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*陰みょる者的日々* その壱 |
陰陽。いにしえより静々と……脈々と受け継がれし退魔が法。 闇に生まれ、黒に生き、白の領域を侵すもの。 それを退治することこそが、彼らの義務であり、宿命であった……。 赤。赤。あか、あか…… こうも真っ赤だと何かを言う気力すらうせる。家計簿を眺めて思う。 「ね〜、ユッキー。また家計簿見てるの?」 「う、見てるわよ。真っ赤なのよ。文句ある?」 「ないって。しかし、大変だよね。二人だけだとさ。 というかどうやって生きてるの? バイトだけじゃ生きられないでしょ?」 学校の机に突っ伏しながら、自身の不幸と目の前の金のやりくりに思案しつつも質問に答える。 真剣な顔つきで計算をやり直している少女とそれをただ眺める少女。手は止めずに、計算を続けながら言った。 「学校は奨学金。他はバイトと、ちょっとした仕事……」 「仕事?」 「――退魔士……」 ぼそっと言ったせいと、周りが騒がしかったので聞き取れなかったようだ。『なんでもないよ』と慌ててごまかした。 「さ、ぼるなあああああ!!」 ドアをぶち壊してあけるかのような勢いであける。 といっても壊したらお金がかかるから細心の注意を払っているが。 黒色のこまやかな髪、上気し、ほんのりと赤くなった顔、目はパッチリと大きいが、怒りでつりあがっている。 そして、ありふれた青のフリースとジーンズという色気のない服装。貧乏で怒り狂ってる私は目標に全力キックをかました。 なにせ、そこでは弟が当たり前のごとく酒池肉林をかましていがったのだ。 学校を急いで帰って着替えてから弟の部屋を訪ねてみれば、これである。 ああ、頭が痛い。 私の頭痛の種である、弟の清春が言った。 「柊、別にとめなくていい」 「でも、清春様」 「あれも冬ねいの愛情表現だから。俺は甘んじて受ける」 「おとこですね。清春様」 「どこがだあああ!!」 再び放った全力キックもまた、酒池肉林構成要素その一によって見事にとめられた。 雪のように白い肌と、白銀ともいえる髪。瞳は燃えるように赤く、それでいながらどこかウサギのような愛らしさが感じられる。 見た目の年は13か14。そんな少女。でも実年齢は400オーバー。 弟の愛用の精霊である。名のとおりに柊(ヒイラギ)の精だ。魔除けの力を有す精霊であり、特に鬼を相手にする場合無敵に近い力を発揮する。 ちなみに、私の名は白月 冬歌(しらつき ふゆか) 現在高校二年生。 蹴りかけられた少年の名は白月 清春(しらつき きよはる) 現在高校一年生。 これがかつて世界を覆う闇を払い、世界を照らす陰陽が月の成れの果てなわけである。 「冬ねいもたこ焼き食べる?」 「て、敵の施しはいらないわっ。私はバイトで稼いだお金があるもんっ」 とはいっても、今は給料日が待ち遠しい時期。本当はとてもひもじかった。何せ昨日のご飯はししゃも一匹とご飯と梅干だったのだ。 かなしゅーてしょうがない。 柊はため息をつくような動作をとると、たこ焼きにつまようじをさし、冬歌の口元に持ってくる。 「冬歌。あーん」 ほかほかと、暖かい蒸気が鼻にかかる。むやむやとしたそれを払う気で、息を吸ってみた。吹くんじゃなくて吸うあたりにもう、意志の弱さが感じられる。 ……いい匂いだ。それに温かくて、おいしそうである。あうあう。 冬歌は己の意志の弱さをのろいながら、ぱくりと食いつく。 いいんだ。別に、清春からもらったわけじゃないし。そう自分に言い聞かせながら。 「あぁ……ぁ。お、おいしい……。――じゃ、なくてっ! 準備できてるの!? 仕事、今日までに終わらせなきゃいけないんでしょ!」 「もう終わった。昨日の夜にやってきたからさ」 「ええっ!? なんで! 清春が自主的に?」 冬歌は驚きを隠さず全身で表す。 少しオーバー過ぎたようで、柊は少し不機嫌そうに目を細め、清春は逆に嬉しそうに笑う。 しかし、珍しいこともあるものだ。絶対期日を数日はオーバーするというのに。