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◆白夜◆





 

 

「セト」

 朝だ。あのあと、ルカはうちに泊まり、今もまだ、ここにいる。当分ここに滞在するらしい。

 遺跡の場所や説明を受けた俺は、そこへ明日行くことにし、その用意をしに外へ行こうとしたところを引き止められる。

「なんだよ?」

「キミはこれから大変だよ。でもね、きっと今までと違って、キミらしく生きれる。楽しんで来ればいい。すべてをね。国のことを悩む必要はないよ。……これは世界が望んだ変革だからね」

「訳わからん」

 ルカはやさしく微笑む。見た目の幼さと違う大人の微笑み。

 なりは子供の女だが、何百年前からここで生きていたんだっけか。

「まあ、いいか。出かけるから。二人とも、出かけるなら鍵、掛けろよ」

「あ、うん。いってらっしゃい」

「……なんでボクにも言うんだか」

 俺は外へ出た。

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

「っあ〜。たまんねーな。この開放感。ここ数年、町へも最低限にしか出て行かなかったからなー。風が気持ちいいぜ」

 風竜王国お膝元のこの国はかなり、風のバランスがいい。竜王国というのはその属性が一番バランスよく存在するところだ。

 例えば、火竜王国であれば、確かに暑く、砂漠もあるが、からっと暑いだけで、じめじめとは暑くない。むしろ過ごしやすいくらいだ。

 ちなみに世界の中でも風竜王国は特に過ごしやすく、四季が一番美しい国だ。特に春は桜が美しい。

「おや、セトじゃないか」

 振り返った俺の前にいたのはおじさんとおばさんだった。

 ちなみに叔父さん、叔母さんじゃないぞ。単なるおじさん・おばさんだ。

 いや、単なるじゃあ、ないな。この二人は俺の両親が死ぬ前、すなわち俺がじいさんに引き取られる前のお隣さんだった。

 おじさんは毒キノコマニア。おばさんは大量にペットやら家畜やらを飼っており、そいつらに知人の名前をつける困った人だ。

 『マナちゃんが死にそうなの!』って言われ、急いで帰ろうとしたら連れられたのはおばさん家。

 ここにいるのか? と思ってみればおばさんはアヒルを指差し、『死にそうなのよ!』……だ。

 困ったもんだよな。聞いてみれば、俺の名前はブタに付けられてるし。せめて犬あたりがいいなと思うのは望みすぎなのだろうか?

「ああ、久しぶりだな。相変わらず仲いいみたいで羨ましぜ」

「ははっ。まあな。それにしても、いい顔してる。なんかあったのか? 前見かけたときのお前はほんと余裕なしって感じで……むしろ怖いくらいだった」

「まあ、な。天使のお告げがあってね」

「ははっ、そりゃいい」

 信じないか。まあ、当然だな。世間的には天使はもはや存在しないに等しく、その存在は信仰にだけある。

 天魔戦争時代、天使は人間を振興という形の支配したという。悪魔と違い余裕のあった彼らはおかげで聖なる存在と言われた。

 魔道士みたいな奴らは今はその事実に気づいている。だが当時は彼らのいいなりで、エルフ狩りや魔女狩り、人魚狩りなんかが行われていた。おかげで今でも国によってはエルフや人魚が奴隷として売買されているとこだってある。

 汚い話だ。

「ねえ、セトくん。最近この辺でうわさの子供知ってる? なんでもすっご〜く綺麗な少年が食べ歩きしながら仲間になってくれる人探してるんだって」

「ふうん。絡まれそうな話だな。それよりおばさん。薬草とか冒険に必要なの売ってくれ」

「ああ、いいよ」

 おばさんとおじさんは八百屋を営んではいるのだが、副業として薬やら毒やらなんかも売っている。普通の冒険者なら冒険者協会へ登録し、登録店で買い物するところだが、別に俺、冒険者になりたいわけじゃないし。というわけで、こういった普通の店で品をそろえるほうが安くつく。

「セト、冒険行くのか?」

「まあ、いまんとこ一回コッキリのつもりだけどな。それが?」

「ああ、渡しておきたいものがあってな。がり勉のお前には必要ないと思ったんだが、今のお前ならこいつが必要になるときもくるだろう……」

 おじさんに細く先のとがった棒が渡される。棒は二本でくっついているようだ。

「鉄の割り箸だ」

「割れるか」

 俺はそれをおじさんから受け取る。

「ふっ、時が来て、それが君を自分の主と決めたとき割れるんだよ」

「伝説の剣かこれは」

 しかし、割れてないのはともかく、割れるなら俺に渡すのもわからなくはない。おやじは有名人だったらしく、たまに命を狙うやからが店に入ってきた。そこを手持ちの割り箸を投げ、撃退したという。その技は俺にも受け継がた。

 といっても俺はその技を店に時折現れる黒の悪魔を倒すのに使ったくらいだが。黒の悪魔は店的にはマイナスだが、華麗な美技によりプラス。面白がって袋に詰めて持ってきたやつもいたくらいだ。そいつはおやじが殴って退場させたが。

 今や、懐かしいくらいに古い話だ。

「まあいいや。もらえるもんはもらっておく」

 俺はほかにも薬草やら何やらと必要なものを買い込む。

「剣はアーティファクトの剣があったし、後何が必要かな〜? ……ああ、そういえばそろそろ飯食うか。朝食わずに来たしな」

 ここ数年外で食事をしていないため、俺にはどこがおいしく安いかわからない。店を探すために俺は大通りへと向かう。だが、大通りには人だかりができておりなんだか騒々しかった。

「なんだ……?」

 人の間を割り入り、俺はソレを目にする。金髪の女の子と見間違えるほどの少年と、女神の像のモデルにしたいほどの美女。それにどこかで見たような少女が三人の男に因縁をつけているのだ。

「……ってマナじゃねーか」

 少年はうわさの買い食い少年だろう。美女は誰だかわからないが。少女は妹だな。ルカはいっしょにいない。俺はマナに声をかける。

「あれ、おにいちゃん」

「なにやってるんだよ。それにルカは?」

「えーと、ルカさんはさっきどっかいっちゃった。それにこれは……」

「マナさんのお兄さんですか? 僕、クリスっていいます。気にしないでいいですよー。ただの兄弟喧嘩ですから」

「……喧嘩はよそでやれ」

「ごもっともなんですけどねー」

 それが、風竜王国第二王子クリスとの出会いであった。

 

 

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