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*陰みょる者的日々* その十六 |
……気持ちはどこにあるのだろう。 横を歩く大空君。 気持ちはどこにあるのだろう。 始まりは力が使えるようになるというエサに酔い、次はそのためなのだからと自身を説得したことによる、デートへの喜び。 というより、誰かと遊ぶことが、かも知れないけれど。 男と遊んだことなかったなーなんて。 思うわけですよ。私は。 女同士でね、遊びにいったりはしたよ。 ケーキ屋にもいったし、服(古着)も買った。フリマ(売り子)も体験したさっ。ラーメン屋に行ってニンニク入れまくってみんなで息吹きかけあったりもしたぞっ! ……なんでだろ、胸に影がかかる。 「悩むな冬歌っ! 当主の道はすぐそこだっ」 「ん?」 「やーなんでもないよ。うん」 やっぱそうなんだろうなー。罪悪感なんだろうなー。 だって、力のためにだけにこっちはデートしてる。 向こうが何を考えてるのかわからないのも要因のひとつだ。 「ねえ、あのさ、なんで、デートなの?」 「……へえ? 冬歌はもっと深いのが好みか?」 「ち、ちがっ。そうじゃなくて、どうしてデートしようと思ったの?」 「さてね?」 振り返り、問いをクスリと笑って誤魔化す。いやだなあ。そう言うの。余裕の笑みだ。どっかの誰かみたいな笑みだ。 知ってるものと、知らないものの違いだ。 「さてねって……」 けれどおもしろいなあ。乗り物。 じぇっとこーすたーこーひーかっぷー。お化け屋敷でカエルが手に触れたときは死んじゃいそうなくらいびっくりしたなー。 こんなことならみんなと言ってみるべきだったなあー。一年生の夏休みに誘われてたのに。 まあ、貧乏で行けなかったけどさ。 周囲を見やる。当たり前だがカップルが多い。家族も多い。 そんな中、駆け引きでデートする私たち。 (さっぱり、わからないなあ) わからないものはしょうがないと言う意見もあるにはあるけど……。大体、 「そもそも、本当に力が行使できるようになるの……?」 「……なるよ」 「え?」 独り言のつもりだったのだが。どうやら口に出ていたようだ。さらに 「なる。内にある力を行使できるように。でもそのためには波長を合わせておきたかった。……ちょっと試してみるか?」 大空君が私の頭に手を載せた瞬間……ものすごい吐き気と虚脱感に体が折れる。その場でへたり込む。 きもち、悪い……。 視界が変だ。ぼやけて、鮮明になって、ぼやけて……鮮明になる。 それを繰り返してゆくと次第に視界が遠くなる。今までだったら見えない距離ものもがはっきりと。 聴覚は正常のようで、周りの『どうしたのかな? あの子』とかそういった類の声が聞こえてくる。 ……さらに変化が進む。この感覚、例えて言うなら目の悪い人がめがねをかけた感じ。その変化が徐々に訪れている、というか……。 変化が止まると今度はある一点以外の周囲がぼけ始める。 その一点は……。 「きよ、はる?」 弟が目に入った。 「他にも、見えないか?」 見えた。清春が、なぜか加藤と一緒にいるところが。 仲良く腕を組んでいるところが。 ……なんでだろう、少し胸が痛む。 清春の困ったような笑顔が驚きに変わって……見えなくなった。 望遠鏡で遠くを長く見た後みたいな感じで視点が合わない。ゆらゆら揺れる。 気持ち悪い。 「今のとこだとこんなもんだな」 「なんで、清春が……?」 「弟くんは冬歌と波長が合いやすい。力に目覚めればこのくらい普通にできるのさ。術を行使せずともね」 大体元に戻ってきた。 私は立ち上がり、その場を離れようと促す。彼は返事をすると私の腕をつかみ、引っ張った。 なんとなく、されるがままに歩く。 「ねえ、清春も私のことわかるの?」 「……わかる。けどわかってない可能性はある。ここにいるかな? と思って探ればわかるけど、普通、遊園地に来るたびに知人は探さないだろ? 多分わかってない。わかっているにしては距離が曖昧すぎる」 「曖昧ってどういうこと?」 歩くスピードを変えないままに彼は小さく嘆息する。やれやれと言った感じが先ほどの気持ち悪さとあいまっていらだちに変わる。 強めにもう一度問う。「曖昧ってどういうこと?」 「ひとつ。いまだ接触……話しかけてこない。ひとつ。目で確認できるほど近くではない。ひとつ。かといって察知できないほど遠くではない。つまり、冬歌の存在を知って避けているわけでも、つけているわけでもなさそうってことだ」 「そう、なんだ」 「さあ――」 大空くんが月のような、どこか静かで、何かが惹かれるような……帰りたいと願うような笑顔を浮かべる。何処へ。 「ゆこう。ここでないどこかへ」 手が、引っ張られた。 |
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