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*陰みょる者的日々* その四 |
「大空。白月の隣に座れ」 差更先生のそっけない声にしたがい、転校生は私の隣の席に座る。私の席は後ろの方の席というわけではないので、自然に開いているものではない。 けれど、ついこの間急に、『僕は、伝説のツチノコを探しに言ってくる』と一言残して転校していったのだ。だから、席は空いている。 まあ、少し変わっているやつで、いつもそんなことを口にしていたやつだ。 「よろしく」 こちらにそう、挨拶する。彼が近づいた瞬間、なんだか、ざわっとするような感覚を覚え、きょろきょろと周りを見渡す。 もちろんなんでもなかったわけだけれど、それを不思議に思ったのか、噂の転校生兼お隣さんの大空君。 「どうした?」 結構そっけない話し方だ。 しかし、こっちもなにがなんだかよくわからないので、「なんでもない」としか答えられなかった。 先ほどから、こっちを睨むように見つめる女生徒が手を上げる。差更先生は教鞭をそちらへ向ける。『なんだ?』 「なんで、冬歌の隣なんですかっ」 「なんでか……か。それは席が空いてること。 冬歌がわりと親切だということ。 最後に、天空に見ほれたりしてないみたいだからな。うっとうしいだろう? 彼女でもないのにそういうのが隣だと」 先生、厳しいです。というか、わりと無難だからって選んだのね。先生。けど、迷惑です。ええ。だって、睨まれてます。私。 さっき手を上げた女は加藤という苗字だったはず。名は千佳(ちか)だったかな。 彼女は私のことが嫌いらしい。 上履きを隠したりとかする、そういう陰険な性格でないのが助かるといえばそうだが、ことあるごとに突っかかってくる、なんだか非常にめんどくさい相手でもある。 「さあ、授業を始める。転校生が隣の席なんて漫画みたいで体験したいと思うだろうが、来週席替えをする。だから不満言わずに授業受けろ」 そういって差更先生は教科書を開いた。授業の始まりである。 「いやー、ユッキー。ラッキーだね」 一時限、二時限と順調にこなして行き、食事の時間になった。 私は前の時間の授業だった数学の教科書をしまいながら答える。 ちなみに大空君はすでに男だか女だかに拉致されている。おかげでこの辺はとても静かだ。きっと学食あたりを教えてもらっているのだろう。 「何が」 「そりゃ、大空君が。先生も言ってたけど、漫画みたいでさ。 ああ、でもユッキーも美少女だからねえ。隣に立つとお似合いかも。風に揺らめくユッキーの美しい髪! 頬に張り付いたそれを指で優しくかきあげる……揺れる制服、ちらりと見える太もも。――恋に燃えるわ」 「アホ抜かさないでよ……」 「はいはい。んじゃ、ご飯にいたしましょーか。どうする? 今日はあったかいし、外で食べようか?」 「うーん。そうだね。いつもの場所で」 はいはい〜と嬉しそうにカバンから赤坂はお弁当を取り出す。 私もそうしようとしたのだが、だが……。 何度もカバンに手を突っ込み、かき回し、しまいにはカバンに入っていた教科書類すべてを机に出して、それでも信じられず、カバンを振ってみる。ない。 「お、お弁当忘れたぁ……」 「あーあ。今日は、学食?」 残念そうにいう赤坂。じょ、冗談ではない。学食は三百円から五百円くらいするし、パンで済ますにしても一品で百円はかかる。 ……なぜだか知らないが破産という言葉が頭に重くのしかかった。破産なわけではないのだけど。 その様子はどうやらとてもとても同情を誘うものだったようで、赤坂が「は、半分分けようか?」などと声をかけてくる。 「う、うん」 一応、何も食わないということにはならないようだ。そんな時、教室のドアが開き、一人の男子生徒が入ってきた。 「冬歌ねえさん。お弁当、忘れてたから届にきたよ」 現れたのは、弟、清春だった。聞いてわかるように、普段は「冬ねい」と呼ぶくせに、学校ではきっちりと冬歌ねえさん、だ。 顔をすこし傾け、私を呼ぶさまはとてもかわいらしいらしい。つまり、私は思わないけど、他は思っちゃったりしちゃうということ。 「ひゃー、清春君いつもいつも、忘れんぼなお姉ちゃんのためにえらいねえ〜」 赤坂とかっ。 「……ありがと」 そっけなくお弁当を受け取る。しかし、清春は動く様子がない。 「どうしたの?」 「例の、転校生は? 一目見てみようと思ったんだけど」 「今はいないけど?」 「そっか。ならいい」 そういって去ろうとする清春を赤坂が引き止める。 「清春君。私とユッキーと二人で外でお弁当食べる予定なんだけど、君も食べる?」 「いいの?」 「もちろん」 私を置いて進む話に、止めようとするが、赤坂はそれを見ると左目をつむり、親指を立てた。 素直にこくりと頷く清春。学校では結構おとなしいのだ。優等生だし。 それに愛も囁かないし、結婚してくれとも言わない。 そして、ハーレムも作らない。もててはいるはずなのに。 「グッ」 何がぐっじゃい。 しかし、なんだか疲れてしまって何もいえないのであった。 |
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