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◆白夜◆





 

 

 天使ルカ。彼女との出会いは俺に新たな道を示した。

 彼女は言う。竜を集めろと。

 

「てなわけでここにいるんだが」

 俺の首をぎゅうぎゅうと絞める友人ガルにそう告げる。

「ええい。それじゃあ、お前がここ辞めるのにショック受けた俺の立場がないだろが。潔く去れ。」

「しょうがねえだろ。調べ物じゃここの図書室が一番なんだから。俺とあいつの人生かかってるんだし。お前のプライドくらい捨て置け」

 わかってくれたのかガルは首から手を離す。

 今度は手を掴むと雑巾のように絞る。わかってないじゃん

「まあ、いいけどな。んで、何を調べに来たんだ? こっちの図書館の本なんて読むほどでもないだろう?」

 ガルは手を離すと席に着く。

「――神竜。それを調べにきた」

「何をいまさら。神竜なんぞお前一度も興味持たなかっただろ。どうしたんだ? 竜を継ぐ姫様あたりに惚れられたか? 」

「そんなんじゃねーよ。いやな。ある奴が神竜を集めればマナを直すことができるっていってきてな」

 ガルは即答する

「そりゃ嘘だ。からかわれてるんだよ」

 机に積んだ本を一冊一冊目を通していた俺は一時それをやめ、ガルを見る

「謝るから機嫌直してくれよ。本気だ。学校辞めてマナと暮らすとかいった俺がまだこんなことするくらいに本気なんだよ。あいつは……俺にそれを教えたある奴は……天使だ。しかもかなりの高位の」

 ガルは山づみされている本から適当に一冊選ぶと、それを開く。

「天使……ね。まあ、信じるとしよう。信じがたいけど、マナちゃんのことで嘘はつかないだろ。で、神竜の何が知りたい?」

「知ってるのか?」

「お前、がり勉してたから知らないだろうけど、昔神竜を調べるのが流行ったときがあったんだよ。なんか、七竜以外の竜が現れたとかで。神竜と契約交わせた人間は王になれるからな」

 竜……中でも神竜はこの世界オーヴァにとって物凄い意味を持つ。大地や空・海を形作ったのは竜だというし、何よりも、国だ。

 竜王国。世界にあまたある国のなかでもっとも力を持つ国。神竜を継承せし者が国を継ぐ。継いだものはその絶大な魔力の一部を使えるわけで。つまり竜王国には誰も戦いを挑むことはできない。誰も逆らえない。同じ竜王国以外は。

「竜を王以外のものが継承した事例を知りたいんだけど」

「ああ、そーいうやつね。まずは代表的なのは英雄召喚王だな。次は土の神竜アシュリアだな。前々国王は腐敗してた政治をしていた王を倒し、現在の形を作っている。まあ、あと何例かあったと思うが、英雄召喚王以外は国王を殺すことで竜を継承してるな。あ、そーいえば金竜アルトナのとこじゃ継承者の弟が継承の儀式の中に割り込んで竜を手に入れたとか」

「つまり、殺すか、奪うか……か。覚悟を決めなきゃいけないってことか……」

 俺はとめていた手を動かし、ページをめくる。今日はとくにすることがない。夜までは時間がある。どうなるかはわからないが、知識はいくら入れておいても邪魔にはならないだろう……。

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

 夜が来た。

 いや、だからってなんでもないが。

 あの後、閉館まで本を読み、その後、やることがないので宿を掃除。逆にあまりにやる場所があり、夜になった。それだけである。

「これは誰の陰謀だ……」

 しかし、ルカという天使が約束を守るのなら、もうそろそろここに来るはずである。掃除道具を片付けるとマナを呼びに下に下りる。

「マナ! ちょっと上に来てくれ。大事な用があるんだ」

「……ちょっと待ってお兄ちゃん。今お客さんに食事出してるから」

 客? まだ客は入れてなかったと思うが。まあ、二階の宿部分と違い、一階の食堂部分は綺麗になっているから客を入れるのには問題はないが……

 俺は階段からマナと客がいる食堂のほうへ行く。

「遅かったね。レディを待たせるのはよくないね」

 あのルカがいた。なぜかは良くわからないが、席に着いていて、カレーを食べていた。

「なんでここにいるんだ? いや、まあ、約束だけど。なんか変だし」

 ルカはカレーを口にするのを止める。天使だろうがなんだろうがその姿はどこから見ても子供にしか見えない。

「ふふっ、女と男の出会いはショッキングじゃないとね。それなりにいろいろと考えたんだよ」

「……色々考えてこれなのか」

「考えているうちにお腹がすいて。いい匂いがするんだ。おいしいよ。うん。この国じゃいい方だね。また来ても良いかもしれないね。……ボクは昔小さかったからね。食べるってことがとても好きなんだ」

