカだと……バカだと、この世界の誰より知っていたつもりだったが……。君がここまでバカだとは知らなかったよ……」 「ふっ。照れるな」 男はがっくりと肩を落とす。数秒死んだように微動だにしなかった。かと思えば、風を思わせるほどの脅威の速さでもって頭を殴った。 「褒めとらんわっ! あぁああああ〜!! 君を信じた僕がバカだった! なぜ!? なぜ、海偽竜が出ているって知ってながらこんな小さい船なんて借りたんだあぁあ!!」 世界に12存在する神竜。そして、数百年の時を聖域と言えるレベルの高魔力地帯に生きた偽竜のみを竜といい、それ以外のドラゴンの仲間のような生き物たちは偽竜と呼ばれていた。 海偽竜は最近この辺の海域を荒らしまわっている海のドラゴンだ。 「リューク、愚問だぜ。ドラゴンって男のロマンじゃん」 「……もういい、ソルト。君はしゃべるな。手だけ動かせ」 リュークたちが乗っているのは小さな小船だ。手漕ぎ……ではなく、操縦者が魔力を込めることによって前へと進む魔術師協会の商品。だが、近場ならともかく、海を渡るほどとなれば腕のいいものでも疲労でなく、苦痛の域になる。 そのはずだが操縦するソルトは疲れすら見せない。 「しっかし、任務ね。エリート召喚士リュークと落ちこぼれ召喚士の俺がね」 「嫌味を言うな。君のほうが実力だけ、は上だろう」 「……。任務、確認していい? ホントは本土に上がってから確認しろって言われてるけど……遭難してるし。片方死んでもほら。任務知らないと」 「君が死んでも僕は生きるから知る必要はない……と言いたいが、そうだな。教えておこう。無論、君に関係あるから依頼されたんだ。任務はふたつ。巫女を取り戻すこと。あの男を殺すこと。……君にとって、彼は因縁の相手だろう?」 「そうでもないさ。周りが言うほどには、ね。そりゃ、あいつは俺の妹だよ。けど、ホントは巫女よりゃ女の子として生きてほしかったし、男としての魅力なら十分あいつはあったと思う。むしろ、感謝しているくらいだよ」 リュークはソルトを睨む。 「……君はバカだ。だからいうぞ? 肝に銘じろ。……任務は絶対だ。僕らは任務を終えない限りあそこには戻れない」 その言葉にソルトは遠い目をする。空。青色。雲の流れる様。現実を忘れてしまいそうな、魅力。 「帰れても遭難してるから……帰れないけどな。陸……いつ着けるかなあ」 「……いいから手を休めるなぁっ!」 結局のところ、漂流してるのはどうしようと事実である。 ◆◆◇◆◆ 「はあはあ! なんで陸が目の前だっつーのに、海偽竜がっ!? リューク! お前実は日ごろの行い悪いだろう!」 息を荒くしながらリュークは答える。 「バカにするなっ! 君ならともかく僕が恨みを買うはずなんてないだろう!?」 「……そ、う。……いや、そうかなぁ」 漂流して三日目。方向考えず、ひたすらまっすぐ進んで。陸が見えたと思えば、そこにいたのは噂の海偽竜。 「奥義をやるぞ! 一回分くらいは魔力残っているだろう! 」 リュークとソルトは手をつなぐ。海の上、明るい太陽の下。互いの手は汗でぬめっていた。 気持ち悪。 「それは天の奇跡。輝く軌跡。流れ落ちる心。召喚! ドレイク!」 「それは炎の業火。破滅の炎。燃え行く肉よ。召喚! イフリート!」 二人の体が輝く。赤と緑に。 『合成召喚!! フレアドラゴン!!』 生み出される輝く熱。形なき炎は次第にドラゴンのようにも飛び立つ鳥にも見える形になる。 『滅せよっ!』 フレアドラゴンは海偽竜へと襲い掛かり、お互いに消えうせる。 ◆◆◇◆◆ 「くう〜。数日振りの陸。ああ。惚れるっ。惚れるぞ」 「バカなことを言ってるな。ここからが大変なんだ。この広い大陸で二人の人間を探さねばならないんだぞ?」 「でも、リュークには心当たりがある……だろ?」 リュークは黙る。 「心当たりがある……でしょ? ……あるだろ? な? さすがの俺も大陸中を当てもなく旅するってのは……」 リュークはソルトの顔をひっぱたく。 「ごふっ」 「だまれ。……前を見ろ。どこから見ても執事な奴が来るぞ」 人のいない砂浜。波の音と塩のにおい。そんな世界の中、執事だけが動いてるようにも錯覚する。 「こんばんは。おふた方。いきなりで失礼ですが、我が主人があなた様方に頼みたいことがあるそうです。来てくださいますね?」 「ふんっ。いきなり失礼な奴だな。頼みごとがあるなら会いに来るのが礼儀だろう? それに僕らにはやらなければならないことがある。余計なことをしている暇はないんだ」 「はっはっは。確かにそうですね。普通なら会いに来るでしょう。ですが、ここは私有地です。知ってますか? ここ、風の竜王国では私有地に勝手に入ると犯罪になるのですよ。……まあ、ここに限らずですが。長くて、一年まで牢に入れることができます。ただの漂流者ならば、大して問われることはないでしょう。ですが、あなた様方は海偽竜のパヒーを倒しました。それほどの人間をただの漂流者とするのは……ね」 「パヒー?なんだそりゃ」 「あのドラゴンの名前です」 「そんなのはどうでもいい。……どうでもいいが会わなければならないようだな。まあ、いい。主人に伝えろ。俺たちは漂流で腹が減っていると。水は十分に取っていたがな」 それを聞くと執事はもと来た道を歩いてゆく。 「どういうことだ? 漂流者なんだし、問題ねーだろ?」 「ふうっ。だから君はバカなんだ。あいつはもし、頼みごとを聞かねば牢屋行き。逃げれば指名手配と言ってるわけだ。漂流者かそうでないかを決めるのは多分、法や国でなく、個人なのだろう。その権限は主人とやらにあるわけだ。まあ、とりあえず話を聞いてみよう」 「めんどくさいなぁ」 「君のせいだということはわかってるか?」 「いや全然」 ソルトはリュークの顔をグーで殴った。 |
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