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◆白夜◆





 

 日は落ち、闇が世界を支配する。

 その中をその支配に抗らうかのように光り輝く二つの月。

 いや、その月こそが……闇夜の真なる支配者だと……そう感じずにはいられない程の魔性の光。

「やっぱ、やりきれないものがあるよな。一年って具体的に数字が出るとなあ……」

 俺は宿のテラスに出る。広めのテラスはまだ掃除が行き届いていないせいで埃の絨毯が引いてある。

 躊躇をせずにその上を歩く。まあ、靴履いてるしな。

 手すりの埃を手で払ってから体重を手すりに預ける。

 いい夜空だった。

 空いっぱいの星。手を伸ばせば届いてしまいそうなほどに。

 

 死んだ人は星になる――。

 

 誰が言った言葉だったか。コウノトリのような、今聞けばくだらぬと一笑に伏せる類の言葉。

 でもその言葉にすら今は不吉を覚える。満天の星。

 そのまま長い時間星を眺める。一年のうちでも暮らしやすい春……しかし風竜王国での春とはいえ、夜長時間外へ出ていれば体が冷える。

 (そろそろ戻るか……)

 そう思い体を起こそうとした時、流れ星が流れるのを見た。

 「マナが直りますようにっ! マナが直りますようにっ! マナが直りますよう――」

 『に』と言えたか言えなかったか位で星は消える。

 ちっ、これじゃ効果ないかもな。

 

「星に願いを……か。意外とロマンチックなんだね」

「意外ってなんだ」

 そういってから気づく。誰だ? ここは宿のテラスだ。来る道は宿からの階段ひとつだけ。だが、それを上ってきた音はしなかったしなによりまだ宿には人を泊めてない。

「あんた誰だ?」

「定番過ぎて笑えやしない……ね。まあいいや。まず名乗っておくよ。ボクの名前はルカ。そう呼ばれている。まずはこちらを向きなよ。失礼だろう?」

 俺は手すりから体を離し、後ろを向く。

 そこにいたのは黒を主とした服を着たかわいらしい少女だった。それだけなら何の問題も無かっただろう。不法侵入あたりは置いといて。

 問題は少女の背中に光輝く一対の白い翼。

「天使……!? んなまさかっ。英雄召喚王に天使と悪魔は……」

「そう、封印された。彼の強制力があったとはいえ、自分たちの意思だから引越しみたいなものだけれど。

まあ、キミが聞きたいのはボクらは封印の地……あの空に輝く月から出られないという事実、かな。ここだけの話、数百年に一度だけ月とこの地を結ぶ道が開けるんだ。

ボクは前回の道を通ってここに来た。一度に来れるのはたった一人だけ」

 自分の妹よりもずっと幼く見えるこの少女は何百年と生きてきたというのだ。……なんかすんなり受け入れんなあ……。

「で? 苦労話がしたいなら別をあたるといいぞ。暇だけどだからって何でもいいから暇がつぶしたいほどには暇じゃないからな」

「そう。じゃあ最初に大切なことから。契約を交わしたいんだよ。キミとね。ボクはそのために来た」

「……悪魔じゃないんだから……。契約って何だよ」

「まあ、取引だよ。ボクはキミが求めているものを差し出す。だからキミも協力する。別に魂寄こせとは言わない。どうかな?」

「求めているもの……?」

「……キミの妹を助ける方法を」

 ――助けられる?マナを? 

「代価はなんだ」

 ルカはこちらを見てくすりと笑う。普段ならイラついただろうが、今はそんなものを感じる余裕すらない。

じらさされている感覚に情けないが耐えられない。今すぐ土下座して教えてくれと言いたくなるほどにどうしようもない。

「キミは相当いっぱいいっぱいなんだねえ。

キミの妹は明日発作が起きる。まずはそれを抑えて見せてあげるよ。キミだって偽物掴まされたくないだろう? 大きな代価を払ってもらうんだから、本物でなきゃね?」

 ルカは自分の胸部をトントンと軽く叩く。すると翼が消え、あたりには元の闇が戻った。星がたくさん輝いているからさほど暗くは無いが、照らす光がなくなったことに多少の不安を覚えたのは確かだ。

 翼の光は目立つからね……そうルカは言った。彼女は俺に顔を近づけ……

「代価はすべての神竜。

召喚英雄王と同じ素質を持つ君だけができること。――さあ、明日までに良く考えておいてね? よい答えを待っているよ」

そういうと、ルカは闇に消える。壁にかけっぱなしになっていたランタンと、そばにあったマッチを手に取り、あたりを照らす。床には魔方陣の形があった。

「転送方陣……? 天使は天使でも最上級クラス……か」

 ルカの力を見せられ、だんだんと頭が理解をし始めた。五百年以上人の前に姿を現さなかった天使がこの場に現れたこと。そしてこれが夢でないこと。

 ――まなが直る可能性があるということ

「神竜を集める……? それはつまりすべての竜王国を……滅ぼせってことじゃねえーか……」

 俺は突然のことに呆然と立ち続けるしかなかった……。

 

 

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