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*陰みょる者的日々* その十一 |
あああぁ。今日も疲れた。 私は木を背もたれにしながらふうふうと荒く息をつく。 学校が終ったら、訓練。そしてバイトへ行く。 そのバイトだって、ダダでさえ忙しいレストランのアルバイト。 なのに、今日は出血大サービス。 手足に呪具をつけて、でのバイトだ。 呪具には弱い呪いがかけてあり、効果は不幸になる、だ。 曖昧であるが、その効力。退魔の月、白月の技……まあ、清春のやったモンなので確かだ。……う〜ぅ。 ちょっとはめたくないが、つけていれば持続力がつくらしいので仕方がない。 上から何かおっこってきたり、デザートのミカンの皮ですべったり。 ちくしょい。そんなお前に言いたい。 ……バナナじゃないのか。ああ、バナナであったならば、きっと心の中で『ふふっ』て笑いながらガッツポーズができるのに。 と言う感じで訳わからないくらいに正直疲れてます。 ……呪具の力に耐えるには常に霊力を放出せねばならなく、その疲労はすさまじい。 例えるなら一時も力を抜かずにバイトするようなものだ。 片足でずっと立つようなものだ。 グラウンドを百週するようなものだ。 ……嘘です。はい。そのくらい疲れるモノってことなんです。 「はあ、疲れた」 いつもしっかり働き、どんなときでも明るく騒がず、そして貧乏。 清貧って言うのは私のためにあるのよ。 オホホ。そこのまかない、このジッパーの中に放り込んじゃうわ〜んという感じの位置を作り上げていたというのに。 たくさんの失敗に『意外とドジ』が追加されてしまった。 ひどいよみんなー 「しかも」 すばやく走ったおかげで、体には少々の水気しかないが、天からたくさんの恵みが降っていた。 簡単に言うと雨が降っていてしかも傘がない。 前方にある交差点を眺めれば、数秒前の私と同じような……カバンや手荷物を頭の上に掲げ、雨宿りできる場所を探し走っている人たちが見える。 さて、どうしようと悩むわけである。が、雨が上がるまでどっか喫茶店に……なんてお金はない。 「どっかに、傘持ってきてくれる王子様いないかな〜?」 呟いてみた。待ってみた。来なかった。 う〜ん、清春が何かを察しして来そうな気がしたのに。 ためしに別バージョン『どっかに傘持った王女さまいないかな〜?』 ……しかし、こっちもダメだった。なぜか偶然柊が来そうな気がしたのに。 「あ〜、そういえば、バイト先には関わんないでねっ! って強く念を押したような気がするなあ。……でも、どうでも良いときに何故か近くにいるんだし、必要なときにいてくれても良いのになあ……」 冷たい雨、ではなく温かい雨でも体は濡れる。濡れれば冷える。 大きく、ため息をついた。 雨が嫌い。晴れが好き。いつも晴れでいたいと願っている。 これな〜んだ……私。 ……なに、言ってるんだか。らしくないなあ。 左手につけた時計で時間を確認する。もうすぐ、ドラマの時間だ。このドラマは男女ともに人気があって、学校での格好の話題だ。 好きだということもあるし、見ておきたい。 男と女の主人公がいて、二人自体は巡り会わない。 男主人公は情けない奴で、だけど、ヒロインと出会ってからだんだんと魅力的になり数人の女の子に惚れられる話。 女主人公は明るく元気で何にでも一生懸命なのが取り柄の平凡な女の子。 彼女のそんな姿を見てアイドルと美形家庭教師の二人に求婚される。三角関係。 二人の主人公には交流も関係もないのに、主人公たちに好意を寄せるものたち同士には複雑な人間関係があると言うドラマだ。 ……説明すると良くわかんないね。この話。 なんでおもしろいんだろ? でもまあ、男性的意見からの男主人公。