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◆白夜◆





 

 

「ってなんで私こんなことしてるんだろ……」

 シモンは自分のカッコと状況を思い出し嘆息する。

 場面は明るく陽光さす商店街……から少し外れた暗い横道。

 いわゆる暗がりであり、夜であれば若い娘はどこぞと知れぬ深い闇に連れ去られるようなところだ。それにもかかわらず、シモンはそのことには気を止めていないようだ。まあ、靴先がねちゃねちゃと音を立てることに少々腹を立てているようだが。

「それはもう、観光旅行しているからじゃありませんか?」

 その横にはこの世にあまたあるメイドのなかからベストオブメイドを選んだようにメイドという名がぴったりの女性がいた。

(観光旅行ならメイド服で来るなっ)

 そう思わなくもないが、どうも彼女の場合メイド服は趣味だ。なにせパジャマもメイド服をかたどって作ってある。オーダーメイドだとか。それを知ったときは体に戦慄が走った。

「こんなとこ観光するわきゃないでしょうがー。はあ。私もせっかく男装しなくていいんだからお茶のひとつや二つに誘われるべきだったなぁ……」

 この国の第二王子のクリスはいわゆる美少年……らしい。ちまたでは写真だの絵だのが売り買いされているというのだからまあ、そうなのだろう。もっとも、その美少年に自分は変装して何とかなっているという現実があると考えるだけで疲れてくるが。

「なら今からでも遅くはありませんよ?」

「マリアちゃんだって。前から温泉つかりに行きたいなーとか言ってたじゃないですか。いいチャンスなんだから行ってくればいいんじゃないですか?」

「私は……クリス様が心配ですし」

 結局のところそういうわけだ。今、二人はこっそりとクリス王子の後をつけている。一ヶ月間の猶予は遊びにも使えるが、正しい使い道は腕の立つ仲間を集めることだ。

 クリスとその兄ジョイルでは確かにできには差があるが、年齢という差がそれを縮めている。一対一の殺し合いならば、どっちが勝つかわからない。だが、今回は四人の助っ人ありなのだ。ここで集められなければ五対一。勝ち目はないし、相手は弟であるのに毒殺をためらいなくたくらめる相手だ。殺害に躊躇はあるまい。

(とことん面倒を……)

 そうは思いつつも結局はこうして見に来てしまっている。まあ、仲間探しが軌道に乗るまで……くらいなら。などと自分で決めてしまっているのもなんだか悔しい。

 それにだ。シモンは今日の朝のことを思い出した。なんと朝早くシルフィード王が訪ねてきたのである。王子の変装をしているとはいえ卑しき身分の娘を……である。ありえないとは思ったが、てごめにでもされるのかと思った。

 自分の息子にゆがんだ愛を〜な母親を持つ貴族の話なんかは女官やらの噂話では嫌というほど聞く。実際の息子でないし女なのだから何の問題もない。そんな馬鹿なことをちょっとだけ考えたところで王は言った。

『この騒動はわが国だけの問題にしたい。クリスからは休暇をもらっているだろうが、何度か国際交流の場がある。そのときはクリス王子として参加してほしい』

 ……ふざけるな。子が子なら親も親か。

 そう思いつつもしょうがないなと思ってしまうのは彼らの魅力か自分が底なしのお人好しだからか。

 

「あ、なんか背の高い男に絡まれてます」

……本当に面倒をかける。

 

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

 

「ユーが私のようなダイナミックなガイを探してる少年かい? 」

 クリスの前にどう考えても190はある大きな男がいた。

 自由を認められたクリスは早速とばかりに暇なときに書いて溜め込んでいた魔道書やアーティファクトを売り払うと街中の飲食店を食べ歩きながら腕のいい仲間を探したのである。

 まあ、その結果がこの大男なのだから自業自得。考えなしの行動の結果ではある。

 男はどう見ても普通ではなかった。中途半端に古代語である英語を混ぜてるし。魔道士として優秀だったクリスだから理解できるがきっと周りの人間は男が何を言っているかちんぷんかんぷんだろう。

「え〜と、なんというか……人違いです? 」

 あやしさうんぬんもそうだが、どうもあんまり強そうじゃない。魔道士かぶれであることはもう、一目瞭然だ。けんかは強そうだが……。

(サラさんならこの人速攻で殴るだろうしなー。この人入れてサラさんが入らないとかいうとやだしなー)

 とりあえず断ることにした。

「なんとっ!? このダイナミック・パワフル・ワイズマンなマイケル=ダンディー様が仲間になってやるというのに……。ボーイ! 遠慮はいらんぞ!?」

「してません」

「ヤングなのに謙虚なやつめ」

「ちがいます」

「ユ――」

 マイケル=ダンディーという大男は何かを言いかけたようだが、突如現れた黒衣の人間にみぞおちを殴られるといつの間にか現れたもう一人の黒衣と二人で暗がりへと連れて行いった。

「なんてあやしいんだ……」

 クリスはまあいいやとつぶやくと今度は有名なたこ焼き屋さんへと赴くために足を進めたのであった。

 ほんのちょっと彼らみたいなのなら仲間にしたいなーとか思いつつ。

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

「ふっふっふっ。完璧ですね。シモン様。見事に怪しまれることなく障害を削除できました」

 シモンはその言葉にいろいろとツッコミたかったが、最後の削除の言葉で気を変えた。

(こわっ。この人こっわ〜〜)

 暗がりに障害な男を置き、二人は茶店で一息つく。少々男が無残である。

「なんだかこうしていると不思議と充実感あふれますわね〜」

 メイド服のままお茶を幸せそうにすする彼女を見てシモンは朝、王が訪ねてきてくれて本当によかったと思った。二ヶ月もこの人に付き合うことにならなくて。

 普段は本当にやさしいよい人なのに、なぜクリスのことになるとこんな人になるんだか……。本当に不思議でならなかった。

 

 

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