上品な人は何をしても上品で、かっこいい人は何をしてもかっこいい物だ。
 人の五倍くらいの量の食事をぺろりと食べてしまうのを見ても、伊月はプリシアのことをそんな彼女も美人だよなあとしか思わなかった。

 獣のようながつがつした感じを受けなかったせいかもしれないし、思考が止まったのかもしれない。現に伊月の手は止まり、普段の半分程度しか食べられていないように思う。 味付けは全体的に薄めで、入りやすいが、味気ない。

(ばあちゃんちのメシとかこんなもんだった気もするなあ)

「……あら、伊月様はあまりお召し上がりにならないんですね。味がお合いにならなかったのでしょうか? それとも、そのくらいが普通ですか?」
「いや、味は、ちょっと薄めかな、と思ったけど問題ないよ。量は、ちょっとこっちに来た緊張で食べれなくなってるんだと思う。普段はもうちょい食べるかな」
「なるほど。……ここは異世界です。異なる感覚の持ち主の伊月様のことは私たちには自然には同じになりません。思ったことは何でもおっしゃってください。それがお互いの理解への一歩ですから。ちなみに、私の食事の量は普通より多いものですが、これは私が魔術を行使する人間であるから、という点が大きいです。力のある魔術師は皆、大食漢なのです。異世界人はそうでもないと聞きますけどね」

 自分のことを話すとか照れるけど、まあ、異文化コミュニケーションってそんなものかもしれないなあ。

「じゃあ、聞いていい? 少し気になってたんだけどさ、あの村の、医者はアグマってのの使い手だよね? でも、腕輪とかしてなかったんだけど、それってどうして?」
「それは、腕輪は数年で壊れ、購入には高い費用がかかるからです。村の医師にまで行き渡りませんし、あまり必要にもなりません」
「なるほど。村とこの辺って結構貧富の差って大きいんだ?」
「ええ。この国は特に。王都から離れると貧しくなります。理由は敵国が北と南にあるからで、逆に、それ故に私のような魔術師が聖騎士という高い位の役職に就かせていただいています」

 そう告げるプリシアは本当に辛そうな顔で、伊月は慰めたい! と強く思ったが、状況を知らない人間の言葉はなんの慰めにもならない気がした。
 会って間もない相手なのに、どうしてこんなに胸が熱くなるのだろうか。

「あ、うん、そうなんだ……でも、じゃあさ、僕が魔術の訓練をしたら聖騎士とかってなれるの?」
 伊月の気持ちに気づいたのだろうか? その問いにプリシアは小さく微笑んだ。
「そうですね。異世界の方ならそれ以上にも簡単になれるでしょう。興味がわいてきたのなら、訓練、してみましょうか?」

 待っていました、という感じの誘いに、伊月は一も二もなく頷いた。


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