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*陰みょる者的日々* その伍 |
降り注ぐ太陽は青々しい若葉に受け止められ、弱まり体に届く。その暖かさを心地よいと感じながらも、冬歌は機嫌が悪かった。 隣には冬歌とは逆に、嬉しそうに座る清春と楽しそうに笑う赤坂。 「……葉脈のしおり、柊からもらったんだって?」 「え? うん。もらったけど?」 「ふうん? そう」 そうして、黙る。じっとただこちらを見つめる清春。そして赤坂。 じとーっとした抗議を含めた瞳で冬歌は赤坂をにらむ。しかし、彼女はそれに何の影響も受けずに私たちふたりを見続けていた。 「何、見てるの……」 「いやあ、うん。いいもの見てるなあって。うむう。美姉弟。いいかも」 「なにがっ!?」 「あはは。わかってるくせにいー」 わかりません。仕方ないので、冬歌は自分の弁当に手を伸ばす。 何故かぎゅうぎゅうとご飯を詰められた、女の子らしい弁当ではなく男が食べるようなサイズの弁当箱。 しかも中は真っ白ご飯で中央に梅。いわゆる日の丸弁当だった。 「ユッキー……」 哀れな子犬を見つめるかのような瞳。 何も語らずに自分の弁当の中からダブっているおかずをひょいひょいと冬歌のお弁当にいれる。 天ぷら、から揚げ、シュウマイ。どれも冷凍食品に見えるが。 「赤坂……」 見つめ合う二人。美しい女の友情。 赤坂はさらに、プチトマト、きゅうり、ピーマン、ナスを渡す。 「……嫌いなもの、私に渡してない?」 「食べて帰らないと、うちのお母さんが怒るし?」 「ふーん。私、いい友人のお母さんを持って幸せだわ」 「ちょっと変でしょ。それ」 あんまり好きなものではないけど、栄養が増えて少し嬉しい。 そんな思いを語ったら、なにがおかしいのか、赤坂が笑い始めて、よくわからない衝動を感じて冬歌も笑い出す。 一人、笑えず残された清春は寂しそうにため息をつく。 「俺も同じ弁当がいい」 「あれ? そういえばお弁当違うね。兄弟なのに」 「深い事情があるからね」 「あ、ごめん」 「いや、謝られるタイプの事情じゃないけど」 お弁当は、二つ同じ物を作る方が楽だ。もちろん。 けれど、なんとなく清春のお金でお弁当を作って食べるのが嫌で、自分の分と清春の分を分けて作っている。弁当つくり代ということでご飯だけはもらってるけど。 だって、炊飯器ひとつしかないし。 どうしようもない意地で、しょうもないことだけど、嫌だって思うから仕方ない。私は一人でも生きられる。その証明みたいでそれは気持ちいい。 気持ちがよかった。けれど、そんな寂しげな目で見られると困る。 「日の丸弁当がいいの?」 「冬ねいがそれを食べるなら」 なんだか、な。それに呼び方もいつものになってるし。学校じゃいつもそう呼ばないくせに。ちっちゃな事だけど、なんとなくそれが気分よくって。 「じゃあ、これからは一緒の作るわ。まあ、お弁当は、いいや」 って言ってしまった。……どうも、私は食に関しては覚悟が弱いらしい。 それを聞いて赤坂が驚いた。 「何? ユッキーがお弁当作ってたの?」 「そうだけど?」 「私の嫁になって〜」 「ならん」 抱きついてきた彼女を軽く押し返す。 楽しくふざけあう私たちとは対称的に清春はなんだか面白くなさそうだった。しかしほうっておいて食事を続ける。 食事が終わり、それでも時間があったので談話する。これには清春も混じってきて、なかなか楽しく過ごせた。 けれど、当たり前であるが時間が来れば教室に帰らざるをえない。ぱぱっと要領よく片付け、一階で清春と別れ、教室に戻る。 だから私はこの後のことを何も知らない。 「何か用か?」 人の去り、静けさの満ちる世界にいる。聞こえるはず生徒たちの声も、そろそろ聞こえ出すはずの鐘の音も聞こえない。 聞こえるのも、声が届くのも今は唯一。一人だけ。 大空の言葉に清春が答える。けれど視界のどこにも清春はいない。 「やはり、魔を宿した者か。美形で転校生、しかも魔を持つもの? ……やりすぎ。誰だって不審に思うね。あんた何者?」 「そう言うお前こそ。空間ごと閉じる結界を作れる程の能力者だと? おまえが犯人か?」 犯人。その言葉をいつでも戦える体勢で言う大空に清春は興味を無くし、先ほどまで高めていた力を緩める。 「どこかの組織からの派遣か?」 「ああ。どことは言えんが。急に強くなった物の怪どもと、それと同時に現れた強力な力の持ち主。しかもその力を隠そうともしないし、目的も不明。 ……探りくらいはどこだって入れる」 「……冬歌は無関係だ。それの影響で力を隠していたのが解けただけ。多分隠していたのは白月の前主。今は死んでるけど」 「お前たちの父親か」 姿を目に見えないようにしていた清春は姿を現し、大空を睨む。しかし、彼は態度を変えることなくこちらを見続ける。 「あんなのは父親じゃない。……まあ、いい。適当に調べて適当に消えろ。たいした実力のない中堅クラスに構っている暇は俺にはない」 感情を消した声。冬歌には聞かせたことのない、見せた事のない一面。そこには優しさの欠片も存在しない。 冷たい声で、清春は続ける。 「冬歌に危害を加えるものは誰であろうと排除する。……肝に免じておけ」 周囲をまとっていた結界が消える。 コーンカーンコーンと中途半端な鐘の音がなり響く。しかし、大空は慌てずに階段を上って教室へと歩みを進める。 「あれが、清春か……」 面白そうに大空は笑った。 |
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