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*陰みょる者的日々* その十九 |
強烈な視線を放っただろう場所へと走るもその場にはもう誰もいなかった。 苛立ちが体を襲う。焦りが心を削る。 「冬ねいっ。冬ねいっ」 なぜ、幸せになれない。 人の邪魔にならないようにベンチへ座り、目を閉じる。園内に放った式達の視覚にリンクさせ、チェックする。 どこだ、どこだ、どこだ。 しかし、なかなか見つからない。外ではなくどこか室内にいるのだろうか。だとすればそのうち外へでて…… いや、もし、もし……その中で何かあったら――? 自身の想像の寒気にうっかりとカラス達とのリンクを切ってしまった。 再び繋げようと目を閉じたとき、足元から小さな声が発せられ続けているのに気がつく。 それは、植物の声であった。 「……式のほうに集中しすぎていて気がつかなかった」 足元に生える雑草では声が小さすぎる。清春は辺りを見回し、大き目の木を探して駆け寄る。 「何か、何か伝えたいことは?」 「樹さまより」 木は枝をざわわと揺らし、歌うように告げる。じゅさまより。 長い年月を生き精霊を宿す、または精霊になる樹木は彼らからすれば高位にあたり、樹さまと称えるらしい。 精霊でない植物達は個というものに乏しい。だがその分情報を集団で少しずつ保有していることにより膨大なネットワークを作成している。 「樹さまより、お言葉を。【柊です。ケロケロロミラーハウスが怪しいので中に入ります】」 「……ありがとう」 どうやら何かを掴んだようだ。闇雲に走っていたときよりずいぶん心が軽い。だが、核心に迫っているというのであれば、危険にも迫ってる可能性があるということだ。 急ごう。 ケロケロロミラーハウスの場所を知るため、案内板を探し走っていると、上空より一羽の大きめなカラスが舞い降りる。鷲や鷹のような鋭く、高い品位をなぜか感じさせるカラスだった。清春の操るカラスたちの頭だ。 『主様。大空という男を見つけました』 立ち止まり、考える。さて、これは一体どういうことだろうか。大空のいる場所は今日はないヒーローショーの舞台。 非常に何がしたいかがわかりやすいところだ。すなわち対決か。 が、しかし冬ねいがケロケロロミラーハウスにいるというのなら、そちらへ行きたくもある。第一決闘が単なる時間稼ぎで本命はそちらである可能性だってあるのだから。 かといってホントにミラーハウスにいるかといえば……断言できない。 木を力で偽るのはかなりの困難だが、木々は樹さまと言っただけで、そういえば柊とはいっていない。向こうに植物系の式がいるのならこの伝言は可能だ。 先ほど言ったとおりに個に乏しいので、樹さまは誰でも樹さまだ。 「さて、乗るべきか、反るべきか……」 迷ったときは己の感情に従おうか。 「来たな」 「来たとも」 普段は眩しいほどの光に照らされ輝いているであろう舞台は暗く、その中央に一人の男を乗せているだけだった。 清春は横に備え付けられた階段を上り、舞台に立った。 「冬歌に危害を加えるものは誰であろうと排除する。そう言ったはず」 「覚えてるさ。シスコン。でも、お前にやるにはもったいなすぎる。力を目覚めさせ、主のための糧とさせてもらおう」 「無理だ。お前には」 大空は手を天に掲げる。 『刀よ』そう唱えるだけで瞬時に美しい曲線を持つ刀が現れた。飾りが少々無骨であるけれど、切れ味の鋭さには疑いがなかった。 どうにも本気らしい。 「さあて。見せてみろ。白月の力を」 ビュン、ビュン、ビュン。触れれば肉どころか 骨を断ち切ってそれでもお釣りがくるほどの驚異的な速さで刀が触れれている。 だがその目で終えぬの速さの刀をあらかじめ軌道の決まりきった……殺劇のように軽やかにかわす。 目、足、手、頭。全身の器官に力を込め、強化する。今の清春はボクサーやプロレスラーが束になってかかっても傷一つ負わずに始末できるほどの力がある。 足を狙い、横なぎに振られた一撃を軽く飛んでかわす。大空はそれを好機と見、なぎ終えた刀をそのまま遠心力に任せ振り上げる。 一刀。天より地への振り。 だが清春の体はすでに強化されている。 右手の指で刀を掴み左手でもって刀の腹を叩く。