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◆白夜◆ |
第十一話 〜2〜 |
「なに。あの女……」 クリスがジョイルを殴った時は本当に焦ったが、青い髪の少女が割り入って来たのはよかった。ほっとした。まったく心配させる。 しかし、問題はその後に割り込んできた女だ。胸がでかいし、態度もでかい。毒殺してやろうか。シモンは自分の胸に手をやる。ぺったんぷーだ。おのれ、巨乳。でかければいいものじゃないのに。 「サラ=ワードウェル様ですね。彼女は冒険者として最大のランク、マスターランクをお持ちの唯一の女性です。その実力・容姿・性格から全世界に多数ファンクラブがあるとか。ないとか」 「マリアちゃん。あの女知ってるんだ?」 あらあらと嬉しそうにマリアは笑う。息子に初めて彼女ができた、そんな感じの笑いだ。なんだか無性にイライラしてきた。 「知ってます。なにせクリス様の思い人ですから」 「お、思い人ぉ! あいつ、そんなこと一言も……」 シモンはその視線をクリスらに向ける。もう、ジョイルたちはいなくなっていた。 (――っデレデレしてえ) シモンの目に、サラを前にし、喜びを抑えられないようにはしゃぐクリスの姿が目に入る。 クリスはよく笑い、よくしゃべる。それでも、彼ははしゃいだりはめったにしない。王子という立場か、魔道士としての修練の成果か。外見はともかく中身は大人びている。口調は間延びしているが。 (まあ、子供らしくないのは私もだけど。かわいくないのかな。そういうの) 禁忌の薬や麻薬類を調合し、売り歩いていた母。母を捨て、母をそうするしかない状態にした父。疎ましい親。そして、乞食をした自分。 差し伸べられた手は誰のもの? ――クリスだ。そのときも、今も恋愛感情はない……と思う。憧れはある。同じ容姿なのに彼は輝かしいから。自分は薄汚れているから。 (別に、クリスが何しようと自由だけどね) シモンはその光景に背を向け、歩き出す。 「どこへ?」 シモンは足を止める。振り返りはしなかった。 「昨日、宿に城の人が来て。クリスの代わりにパーティーに参加してほしいって。私、そっち行くから。すっごい人仲間にしたんだし、私もういいや。見てるの。疲れたし」 「そう、ですか」 「……マリアちゃんは、どうするの?」 「私は、最後までクリス様を見届けます」 「……マリアはクリスの味方だもんねっ。――バイバイ」 シモンは駆け出す。マリアは何かを言いかけるが、かける言葉はなかった。 ――別に、嫉妬じゃない。別に、羨ましいわけじゃない。 シモンは通りを抜けるまで走った。ぜえぜえと体が酸素を求め、胸は上下する。 「どうして、私とあいつは違うんだろう……」 シモンはゆっくり歩きながら考えた。 ◆◆◇◆◆ 「ああ、危ない。サラがいるとはね。まあ、予想してしかるべき、だったかな?」 ルカはマナと一緒に買い物へ出かけていたのだが、その途中で感じたことのある魔力を察知し、逃げてきたのだ。 「今、彼女と会うわけには行かないしね。しかし、二人ともボクの名前出したりしてないかな。……おや? 人が倒れている」 小物が数品だけ入っている小さな袋を手に持ちながらルカは倒れている人へ近づく。そこに倒れていたのは190位ありそうな男。ルカはしゃがんでよく見てみる。服装や格好をチンピラ風にまとめているが、顔をじっと見てみれば男が貴族の血に通じそうな形をしているのに気づく。 「へえ? なんでこんなところに倒れているんだか」 ルカは魔道式を開放し、ヒールを唱え彼を癒す。 「が、がってむ……。せ、センキュー。ぷりてぃーベイベー」 「いえいえ。それより、どうしてこんなところに?」 「金髪の少年に雇われようとしたところ、シャドーに襲われた」 男の言うことはなかなか要領を得なかった。しかし、金髪の少年。そしてこの男に“影”としか認識させないほどの使い手。 「マリア……か。相変わらずの過保護だね。……ねえ、キミ。誰がやったか、知りたくない?」 男は起き上がる 「もちろんだ。ぷりてぃベイベー。この、グレイトなマイケル=ダンディー様を一日もぶっ倒れさせて放置プレイしたやつには報復が必要なのだっ!」 「そうだね。キミをそうした者の名は――セト。きっとめぐり合えるはずさ」 男は元気に頷く。悪い人間ではないらしい。 ルカは思いがけない収穫に満足げに頷くと男と別れ広場へ向かった。 「さて。今日はハンバーグを作ってもらおうかな?」 修行に必要な買出し。という名目であったが用は食べたい料理の材料の買い物だったのだった。 |
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