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*陰みょる者的日々*
その六





「おおおおおっ!」

 場所は学校から変わり家に。
 何せあの後は普通に家から帰り、そのあとは夜まで喫茶店でエプロン着て働いて、帰ってきてから食事を作っただけだから。特筆するようなことは特になかったのだ

 柊の最近のはまりである、お勧めの白いバスクリンのお風呂に浸かり、一日の疲れを取った後、事件は起こった。
 事件と言えるかは謎であるけれど。

 ぽかぽかと湯気を放ちながらパンダのパジャマを着た私は湯上りの麦茶を楽しんでいると清春が私を呼び、一通の封筒を渡した。
 にこりと笑いかけながらも嬉しそうに笑う清春の額にデコピンする。

「いたっー!?」
「こらっ。どこ見てる。首とか胸とか見るなっ」
「見てない見てない。喜ぶかと思って顔見てたのに」

 何っと反射的に顔を隠すが、どうやらなにか食い違っているようだ。柊がため息をつきながら封筒を破り、中に入っていた手紙を音読し……


「……そんなに喜ぶのはどうかと思いますが」
「だって、だって、仕事だもんっ。私が仕事をしていいんだもんっ」

 それは、依頼の手紙だったわけだ。
 別に依頼がないから貧乏、というわけではない。……貧乏なのは私だけだし。

 私の力量では元々依頼をこなすことが困難であるということもあるが、さらにここ最近のよくわからない現象のせいで依頼のレベルが上がったこともあり、私がかかわれる依頼がなくなってしまったのだ。

 せっかくゴンザレスを呼び出せるようになったり色々パワーアップ(少々)したと言うのにだ。
 それに、これは初仕事! 気合が入るし、狂喜してもおかしくない。

「冬ねい、よかったね」
「うん!」

 あまりに喜びすぎて我を忘れてしまったようだ。清春と柊の手を取り、勢いよく上下する。
 ああ、嬉しくてしょうがないよー!

「……むう。冬ねい、かわいい。抱きしめたい」
「いい笑顔ですね……」
「うるさい、バカ」

 がばりと抱きつき、ぎゅっと強く抱きしめる清春と、無表情に足にまとわりついた柊を跳ね除ける。
 ふうと大きく息をつき、そうしてようやく落ち着いた。
 依頼自体は、清春や父について何度か行っている。しかし、父が死に、家が没落し、二人でやってくようになってからというもの、清春は私に弱いのすら見せてくれなかった。
 未熟だから、と。

 家族に、弟にそういわれても我慢できるほど私は大人じゃなかった。けれど、やはり弟は正しかった。
 一度、勝手に盗み見て、その場に行ったのだ。結果は……迷惑をかけてしまった。
 迷惑、だ。そう、私は、迷惑なのだ。しかも、そのせいで軽かったとはいえ、怪我をさせてしまった。あのときほど自分の弱さを呪ったことはなかった。

 だから、それからと言うものの、ねだりはするものの、勝手に依頼を見たりはしなかった。けれども、その思いは抑えられながらも膨らんでいて……。

「清春、柊。ホントにこれ、行っていいの?」
「ええ。モノに宿った低級霊ですし。退魔道具をちゃんと持っていってくれれば。忘れ物は、無しですよ」
 
 そう言いつつも、心配する柊。心配性だ。ホントに。
 柊は変なところでお母さんなのだ。
 普通に母親が『忘れ物なんてしないでねっ』と言っても世間は『しねーよ』と言うのが普通らしいが、柊が心配そうに言うときは、本当にかわいくて。ついつい抱きしめてしまう。
 う〜ん。うちの一家は抱きつき癖があるのかも?