まあ、依頼人が若い女性だったりすると早いみたいだが。 冬歌は普段と違う異質な行動を取る弟へ不信の瞳を向ける。いや、実は望ましい形ではあるのだけれども。 (でも、こういう時ばかり、ちゃんとやんなくてもいいじゃない) 「不満そうですね。冬歌」 柊は無表情で、冷めた顔をこちらに向ける。 といっても柊が冷めているわけではなく、単に表情を顔に出すのが苦手なだけらしい。 本人いわく、『私は人のいないところで育ち、生きましたから。どうやっていいか分からないのです』だとか。 清春が気に入るだけあって、かなりかわいい子だったりする。 私が唯一好きな清春の式神でもあるので、わりと三人で話したりすることが多い。 「そうだね。冬ねいさんが仕事やったのに不満そうにするのってちょっと変だし。別に、仕事やらないほうがいいってわけじゃないでしょ?」 「もちろん! 仕事はバンバンやってほしいよ。――まあ、実は初めて式神作れてさ、ちょっと試してみたかったっていうかね」 「へえ? やったね、冬ねい。見せてよ、式神」 二人は急に黙り、冬歌に目を向け、黙る。 見守るように見つめる彼らは子供の遊戯を見に来た親のようで少しかんに触るが、まあ見てろという気持ちが打ち勝ち、口が笑う。 冬歌は胸のペンダントをぎゅっと握り締める。護符等に封じる場合もあるが、魔力の宿った石というのは色々と使い勝手が良いのだ。 「盟約と風と炎の祈り。今ここへあらわさん。急々如律令!」 ペンダントから赤と青の光が漏れ、交わりて紫になる。光は涙のごとく、球となって大地に落ち、そこにかわいい子犬が現れた。犬種はトイプードルのように見える。 「冬歌。これですか?」 疑わしげな感情の入った声で聞く柊とは対照的に冬歌は胸を張って言った。 「そう! すごいでしょ!」 「いえ、まったく。笑いを取るならネコにすべきでしたね。『ネコの手も借りたかったのかって』 元いたところに返してきなさい」 「な、なぜにー!?」 「役に立ちません。霊力がほとんど感じられませんから」 「……冬ねいさん。退魔行はあきらめて、素直に俺の嫁になろうよ?」 「誰がなるかー! 憐れむなぁ!! ゴンザレスのどこが不満なのよ!?」 「冬歌。ゴンザレスってこの犬ですか?」 「そう!」 「な、名前だけは勇ましい」 あきれ果てる柊。顔は無表情のままではあるが。付き合いがそれなりに長いのでなんとなく空気で分かる。 ゴンザレスはその辺をくんくんとにおいをかぎまわると、部屋のソファーに座っている酒池肉林構成要素その他のお姉さんどもの元へ行く。まあ、お姉さんといっても皆百、二百は年を取っているのだが。 それをなんと言っていいのかわからないという複雑な顔をした面々が見送り、お姉さんになでられ、嬉しそうに尻尾を振るゴンザレスを見てようやく私たちは我にかえった。一番最初に柊が口を開く。 「見捨てられましたね」 「うっ!?」 「あなたより彼女たちのほうが魅力的だと」 「う〜、う〜」 「そんなことないよ、冬ねい。俺にとって冬ねいは世界で一番魅力的。さ、結婚しよう」 「するかっ」 話がまったく進まない。とりあえず、酒池肉林構成その他になでられて尻尾を振っているゴンザレスをペンダントに戻し、ため息をついた。 ――なぜなのだろう? なぜ、半分同じ血を受けている弟と私はこんなにも違うのだろう? 私にはやる気があるのに。努力しているのに。 冬歌は白月家の本家の主と他の退魔の家の娘との子供だった。 いわばサラブレットであるはずなのだ。それに引き換え弟は同じ父を親に持つが、母は美しいだけのただの女。 魔道のまの字にもかかわりを持たぬただの人であったはずなのに。今ここにあるのは私が能なしであり、弟は天才であるという現実だけ。 時々思わないでもない。私こそが、あの女の娘であり、弟こそが……。 ばかばかしかった。血液型も、顔も、様々なものが確かに母譲りであった。私はあの人にはまったく似ていないし、弟はあの人の面影を残している。 まったく、ばかばかしい。 |
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