女主人公。女性的意見からの女主人公。男主人公、の様々な議論や会話が飛び交い、その日の話題を生むには十分なお話だ。 逆にこれを見ておかないとその日は話に入れず、聞き手に回ることになる。 「……がんばる女は魅力的。がんばる男も魅力的、か。がんばっても報われなくて、でもがんばってない部分だけが評価される女は、魅力的かな? ……雨、嫌いだなあ。なんか、ドラマの主人公になったような気がして、しんみりしちゃうんだよなぁ」 雨は、嫌いだ。晴れは、好きだ。普段考えないようなことを考えてしまうから、雨は嫌いだ。雨は、嫌いだ。 左手の、千円ちょっとのシンプルすぎる時計を耳に当てる。 かちかちかちと規則的なその音が、絶えることなく立てる雨の音を頭から消す。 かちかちかちかち。 雨音が消えて、時計の音だけになっても、目を開けば雨が降り続けている。 「……電話、しようか、な」 そうすれば迎えにきてくれるかもしれない。 一人きり出なければこんな気持ちにはならないだろう。近くに公衆電話を見つけ、雨に濡れながらもそこまで走る。 私は携帯電話を持っていない。何せお金かかるし。そんな私としたら、公衆電話が減るのはさびしい限りであるわけですよ。 「……る、留守……」 何故に。くそ〜。清春の式神達、いつもたくさんいるって言うのにこういうときだけいないんだからっ。 かといえ、人形の夕玉は論外。そう思ったところで閃く。 ゴンザレスに傘を取ってきてもらえばいいんだ。 バイトの関係上、ポケットにしまっていたペンダントを取り出し、胸にかける。 霊力を込め、ゴンザレスを呼んだ。 「ゴンザレス。傘を取ってきて」 呼び出した犬の式神のゴンザレスにそう命令する。 しかしその場でやつはふてぶてしく、それでいてゆったりと座り込む。 「っておいおい。……ゴンザレス、傘持ってきて」 もう一度そう言うと、やつはゆっくりと尻尾をたらし、両前足で耳を覆った。……き、聞きたくもないとっ!? ……雨の、せいなのだろうか? 一瞬沸いた怒気も雨に濡れてしぼんだのか、消える。 「雨、嫌い?」 これといった感情を感じさせない声で自然とそんな言葉が出た。やつはこちらを見上げ、こくりと一度頷いた。 「私も、嫌いだなあ。雨」 私は深く大きくため息をついてから、ゆっくりと電話ボックスの扉を開けた。手だけを外に出す。 当然であるが、幾多の雫が腕を打ち、次第に濡れていった。 「っも。濡れるしかないっしょ。行くよ。ついて来ないと置いていくから。道連れ」 心底いやそうに『くうン』と小さく泣くと、とぼとぼとあとをついてくるゴンザレス。 ボックスから出ると、雨は即座に体を濡らしてゆく。 まず髪が濡れ、雫が体にたれ落ち、衣服が体に張り付く。 後ろを振り向けば、ふかふかの毛がぬれ、何かひどく細く小さく頼りなく、かわいくもなくなったゴンザレスがいた。 視線に気づいたのか、『キュ〜ク』と鳴く。 それが、なんだかとてもおかしくて私は笑い出した。 「こんな、雨の日もたまにはいいなあ」 しかし、ゴンザレスはごめんなのだろう。 わざわざ近づき、体を震わせ、水を払った。 雨の中のその行為は嫌がらせのほかになかったが、それすらも何故かおかしくて。 「くっ、くく、あははははっ。絶対、また雨の日呼んであげるからね?」 そう言うと、猫のように顔を足に摺り寄せてきた。 ……ああ、こういうのならば、雨の日もすばらしいかもしれない。 私は笑い過ぎて出た涙と、顔を伝う雨を払ってから、再び家へと歩き出す。 そのあと、変わったものが見れるなんて思ってもいなくて、私は楽しそうに、ゴンザレスは切なそうに歩いた……。 |
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