「……今も十分小さいと思うけどな」

「そういうことじゃあ……ないんだけどね」

 ルカの顔に微妙に影が走った気がした。でもまあ、どうでもいいことだろう。この天使に限らず、背のことをコンプレックスとしている人間は多いし。

「ねえ、お兄ちゃん。この子と知り合いなの?」

「……ああ、こいつが朝にお前に会わせたいって言った奴だ」

 ルカはスプーンを置くとおしぼりで口をぬぐう。

「さて。そろそろ契約の話をしようか? ここではなんだよね。中へ移動しよう」

 ルカの言葉に従い俺は中へと移動する。俺の後ろをついてくるマナ。その顔には不安と不信……。あ、そういえば説明してなかったか。

「こいつは……」

「それはあとでいいよ。さあ、マナちゃん。キミもこちらに。大切なことだからね? それと、セト。キミのほうは覚悟は決まったのかな? 大事なのは決断すること。YESでもNOでもね」

 決断……か。考えるまでもない。天使・神竜……奇跡を起こすことができそうな存在たち。自分ひとりでは無理でもこの天使がいればできる気がする。ならばやる。それだけだ。死んでほしくない。その願いがかなうなら……それが可能性に過ぎなくても……

「もちろんYESだ」

 ルカは満足げに頷くと、リビングに進む。俺はマナの手を引き、ルカの元へ行く。

「ねえ、なにが、どうなっているの? 契約って何のこと……? 」

「……騒がなくても今すぐわかるさ」

「――っ!?」

 マナが突然しゃがみこむ。手は胸を掴み、表情をゆがませる。発作が始まったのだ――。

「おいっ!? 大丈夫かマナ! ……ルカ! あんた何かしたのか!?」

「別に……。ただ魔力を撒いて誘発しただけさ。……苦しい? 痛い? ……そうだね、キミは後一年程で死ぬ。――醜く、ね。体中の体液を垂れ流し、皮膚は歪み、皺となる。魔力の放出に肉がはじける、なんてこともあるかもしれない。さて、キミはどうしたい? このまま終わりを待つ? それはお勧めしない。お勧めは今すぐ死ぬこと。良ければ苦痛なく殺してあげるよ。……もしくは、ボクと取引するか……だ」

「……と、りひき?」

 止めたい。苦しみにマナは顔を歪ませる。だが俺に何ができる。もう既に俺はできる限りの魔力を抜いた。これ以上は俺もマナも耐えられない。ではどうする? ……何もない。今、目の前にいる少女に頼る以外は。だから止めない。

「そう。キミだっていつまでもお兄ちゃんに守ってもらうのは嫌だろう? キミのためにすべてをあきらめて勉強する。キミのために学校を辞める。……ホントは、嫌なんじゃない?」

「……いっ、やだ。ずっと、ずっといやだっ……た」

 ルカはマナの手を掴み、お互いの手を重ね合わせる。

「望めば、あげる。キミが一人で生きられる未来を。だが、それは代償が要る。神竜という代償が。難しく考えることはないさ。要は……生きたいか、死にたいかだけ」

 生きたいか……死にたいか。俺は死にたいなんて思ったことはない。辛いと思ったことがないわけじゃない。俺が死ねばマナを助けられない。そう思ったからこそ、今まで努力してきた。……正直言えば無意味だ。大富豪のじいさんがいるんだ。有名校とはいえ、一角の学生ごときでは何もできないと。それは事実。だが、今、この手には天使という可能性のカードがある。失くせない。だから、マナの返答を待つ。

「なんだってする。したいよ。……だっていつも私は足手まといだから……」

 ルカは重ねていた手を離す。

「さ、痛みは消えたよね? 大体一年間は発作は起こらない。けど、一年が過ぎれば、今までの分が一気に襲い掛かる。何をしようが、死ぬ。だからキミたちは、やらなければいけない。とりあえず、セト、キミにはある遺跡に向かってもらう。そこには竜を手に入れるための足がかりとなる存在が眠っているからね」

「マナ。ホントに、痛みないのか?」

「あ、うん」

「……信用ないね。まあ、いいけど。これから信用していってもらうから。で、マナちゃん。セトが遺跡に言ってる間、キミには少々トレーニングを受けてもらおうか。まあ、死ぬほど大変なだけだから問題はないよね?」

 あるだろ。絶対。

「うん。私がんばります!」

 熱血するマナ。気づかなかったが、よっぽど病人扱いが嫌だったらしい。むう。失敗だ。でもまあいいか。一年とはいえ、もうマナが痛みに苦しむことがなくなったのだから。感謝くらいはしておくか。

 新しい道。進むことができる。……なんてすばらしいことであろうか。

 ルカの話を真剣に聞くマナを俺は微笑ましく思う。

 例え、神竜を得ることにより、大きな被害があろうと関係ない。

 ……でもできるだけ被害は少なくしたいなあ……

 覚悟のできていない自分を笑う。ついさっきまではどんなことでも直せるのならと願っていたのに、いざ問われると欲が出る。

 でもまあ、それのが俺らしい……か。

 

 

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