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*陰みょる者的日々*
その十五




 愛という言う言葉はそれこそどこにでも溢れている。
街を歩けばどこかで目にするだろうし、歌なんかを聴けばすぐ聞こえるはず。
 けれど実際愛がどのようなものかと問えば答えは返ってこないものだ。
 
 そう、愛は説明しにくい。


 駆ける。駆け回る。
 休日の遊園地には人が溢れかえっていた。快の最高感情である幸せに包まれたこの場ではどうにも冬ねいを探すことができない。
 普段から術に頼りすぎてたせいだ。

 久しぶりに感じる苦労。ため息をつきながらも目を大きく開き、周囲を見渡しながら走る。


 式を、使おうか?
 どこかで隠れてカラスでも使おうか。呼び出し、探させようか。
 悪くはない。鳥ならば広く探させることができるし、幼い頃、この方法でよく見つけてきたわけでもあったし。
 けれど、気が進まない。

 奴は術者だ。カラスに気づく。
 そのとき『君の弟が式神を飛ばしているな』とか言われたら……嫌われるかもしれない。
 どうしてデートへ行くことになったのかはよくわからない。でもそれをつけられたら誰だっていい気はしないだろう。

 わかっている。
 実のところそんなことくらいで嫌われはしないだろう。愛されているからだ。彼女は俺を愛している。
 ただし、家族としてだけれども。なんとも歯がゆいことだ。

 思いがまったく伝わらないのは結構辛い。
 とは言うものの、ゆっくりゆっくりと時間をかけ、気持ちをわかってほしいとと思っている。いや、実のところずっとわからないでいてほしいのかもしれない。
 よくわからない。

 だからともかく嫉妬を見せたくない。今の冬ねいでは『困った弟だ』としかうつらないかも知れないけれど。
 
 辛い、と思ったことはない。
 ただただ思い続けるだけ。

 それにしても同業者相手はやりにくい。


 始めは微かな反発で。
 次はちょっとした恋心。
 そして今は……?


 手で汗を拭う。なぜ、こんなに……。
 心身は人並み以上には鍛えている。
 それはそうだ。下級の相手ならともかく、中級、上級となれば術だけで何とかできるとは限らない。

 霊的な攻撃だけでなく、物理的にも影響をもたれればそれなりの運動能力は退魔士としての必須になるからだ。

 だから、走り続けているとはいえ、この汗は多すぎる。
 レストランのガラスには雨上がりに光る蜘蛛の巣に溜まる雫のようにたくさんの汗がうつっている。
 つうっと首を伝う汗。

 嫌な予感がしだした。冬ねい。どこにいるんだ。

 ホラーハウスの近くで周囲をきょろりと見渡していたときだ。見知らぬ女に声をかけられた。いや、知らなくもない。

「あら。冬歌の弟君じゃない」

 確か、加藤だったか。
 少々の小金もちの家の生まれ。お嬢様という奴である。確か代々と伝わる武家で親はどっかの外資系の社長をやっていたはずだ。

 そのことを知っていのは、依頼で呪いの刀の浄化をやりに行ったからだったが。
 彼女の母は刀に魅入られ、魂を吸われていたので、刀から無理やり吸い返して元に戻したのだ。

 彼女、加藤 千佳(ちか)と違い、和風の慎みある女性だった。逆に彼女は洋風。腰の高さがずいぶんと高く、目もぱっちりとしている。少し険しいが。
 かといって顔立ちは深いわけではなく、わりといい割合で洋を交えた、と言う感じだろう。

 世間的で言えばそこそこ美しいのだろう。周りの存在のせいで少々基準がおかしいからよくわからないのだが。



「奇遇ね。一人? そんなことないわよね」
「いや、ひとりですよ。千佳さんは?」
「ふうん」

 だから? こっちは忙しいと言うのに。冬ねいを探さないと……。 

「さっき冬歌を見たんだけどね。ほんとに一人じゃないのかな?」
「姉を見たのですか?」
「ええ。……でも、一人なんでしょ?」

 どうやら素直に〜にいたと教えてくれないようだ。
 ……さて、どういうつもりなのか。変な話を持ち出されたら困るな。相手は冬ねいを敵視しているらしいし、……そういえばラブレターをもらったことがあった気がする。
 簡素とはいえ断りの手紙は毎回書くことにしてはいるが……。

「デートをしない?」
「……は?」
「デートよ。遊園地で男女が出会ったのだもの。おかしくはないでしょ?」
「……出会ってから行く場所だと思ってましたが」
「普通はそうね」

 何を言い出すかと思えば……。

「何か乗り物に一緒に乗ってくれるだけでいいわ」
「……それなら。だけど姉を見たのはいつごろですか?」
「ついさっきよ。それに会話も聞こえてきたからどこへ行くかは見当がつくわ」
「……お付き合いします」

 これだから学校の知り合いはめんどくさい。いつもいい顔を皆にしているからだと言われたが、……学校はあまり好きではないから。
 どうも人間の匂いが好きじゃない。嫌いではないがなんとなく居心地が悪い。

 だから無難に、真面目にひっそりと生きようと思っていたのだけれど、妙に人を煽るのが得意な友人を持ったせいでいつのまにか人気になっていた。

「ふふっ。あんなに人気なのに誰とも付き合わない王子様と一緒にデートができるなんて嬉しいわね」
「王子様、ですか」

 そうよーと笑って先に進む加藤。……なぜ、こんなことをしたがるのだろうか。ため息をつく。こんなことをしている場合ではないと言うのに。

「そういえば、さっき会話、と言いましたね? 冬歌ねえさんは誰かと一緒にいたのですか?」
「……さあ、ね」
「そうですか。転校生の大空さんと一緒に行ったのかな? と思ったのですが」

 その言葉にぴたりと彼女の足が止まる。……なるほど。彼女の今のターゲットは大空でそれを見てしまったからこんなことを要求しているわけだ。
 だとしたらもしかしたら今から乗る乗り物には二人がいるかもしれない。

「さあ? 後姿だったからよくわからないわ。それより早く行きましょ?」

 よく言う。



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