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*陰みょる者的日々* その二十二 |
「な、流れ込むフルパワー!?」 「いや、意味わからん」 力が流れ込むほどに夕玉は身長を高めてゆき、ついには私くらいになった。近づいて比べてみると少しばかり負けている気がする。 人形特有な白い肌はそのままで、だが生気が宿り、美しい日本美人、撫子が完成した。 「ず、ずるい……。柊でなれてるつもりだったけどずるい……」 「ふん。お店のもらい物ばかり食べているから二`も太るのよ。自業自得だわ」 「知ってたのっ!? 人形だからって、太らないからってぇ……あれ、今も人形なの? ……人間に見えるけど」 ミルクのような肌はつまめばやわらかく、しっとりと吸い付く。髪だってそれはもう美しく長い。 ……ああ、憧れの長髪。動くのに邪魔だからと今の家に住み始めて切ってしまったが、未練があるなあ。 つまんだことに苛立ち怒るかと思い、顔を見てみればそこに浮かぶのは余裕の笑みだった。おのれ。 力いっぱいつねるとさすがにその笑みもゆがんだ。 「……まあまあ。彼女は人間ではありません。私と同じような存在と言えますね。人になどなろうとしてもなれるものではないですよ。ですが夕玉。主頼りの部分があるとはいえ、十分な姿でしょう?」 「そうね。冬歌より美しいのがいいわ」 「美しくなんかないやい」 「まあまあ。とんとんですよ。ね。それより、夕玉、人形でありながら力を自由に行使できたあなたならばこの結界も破れるはずです。さあ、お願いします」 夕玉はこくりと頷くと静々と慎み深く、美しく歩き、結界に触れる。見えないガラスがあるように手は止まり、進まない。 「掛け声とかはいるのかしら?」 「力が出せれば何でもいいと思いますよ。私たちは、ですけどね」 夕玉は“壁”を撫でるように上下する。ああ、なんてドキドキするんだろうか。夕玉の力は私の力。ああ、壁とかそういうすごいのも壊せちゃうのか。 それにしても精霊とかはずるいと思う。あんなに美しいなんて。 ああ、日本美人、日本美人……。清春の精霊にもいたけれど、夕玉は髪が長くて美しいからなあ。ああ、中身さえ考えなければ素敵だぁ。 じっと見ていると夕玉は小さく唇を動かした。 「I wish Muscai to be broken to it.」 英語かよ。日本人形なんだから日本語話せよと言いたい。しかし、それでもしゃべる姿に清水のような甘さがあった。 結界はぴいいと耳障りな不協和音と共に砕け散り、霧散する。それと共に人々の声が、ざわめきが聞こえだした。 混乱の感情が伝わってこないことからどうやら私たち以外は普通にこのアトラクションに参加できたようだ。 ミラーハウスを飛び出し、私たちは戦いの舞台へと走る。 「清春っ!」 私たちが駆けつけたときの清春は酷い状態だった。体のところどころにしか赤く染まっていないところはなく、特に左腕が酷かった。 刀が刺ささり、途中で折れている。しかもそれをした相手がゲームや漫画のような鬼、なのだ。 そんな弟の姿に現実感が伴ってくれない。 「冬ねい……。力、目覚めたんだね、おめでとう」 そんな状況なのに、こんなときなのにそう言える弟にちょっと涙がこみ上げる。そしてそれと同時に怒りがわいた。 「許さない!」 「さて、そうなのか? 存在するだけで周囲の霊的な存在が強大化してしまうという能力の持ち主がいると知ったとき、どうする? ――当主殿」 せせら笑うように肩を揺らす。鬼面が緩み、動く。けれども目だけはこちらの動きすべてを注意し続けている。 能力を止める方法を探す、などという言葉が口から漏れそうになるが、彼にとってのその方法が、これなのだろう。 「それでも、許せないと言うのなら……来るがいい。我が敵よ。来るがいい。その命でもって。力でもって」 「……くう。なんともいう言葉がないし、確かに私が冬歌でなく、当主なのなら、そう判断するかもしれないけれど、でも、やっぱり正しいとは思えない!」 「正しいことしか選べぬというのなら、やはりお前は子供だ」 そうだろうさ。うちの家系は正義を守るためにならと鬼の血を混ぜれる人間だ。弟も私も鬼の血が混ざってる。なのに目の前にいる鬼神様には吐き気がするさ。 矛盾もあるよ。守りたいものもたくさんあるよ。 自分が死ねば弟も助かるし悪鬼の手にかかる人も減るかもしれない。でも死にたくないって思うよ。その癖に退魔の月として皆を守りたいとも思っているよ。 矛盾しているね。でも、どれか一つを選べないから。 ――なら、全部を選ぼう。 「証明してやるっ! 戯言を真実にできるって」 柊は清春の側に控え、大空は刀を握り締めた。私は戦力である夕玉をみ――たが、全然準備をしていない。じっと、だがここを見ていないような不確かであいまいな眼でもって大空を見ている。 (夕玉! 何してるの!) 小さくたしなめるように言うとぴくりと震える。睨み付けるような表情に変化する。 一体、と尋ねようとしたら彼女はびしりと大空を指差す。 「私の主人を浚ったのはあなたね!」 な、なんだってー!? ……探偵に驚かされる人の気持ちが判ったような気がした。 |
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