生気の抜けてゆく伊月。脱力にイスから転げ落ちそうになるのをぎりぎりでテーブルを掴み、堪える。
「酷な、話になりましたね」
「い、いや、……いつかは知ったことだし……その、甘えだというのはわかるんだけど、僕は、これからどうすればいいんだろう?」
すがるような目でプリシアを見る。
彼女はその視線に嫌悪することなく、優しく微笑んだ。
「本によるとあなた達、異世界の方は魔術の才に優れているとあります。魔術を学び、城に使えれば生活に困ることはないでしょう。食事を終えてからのつもりでしたが、少し勉強をしましょう」
「魔術!」
伊月ははっと顔を上げる。
そういえば、そうだ。魔法があるじゃないか。しかも、異世界人はみんな才能あり。つまるところ、ゲームの世界だ!
よかったよかった。捨てる神あれば拾う神あり。ちょっと違う気もするけど。
考えてみれば、プリシアはある程度の警戒があるとしても、基本的には友好的で、こちらに好意的だった。もし、今までの異世界人が役立たずならば、ここまで良い待遇になるとは思えない。
もちろん、先人達の血のにじむ努力の結果かもしれないが、伊月のような学生が飛んでくるのだ。特別な知識のない一人の人間がそこまで大したことができるとは思えない。
よって、偉人達もその魔術において、強い力を持っていた、ということが考えられるわけだ。
そう考えてみると、意外になんとかなるかもしれない。今まではただの学生ごときに、だったが、今はゲームの主人公みたいなもんだ。例え過去の人間にできなくとも、伊月にはできるかもしれない。帰れるかもしれない。
希望がわいてくると現金なもので、伊月の体は元気を取り戻す。
「なんだか、元気になられたようで私も嬉しいです。簡単に説明させていただきますが、魔術の力は主に二種類。肉体に影響を及ぼすアグマと外部に力を及ぼすルグスの二つです。傷を治したり、強めたりするのがアグマ。火を出したり光をともしたりするのがルグスです」
そう言うとプリシアは腕につけられた飾り気の乏しいリングを撫でる。グーに握られた彼女の手が内側から輝きだした。あたかも、ペンライトを手で握ってるかのように光が体を越えて輝いている。
プリシアはその光をひょいと伊月に向かって投げる。一瞬、まぶしさに目を閉じるが、次第に明かりは弱くなり、消える。
「こんな感じです。魔術は腕輪をつけることでその力を強めたり、制御したりします。ジャン、伊月様に腕輪を」
ジャンは伊月に嫌々ながら、という表情を浮かべつつ、腕輪を渡す。どうも妙に毛嫌いされていて伊月はむかっと腹を立てるが、それ以上に腕輪をもらったことのうれしさの方が強い。伊月はにこにこしながら輪を腕に通す。
「で、どうすればできるの?」
「ああ、それはもちろん、修練あるのみです。今度こそ食事を終えてからにしましょう」
忘れていた食事にタイミング良く伊月のお腹が鳴る。プリシアは微笑み、大量の食事が運ばれてきた。