back/home/index/next
◆白夜◆





 

 

『学校を辞める? 』

 ぽかぽかと暖かい陽気のなか、俺の友人が声を上げた。

「ああ」

「なんでだよ。もしかして、見つかったのか? その、治す方法が」

 友人――ガルはその答えが違うということを瞬時に悟ったようだ。まあ、見つかっていたら明るい顔してるだろうしな。

「だから、だからもう、あきらめるのか? 全部を? この学校に入ったのだって、魔術医療とアーティファクトについて学んできたのはあの子のためだろ? もうどうしようもないからあきらめます……なのか? 」

 ガルはぐいっと顔を近づける。その顔は真剣そのものだった。

「それっておまえらしくねえ。おまえらしくねえよ! 俺は認めねえ! 」

 俺はふうっとため息をつく。ヒートアップしてるこいつにはその行為も苛立ちの元らしく、さらに怒りを強くしたようだ。

 むう。

「熱血してるとこ悪いんだが、別にあきらめたから学校を辞めるんじゃない」

「……は?」

「実はじいさんとけんかしてなー。仕送りカット。しかも、家からも追い出された」

「はあ?」

「んで、住むとこないのはさすがにまずいからな。親父の持ってたお店に住むことにした。すごかったぞー。ほこりまみれで」

「……はあ」

「せっかくだし、まあ、いっちょ宿屋でも経営しますかーってことでな。ん? どうした? なんか疲れてるようだが」

 ガルは、はあっと深くため息をつく。なんだか知らないがだいぶお疲れのようである。

「おまえ嫌い〜」

「はいはい」

 そういうと、ガルはとぼとぼとどこかへ去っていった。

 友達思いなやつだ。

 それはさておき。俺にはやることがある。

 俺は気持ちよい風の吹くバルコニーに別れを告げる。まあ、これで最後だからな。ここも。

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

 カシュ。

 いい音を立ててドアが開く。ご大層だがここは図書室だ。ただの図書室ではないが。

 俺の通う学校は普通の学校と違い、5年制の高校だ。しかもこの国随一のトップ校ってやつで無論人気も高い。

 さらにいえば制服もかわいい。

 ついでにさらにいうと、食堂もうまい。とくにりんごパイが絶品だ。

 あまりのおいしさと人気のあまり、りんごパイ殺人事件〜湯煙燻製いいかおり事件〜が起こったとか起こんなかったとか。

 まあ、そんな偉大な高校は入学してから一年のうちに自分の進路をある程度考えさせる。無駄には時間を過ごさせてくれないってわけだ。

 俺が選んだ道は魔術医療の道とアーティファクト研究の二つの道だ。

 別に欲張りなんじゃなくて、二つは選ぶんだ。いっておくがな。

 ともかく。俺は今までがんばってきた。それこそ死ぬ気で……だ。

 だが、どうやらその努力は――

 

「入らないの? 」

「ん。ああ、入るよ」

 開いたままの扉の前で回想にふけっていたいち妄想男であった俺はその声に我にかえる。

「……学校を辞めるの? 」

 あいているイスに(といってもこの部屋にはほかに誰も今はいないようだが)座ったそいつは俺に今日二度目の台詞をぶち当てた。

「同じやり取りは好ましくないんだが」

「そうね。で? なんで? 」

「じいさんは今までマナに自分のを跡をついでほしいと願ってた。別に風竜王国は長男が家を継ぐとかって制度はないしな。それにかわいい娘をもってった親父に似てる俺より母さんに似てるマナを大切にするのも当然だ。だけど、マナが病気でもう、長くないと知ったらあいつは手のひらを返して俺に期待をしだしたんだ。だから、勘当されて家を出た。そのせいでここにはこれない」

 

 フローラは……ああ、俺の前にいるこの女の子の名前だ。こいつは俺の目を見てやわらかい笑顔を浮かべる。やさしげに。

「演技派だったんだね。初めて知った」

「お前がそういってくれるならそうなんだろうな。まあ、さっきのが一応表向き。ホントはもう、マナが直る見込みがないから、一緒にいてあげたい。それだけだ。いままで、勉強ばかりしてきたし、ここに来る前は親父と修行してきたし。なんにせよあんまり一緒にいなかったから。じいさんに頼み込んで俺を勘当してもらった。金は親父が隠し持ってた大量の医療系アーティファクトをうっぱらえばいくらでもなる」

 

 俺の親父は変な親父だった。ひたすら。本が好きでいろいろ買ってくる割にシリーズでそろうものはなし。ジャンルはなく、理由を聞けば知識は無差別に得るからこそ。とかなんだとか。

 しかも、自分の息子に変な修行をさせたり。料理人のわりには世界中で格闘技大会や大食い大会、はたまた世界一かくれんぼ大会の優勝者だったりもする。俺にとっては最大の謎の人物であった。

 しかしまあ、ただ遊んでたんじゃなくてマナを直すためにがんばっていたのかと思うとじーんこなくもない。

 

「悲しい? 」

「俺は演技派なんだろう? 勝手に察してくれよ。……心が読めるんだから」

 彼女は人の心を読むことができる。その能力の原理はいまだかつて解明されておらず、ただただ謎だ。魔術と違う力。EXと称されているこの力は魔術の限界を簡単に超える。

 例えば未来予知。時術・空術と一応分野される力と同じではあるが、それは召喚英雄王と称される歴史上はつのすべての神竜を操った人間だけが使えた術だそうな。

「最近力加減ができるようになってきたから……。あなた相手だけだけど」

「……悲しいさ。でも、あと一年くらい……とか医者が言ったからな。逆によくわかんないな。けど、なんか今まで体に満ち溢れてた何かが抜けていったというか……」

「きっと大丈夫。数日以内にその抜けていったものが戻ってくる」

 そういうと、フローラは席を立つ。

「さよなら。偶然にも私もここをやめるの。だからさよなら。最後だから言うけど、セトのこと少しだけ好きだったよ」

「そっか」

「じゃあ……」

 俺はそういって席を立ち、出口へと向かうフローラの手をつかむ。

「“たがえしこの道、再び交わらんことを”ってな」

 フローラは小さく笑う。苦笑したように。

「それなら、挨拶を変えなきゃね。じゃあまたね……」

「ああ、またな」

 こうして彼女は学園を去った。これには数々の事情があったのだが、それを知るのはまだまだ先のこと。

 

「俺も……帰るか……」

俺は、借りだめしていた本を返すと部屋を出た。

 

 

モドル><メールフォーム><ツヅキ
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
Copyright 2003 nyaitomea. All rights reserved