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*陰みょる者的日々* その十三 |
人は闇を恐れる。 それは闇が未知であるからだ。人は未知なるものに恐怖を抱く。 であるからにして、今の私はきっと恐怖してる。 怖がっている。驚いている。 こんなことがあっていいのかと叫んでる。 今日は日曜日。 あの後、私は大空君の衝撃的な言葉の勢いにこくりこくりと頷き、気づけばデート日時が決まっていた。 待ち合わせの時間は一時。食事はお互い食べてくる。 ……実を言えばで、で、デートなるものは拙者初めてなわけなんですけど、うう〜ん、ご飯って食べてくるものなのかなあ? 一緒に食べたりするんじゃないの? いや、いいんだけど……。 「第一、もっと大きな問題に今直面してるしね」 そう、大きな問題にぶち当たっているのだ。 ちなみに今の私は普段の私服、ジーンズにシャツとかではない! ひたすらにいまどきの女の子らしい服装なのだ。 古着だけど。フリンジのヴェージュのスカートだけど。 というか、そもそも私は私服をあまり持っていないからね。 貧乏であるのも理由のひとつだけど、学校もバイトも制服だし。 着る必要と理由に薄いのだ。 「ねえ、お譲ちゃん。俺たちと一緒に遊ばな〜い?」 「いえ、相手を待ってるもので……」 「それって女の子? 君くらいかわいい?」 「……男です」 ああ、待つのって嫌いだー。だいっ嫌いだー。 どうして男ってーのは声をかけてくるんだろうか。しかも遊園地前の駅出だぞ? 待ち合わせに決まってるでしょっ! ああ、退屈だ。どうして三十分も前に来てしまったのだろう。 「そういえば、私って一人で誰かを待ったことないかも」 思い起こせば、確かに記憶が無い。 赤坂なんかは遅刻しそうに見えて十分前には必ずいるし、そういえば私の友達は遅刻する奴がほとんどいない。 この間激安ケーキバイキングに行ったときなんてみんながみんな十分前に来るもんだからサービスが始まる前についちゃっておあずけをくらう犬のように皆でケーキを眺めながら話をしていたっけ。 「こーゆー時だけは携帯ほしいなあ」 箱積み上げ整理ゲームことテトリスがしたい。あれとても面白いよ。友達の携帯借りてやったけど昼休み中ずーとやってたし。 そんなこと思いながらため息をつく。ああ、手元が寂しい。 何か本でも持って来るべきだったかなあ。古本だけど。 「なあ」 「違います。知りません。待ち合わせ中です。相手は男ですごめんなさい」 「そうか。冬歌だと思ったんだが。すまない、人違いだったようだ」 「ってあぁっ。待ってって! くらあ、帰るなっ! 止まれそこの美少女転校生っ!」 「……美少女じゃない」 大空はいつもどおりの涼しげな瞳でそういった。 ああ、困るなあ。 向こうは何の動揺も無いじゃないか。なのにこっちはこれだけ揺らいでいると言うのに。 第一、実はデートしたこと無いってのもなあ……。 まあ、もともと遊びに行くのさえそんなに多くないし、仕方ないかなーなんて思うんだけどね。 ……それに、男と付き合いたいと思わなかったし、そんなことしてる時間が惜しいと、そう思っていたから。 でも今は違う。力が使えるようになる。 「あ、あれ? 大空君?」 考え事をしていたら、回りに彼はいなかった。その場をぐるぐる回り周囲を探すもいない。うわあ!? いきなり迷子なのか私ってば! 「……何してるんだ?」 「そ、そっちこそ。どこ行ってたの?」 「ジュースを買ってくるといったはずだが……。頷いてただろ」 そういうと大空は自分用にコーラを。冬歌には熱いお茶を渡した。 ……おい。 「な、何でお茶っ!? そりゃおごりだし文句は言えないのかもしれないけど何でお茶っ!?」 大空はにやりと笑うとお茶の缶を人差し指でつん、つんと二度突く。すると不思議なことにお茶はオレンジに早変わり。 ぽかっと呆けていると彼は腹を抱えて笑い出した。 なんて失礼な。 「ああ、いいな。なかなかいいな。普通の奴にはこんなこと出来ないからな。うん、面白い」 ええ、面白いでしょうよ。 ですけどね。私はぜーんぜん面白くないです。握り締めてる缶を潰してやりたいくらいです。 いらいらとしながらもタダ缶ジュースにほんのちょっとの幸せを不覚にも感じる。 でもまあ不思議なものでなんとなく楽しくなってきたような。そんな気もする。 でも、なんでだろう。どこか胸がちくりと痛む。 この痛みは、なんの棘なのだろうか。 「さ、行こうか?」 「あ、うん」 そう答えて、大空君は私の手を取った。 太陽が空高く昇る時間。駅前。噴水の跳ねる水。 すべてがどこかドラマチックで日常的だった。当たり前で非現実だった。 だから、この目の前の悪夢も嘘だって、そう思っても仕方が無いと思う。 “フロッグパーク”。 げっ歯類はこびるこの地上に何ゆえカエルの楽園が? そんな感じを現代人にお届けする癒し系テーマパーク。 カエルが鳴いたらカーエロなんてギャグの通じない、日本最高の癒しをどうぞ! あなたはきっとここに住みたくなるはず。 カエルのキグルミを着たお兄様(多分)に渡されたパンフレットにはそんな感じの分が書かれていた。 パンフレットは読み終えてしまった。さすがに二度目はいかんだろう。 顔をあげる。四千八百円。そんな膨大な金額が示されていた。 絶望が、目の前には存在した。 「私、前に進めなくなっちゃたよ……」 「いや、なにがしたいかわからんのだけど前の奴らは進んでるんだ。早く進め」 「ああ、お金がー!」 そんなデートの始まりでした。 |
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