その質問にプリシアは困ったように笑う。そんな笑顔もまた、煌めく光のように美しい。
「私は伊月様に敵意を持っていません。とりあえず、我が家に招待し、一緒に食事でも、と思っています。もちろん、その後の手配もしましょう」
「そっか……」
「はい。……眠いのなら、寝ても大丈夫ですよ」
伊月の声に張りがないことをそう解釈したのだろう。
プリシアは優しくそう言った。しかし、空を飛ぶ竜の上。体を前に倒して寝るには怖いし、座った状態で背中の支えなしには眠れない。背中を下げると後ろの彼女の柔らかな肢体に抱き留められる。
「……ああ、申し訳ありません。寝ろと言っても伊月様には寝ずらいでしょうね。体を私に預けてくださって結構です。こう見えても私は鍛えています」
プリシアは伊月の体を引き寄せる。車のシートを一気に下げてしまったかのように体が後ろに倒れ、伊月の頭は彼女の肩で止まる。
恥ずかしさに目が逆に覚めるだろう。そう思ったのにも関わらず、体が重くなって眠たくて仕方なくなる。
(十分寝たつもりだったのに……)
しかし、眠りはどうしようもなく訪れ、伊月は閉店作業を余儀なくされた。
異世界での三度目の目覚めは二度目と同じくドシンという大きな音だった。目をはっと開けるとそこは自分の家のベッドでもなんでもなく、竜の上だった。
「着きましたよ。今、外します」
左右の紐をほどき終わると伊月は竜から降りる。そこから見えるのは学校を少し小さくした感じの建物だった。
「で、でか」
「そうですか? こんなものでしょう。さあ行きましょう」
……これはそんなものか。
感覚のスケールが違うなあ。プリシアの帰宅を知ったのか、屋敷の扉は中の者によって開けられ、プリシアと伊月は迎えられる。
迎えに出た男はまだ若く、伊月やプリシアより若く見えるくらいだ。中学生くらいの人間が燕尾服のようなものを着ているとしっかりした感じよりかわいらしさが先に出てしまう。ただ、妖精のこともあるし、彼が見た目とおりの年齢とも限らない。ここで微笑んでしまうと失礼だろう。
そんな風に考えていたことに気づいたのか、男はプリシアには優しい笑顔を浮かべたくせに、伊月に対しては鋭い、というか嫌な物を見るような目で見たのだった。