万力をとうに超える拘束力と衝撃により刀は容易く折れる。 「なるほど。現実の武具ではどうにもならないか」 「降参したらどうだ? 意外に強いのはわかったけど、俺には勝てない。あんたの負け」 「血を……」 「ち?」 「同じく鬼の血を引いているにわからないんだな。お前は」 「?」 強烈な存在感を感じる。それは冷たく、そして恐ろしいものだ。二流とか一流とかの定義を超えた存在がそこにいた。人で無いもの。すなわち、鬼が。 「鬼か。なるほど。冬ねいを狙うはずだな」 今まで出会った何よりも強力な存在。勝てるかどうかなどわからない。むしろ負けるかもしれない。けれど。 相手が冬ねいを狙っていると言うのならば。 「魔は滅する」 宙に印を描き、呪を唱える。 すると清春の周りに三人の精霊が現れた。 「つばき。えのき。はぎ。式の樹よ。四季の呪よ。我が力となれ」 「四季……式ね。だが一人足りないな。まあ、残りの一人は冬歌と共にいるようだが」 「馴れ馴れしく名を呼ぶなっ」 人の姿でなくなった大空。今の姿は鬼だ。鬼といっても下級のそれとは違い、その体は美しく、神仏の像が命を持ったかのようだ。 それが恐ろしい速さでもって拳を振るう。 椿の力で守られ、さらに言えば直撃でないのに体が宙に舞う。鉄で組まれていたステージはその衝撃にひしゃげている。 「……あんた何者? タダの鬼の力じゃない。それこそ鬼神のようなレベルだ。現世でこんな兵器みたいな力を行使するなんて……」 「鬼神ね。まあ、当たりだな。十二神将が一人、大空。それが正体だ。だが、鬼神のような、はお互い様なはずだ。なぜ俺に対抗できる? 数百年を生きた精霊を用いたとしても、人間的には可笑しな力だろう?」 「それは……」 大空はクククッとこれ以上に面白いものはないと言うような笑みを浮かべる。そして触れられたくないモノに触れた。 「それは白月当主の陰謀だからだ。特上にまで高められた肉体が呼んだ魂の大きさは人には手に余る巨大さだった。だが封印し、使いさえしなければ次の子供の力を増す効果が期待できた。清春。お前はその大きな力を守るために存在するんだろう? 当主の飼っている鬼の女の子供。それがお前の正体で力。そして、次世代へとつながる肉」 下唇をぐっと噛む。大空言うそれはある一面での真実であったからだ。すべての真実ではないものの、改めてそれを前にすれば言いかえす方法のなさに心がおちる。 「違うっ! 違うっ!」 榎の力でさらに身体能力を上げ、殴りかかる。一打、二打、三打。顔、胸、鳩尾。乱打。乱打。出しうるありとあらゆる種の力でもって打つ、打つ、打つ。 けれども大空は身動きひとつせず、その様子を見ていた。 そう、小さな子供のする哀れさを見つめるように。 「……呼んでみろよ。もう一人を。式の冬、柊を」 しかし……。確かに現在力を増し、撃破、または退却するには柊の存在が必要不可欠だった。鬼払いの精霊である柊。 その存在がいればどれほどの力を持つか。 だがその柊は冬ねいがいるだろう場所へと行き、戻ってきていない。内部にて交戦中だというのならば、今柊を呼ぶことは冬ねいのピンチを招く。 二者択一。呼ぶか、呼ばないか。 「……呼ばないのが正解だ。呼べば冬歌は死んだ。だがどうする? このままだとお前が死ぬぞ?」 だとするならば、結局のところ正解はない。ただ、時間が稼げるだけだろう。たとえ柊を呼んだとしてもこの力を前にどれほどやれるか。 正直、勝てるかは五分だ。 なら今は柊が冬ねいを助け、どこかへ逃げるのを期待するのみである。 「さて。さっさとお前を処分して冬歌の元へ行くかな?」 「させっ、ない!」 全ての力を解放する。肉体への負荷や防御壁を考えれば全力は70%程度に留まってしまう。だが、それらをまったく考えなければ……火事場のバカ力のようなひどいものであるが、十二分に対抗できそうであった。 しかし、と考える。 これが無力ということなのだろうか。助けようとしても助けられず、すべての力を持っても障害を越えられず。 強すぎる力ゆえに今まで出会ったことのない困難に清春は冬歌の心の嘆きの実感を持った……。 |
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