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◆白夜◆ |
第十四話 |
大切なものはなんだろうか? たまに考える。 ひらめき。これがしっくりくるんだがどうだろう? 世間じゃ99%の努力と1%のひらめきとかいうらしいが、今言いたいのは努力じゃない。知識だ。 知識ないひらめきはただの奇行。ひらめき無い知識はただの模範である。 俺は周りを囲む青い液体に塩を振りかけながら思った。 ハトに餌をやる感じに……である。 まず、整理しよう。俺の名前はセトだ。OK。んで、現在はルカの言う洞窟に来ている。OK。周りにいる青いぐにょぐにょは? ……スライムだ。 「普通に戦うと結構強かったな」 誤解している人が多いが、決してスライムは最弱モンスターではない。 確かに動くスピードは亀よりのろく、日光に当たったまんまだと干からびてしおしおになってしまうステキっぷりだ。水気の多くじめじめしている室内でなきゃ生きられない。 しかしだ。彼らの能力はその液体性にある。剣で斬ろうがはたこうが。蹴ろうが殴ろうが、一向に効きもしないのである。しかも、固体と言うものが無いので、増えると合体するし、なかなかに強い酸を持っていたりもするのだ。 基本戦術は、暗がりの天井に張り付き、獲物がきたら落っこちる。ねばねばした体はどうやってもはがれることは無く、少しずつ溶かされてゆくことになる。生きたまま溶かされる恐怖。 スライムはイメージほど優しくない。 「しかしなんだかなあ」 ギャピーだのギュエーだのという断末魔的な叫びを耳にしながら畑に肥料をまく様に適当にぱらぱら塩をまきながらセトは思った。 「やはり、人生で大切なのはひらめきだな」 洞窟に入ってすぐ、戦闘は始まった。ゴブリン程度は体術と剣術で対処したものだが、その後出てきたスライムにはてこずった。 倒した後、疲れながら歩いていけば、天井から水滴が。よく見て見りゃ水滴ではなく酸。 上を見上げりゃどでかいスライム。地面に落ちてた石を投げて落としたはいいだが。 「ぎゃぴー!!」 大きめスライムの泣き声に周囲からたくさんのスライムが集まってきた。逃げ場無し。倒す暇もない。だが、そんな中、ミニスライムがへこへこ進んでいるのを見て思った。 ――なんかなめくじとかみてーだな。 思ったら実行。 そんなわけで塩を振りかけたわけである。 「しかし、この洞窟、趣味わりーな」 スライムを倒した後に待っていたのは巨大な岩石。転がってきた。 ぎりぎりのところで曲がり角を曲がってみれば落とし穴。下はゴブリンの巣穴。死闘により体中血だらけになった。 目の前にある大仰な扉を見てため息をつく。いかにも何かありますだ。 「仕方ないな……」 意を決しあける。 「はーはっはっはっは〜〜! 待っていたぞセト! このマイケル=ダンディ様をシャドー打ちした罪はビックだぞ!!」 訳わからん。しかし、何だこいつ。微妙に古代語入ってやがるし。 「誰だ、お前。よく分からんが用が無いなら先に進ませてもらうぞ」 大男の横を通ろうとすると、服をつかまれた。 「ウエイトプリーズだセト。マイライバルとして敵前逃亡はバットだ!!」 「だれがライバルだ。それになんなんだよ。一体……」 「先日何者かに襲われた。黒服のプリティーガールが犯人はセト、ユーだと教えてくれたのだ!」 黒服のかわいい少女ね。――ルカかぁ? 一体何なんだか。 「決戦だ!」 「えい」 ポケットからこしょうの入ったビンを出し、それを振り掛ける。 「ゴホゴホッ!?」 「えりゃえりゃ」 苦しがってる男をしこたま蹴って黙らせた。 「やはり大事なのはひらめきだな」 そのまま去ろうとしたのだが、男がまた服をつかむ。 「さすがマ〜〜イライバルセト! すばらしい戦術だ! だが、この程度ではビューティ・グレート・ワンダフルなダンディー様を倒すことはできん!」 つかんだ服を離すと殴りかかってくる。その一撃一撃はとてつもなく強力で、防ぐだけでも体に痛みが走るほどである。 「くっ、やるな。意外と」 俺は大きく後ろにジャンプする。それを追い、間を詰めようとするマイケル=ダンディー。 「ひょおおお〜〜!?」 落とし穴に落ちた。 「ばかめ。ダンジョンの罠把握は必須だぞ」 セトは落とし穴を見てみる。あまりにあからさまで落ちるものなぞいないようなトラップであったが血が頭に上った奴には識別は無理だったようだ。 さて、先進むか。俺は何事も無かったことにして前を向く。 俺は二の舞にならないように注意しながら先へ進む。 「また扉だ。しかし、こっちは簡単には開きそうに無いな……」 大きく広い部屋には入り口と落とし穴とこの扉しかない。鍵穴が無い扉だ。しかも押したり引いたりしてもびくともしない。 だが、よく見てみると変わったところがあるのに気づく。 「手形……か?」 小さな、子供サイズの手形があった。なんとなくでそれに手を合わせる。俺の手では大きすぎて型から出てしまう。 「なっ」 合わせていた指の先が緑に光、飲み込まれてゆく。体自体が強力にひっぱられる。 指から手。手から腕へと。 底なし沼に入ったような気分だ。助けてくれと叫びそうだが、叫んでも効果ないだろう。 足を使いひっぱろうとしたら足も扉に吸い込まれ始めた。 ついには俺のすべてが飲み込まれる。 「何だここ……」 そこは研究所のような雰囲気を持っていた。変な管やガラス管がたくさんあって、その中にはカラフルな光と泡。美しい光景ともいえなくないが、整理されて無いあたりがその雰囲気を打ち消している。というかホラーチックですらある。 「モンスターが管の中入ってるぞ……」 管に張ってある紙を見る。 ―永久機関― よく分からんが、嫌な感じだ。 俺はどんどん奥へといった。ここがきっとルカのいっていた場所なのだろう。 「さて、竜の器たる人形ね。人形やーい。……どこにあるんだか」 今のところ人形っぽいものは無い。とりあえず、がんがん奥に進むことにする。大抵大切なものは奥にあるのが相場だ。 「これ、か?」 部屋のもっとも奥に、他のものよりずっと大きなサイズのガラス。その中に少女がいた。 緑色の短い髪はゆらゆらと揺れている。下から上へとあがる泡と少女に向けられた淡い光が幻想的だ。 「まるで天使……だな」 ちなみにイメージの話。ルカとは全然似てない。 それに見入りながらも、俺はどうしようかと悩んでいた。 |
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