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*陰みょる者的日々*
その八





 私はにこやかな笑顔を浮かべながら、それに目を向ける。
 それはもう、満面の笑みで。だってこれは勝利品なのだから。
 まあ、実際はうん。火事場ドロ? みたいな感じかもしれないけれど。

「何よ。あんた笑顔きもいわよ」
「きもいいうな。ばか人形」
「定番で言いたくないけど、バカっていうほうがバカよ」
「むう。口の減らない人形め」

 ずたずたと地団駄踏む。けれど、人形の口は減らないようで。
 ふーっと大きく息を吐いて、気を静めてみる。吐かれた息とともに体にこもった怒りと言う名の熱もまた出て行ったように錯覚した。
 すなわち、落ち着いた。

そうしてると人形から話しかけてくる。

「で、私をどうする気なのかしら?」
「私の式神にする」

 彼女はそう、今日激戦をこなしあった仲だ。うん。私は逃げ回るだけだったけど、それは置いておいて。

 柊の力で祓われたと思いきや、ゴンザレスにこっそり本体(人形)をくわえられていたので、一応、生きていたようだ。
 やるね、ゴンザレス。けど、私の服とかかじるのやめて。

 でも、今はもう前までの強力な力は人形には無い。ただの人形、といわけではないが、やれることと言ったらしゃべることぐらいのはずだ。
 本人もそのことを自覚しているようだ。
 実際にがっくりとうなだれたわけではないのだけれどそれに似た雰囲気を作っていた。

「もう、力が無いわ。……何も出来ない、ただの人形よ」
「喋れる人形はただの人形ではないと思うけど……」

 喋れるだけだわ。そう人形は呟いて黙る。その言葉には木の葉が崩れ行くような寂しさが含まれている。
 室内にいながら、何故か秋に吹く風のようなものを感じ、黙る。

 けれども、いつまでもそうしていられるものではない。
 私は自分の持っていた疑問を聞いてみた。

「何故、あなたは人間になりたかったの?」
「話す理由は無いわ」

 その言葉にカチンと来るが、ぐぐっと抑える。
 『冬歌。優しい心は相手の怒りを静めたり、態度を軟化させたりするのです』
 ……という柊の言葉を思い出し、特上の、これ以上はないというような素晴らしい笑顔を浮かべ、人形に話しかけようとした。

「キモっ」

 私はそのまま笑顔を崩さず優しく人形を抱える。
……そう、優しく。その様子を見れば、誰もが深い母性を持つ、素晴らしい少女だと褒め称えずにいられない。そんな感じで。

 けれど、その見た目に合わぬ、どす黒い何かを含んだような声で私は告げた。

「成仏せいやあぁ」
「ぎゃああああ!?」

 手に全霊力を集中させる。
抱き方は赤ん坊でも抱くような優しさであるが、実際は拷問用の電気椅子みたいなものだ。
 霊力によるうっすら青い光が漫画の、電気に痺れる様子みたいに見える。

「何するのよっ」
「日本人形の癖に、キモっとか言うなあ。くそう。式神なんて止めよ。奴隷にしてこき使ってやるぅ」

 耐える人形。力を放出する私。
その戦いの中でも二人は口を閉じることなく言い合い続け、人形はその力に負け、私も力の放出しすぎでへばってベッドに横たわった。

「ぐっ、弱いくせに」
「そっちこそ……痛いくせに」

 なんだか良くわからない心地よい疲労感に囚われる。それはわりと悪いものではなかった。荒い息をつく。

「で、なんで?」
「しつこい。……まあ、いいわ。人を、探したいのよ。あの写真の、小さいほうの女の子よ」
「ああ、あの」

 まだ床屋いってなくて、母親が髪を切っているような。
というか、あのくらいならもうとっくに髪の毛とか気になってくる気がしないでもないのだが。
よっぽど母親が髪を切るのを気に入ってたのだろうか。

「神隠しって知ってるわよね」

 神隠し。
ついさっきまでいた人間がいつの間にかどこかへ消え、いなくなる現象。人攫いではなく、神が隠したと言いたくなるのはいなくなった子供を思ってか。
 しかし、実際は神などではなく、心無き誘拐や、下級の妖怪などの仕業。

「誰も気づかなかったけれど、私はわかったわ。あれは、鬼の仕業よ。匂いがしたもの。でも、人形は歩けないわ」

 だから、人になりたかったと続ける。
私はぽんと、頭に浮かんだ疑問を口にした。

「そういえば、他の家族は? 大体どうしてあんなにモノがあったの?」
「家族は、去って行ったわ。モノは、どこからか家出してきた少女が持ち込んだわ。まあ、あの子は私に怯え、出て行ったけれど」

 なるほど。
もしかしたら、あの家が近くの学校で噂されるようになったのもその子のせいかも知れない。
そう聞いてみると、『きっとそうね』と答えた。

「で、なんで急に力が溢れたの? そしてそれはいつから?」
「力が増しだしたのは、最近。理由は、わからない。
あなたが理由のようにも感じられたし、そうでないようにも感じられた。ともかく、関係はありそうだと思うわ」

 その言葉に腕を組んで悩む。一体、何なのだろうか。
 みんなして、私が関係あるって言うし。
 でも、まだ情報が少なすぎてわからない。
だけど、退魔行をやっていれば、そのうち謎もとける気がする。

「で、あんたの名前は?」
「……夕玉(ゆうぎょく)よ」
 
 夕玉はすっとこちらに指を差し出す。

「約束しなさい。あの鬼を探す手伝いをすると。なら、私もあなたを手伝うわ」
 
 小指を差し出し、結ぶ。
にっこりと微笑んで……。

「奴隷契約完了〜」
「根にもつわねっ。第一あんた笑顔キモいのよっ」

 また喧嘩が始まった……。そんな私たちをゴンザレスは面白くなさそうに眺め、ふいっとそっぽを向いた。




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