「冬歌。少し痛いです」
「柊ってばかわいいっ」
「冬ねいってばかわいいっ」
「だまっとれ」

 抱きしめると、柊の髪の匂いがする。冬歌も一応は髪だけは気を使い、シャンプーとリンスをしているが、柊はシャンプーだけらしい。
 でも、物凄く髪の毛が美しい。雑誌やCMなどで髪の毛の美しさを誇る女たちよりもずっと。

 それは彼女が式神で、清春から力を供給され続ける限り、ずっと綺麗らしい。だから褒めると、いつも『作り物の美しさより、私は冬歌の髪の方が好きです』というけれど。
 無表情に口からこぼれる言葉であるけど、心に響く。そして、そう言う度に私は柊を抱きしめる。ぎゅーっと。

 愛しい、愛しい妹みたいな姉みたいな、母みたいな人。抱きしめたときに感じる鼓動と暖かさがとても好き。
 
「冬歌は、甘えんぼさんですね」
「かも」

 柊が優しく冬歌を抱き返す。柊の髪がさらさらと動くのが見える。
 ついでに、視界の隅に手を広げ、目を輝かせてる清春がいたがそれは無視だ。

「がんばって来るから」
「はい。待ってますよ」
「いってらっしゃい」

 そう言って、言われて次の日出かけた。
 私は、期待を裏切らない。そう決めた。そして、実践した。

「た、退魔装備がなーい」

 いや、そっちの期待は裏切りたかった……。
 場所は廃屋。周りにお墓もあり、しかも夜だから雰囲気はばっちしだ。

 何でも、一ヵ月後に取り壊されることになっている家で、近くに中学校があるせいで、中学生の格好の肝試しスポットらしい。
 肝試しをしたはいいが、モノがなんだか勝手に動く。……そういう依頼だ。柊と清春曰く、本物。しかし、低レベル。

 後半に胸が痛み、心の中でほろほろと涙が出るが、まあ仕方ない。いつかきっと強くなる……予定。それはともかく。

「あー、どうしよう?」

 周りは騒音ですごかった。
 主に破壊音だ。たくさんのモノが冬歌の上空を飛び交う。当たらないように頭を低くし、タンスを移動してバリケードの代わりにしたおかげで怪我はないが、進めもしない。
 そしてどうすればいいかもわからなかった。

 そもそも、部屋に入るまではほとんど何もなかったのだ。
 それが部屋に入り、置いてあった写真立てを手に取って少ししてから突然周りにあるものがふわりふわりと浮き始めた。

 最初は赤ちゃんのハイハイ程度のスピードで部屋を行ったりきたりうろうろしていたのだが、だんだんと早まり、今やケンカ中の夫婦投げたコップのスピード並みの速さを誇っている。

「あー、コップが……。もったいない。あー、鉛筆が……まだ使えそうだったのに」

 しかし、不思議なもので、何も出来ない時間が続くと、逆にのんびりし始めた。すると今度は壊れていく物品に思いが行き始める。
 苦しめな生活を続けたせいで、すっかり貧乏くさくなってるなぁと思う。
 けれど、

(依頼書にもあったけど、いつもはこんなに激しくないようだし、モノが壊れることもないみたい。だって、壊れるのならば、こんなに“まだ壊れていない”ものがあるとは思えない)
 
「クスクスクス」

 声が聞こえる。楽しそうに笑う少女の声。
 がちゃんっ、がちゃんと鳴り響く中でも正しく聞こえることから、肉声ではなく、霊的な存在の声であることがわかる。テレパシーに近いものだと言われている霊の声。

「だれ?」
「わたし」

 ……わかりません。
 そう思いかけて、手に持ち続けていた写真を見やる。中には、両親に見える男女二人と、冬歌より少し若い少女と十二歳くらいの少女が映っていた。

 母親に髪を切られているのだろうか? 髪型が何気にセンスがない。髪の毛が一直線だ。おかっぱと言えばよいだろうか。いまどき珍しい。

「もしかして、写真の女のこっ!?」
 
 声に向かって言う。もしかしたら、迷って成仏できていないのかもしれない。しかし、そんな私の期待を裏切り、声の主は言った。

「ハズレ」

 なんでよ!?




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