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◆白夜◆ |
第十二話 |
「……クリス。……はて。クリス、ねえ」 どこかで聞いたことのあるような名前だな。とりあえず、知り合いの名を片っ端から思い出してみる。むう。知り合いとかじゃないな。 「クリス! 風竜王国 第二王子クリス=シルフィード=ウィンディ! ……王子さまあ!?」 俺より早くマナが答えにたどり着く。そして俺もようやく思い出す。本で見た、何代か前の王クリシア王。確かそいつが才ある王でその名をもらったとかなんだとか。ああ、なんだ。 「っておい。兄弟喧嘩ってことはさっきの第一王子ジョイルか? なんでそんなことになってんだ?」 「別にたいした理由じゃないですよ。民や家来に僕が人気で兄様が不人気なだけです。それで、白黒つけるために戦えと」 「王位継承で争ってんのかよ……って」 王位継承→神竜継承→横取り。横取りだから人を殺さずにすむ。→ハッピーエンド(殺して奪うよりは) 「ってわけでして。それで、その〜お願いなんですけど。仲間になってくれませんか? 一ヵ月後に試練があって。その試練で王位継承者を決めるわけなんですが、四人仲間を連れて行かなければいけないんです。サラさんがいますから、一人足りませんが、まあ、それは適当に集めるとして」 即決。だが、駆け引きと言うのはそういったそぶりを見せぬことにある。俺は顔をしかめ、悩む(ふりをする) 数秒してからゆっくりと口を開く。 「ああ。だが、俺はちょっと行かなきゃならんところがあってな。一ヶ月あれば戻ってこられるだろうが、その用事が終わってからでもいいか?」 「もちろんです。よろしくおねがいしますね」 「あ、じゃあ、俺行くから。あー、どっか連絡つけられるとこってないか? 俺の家はあんま来てほしくない」 「お兄ちゃん……?」 俺はマナの耳元で素早く話す。 (あの王子様、ルカのこと知ってるぞ。どーいう関係か知らんが、あわててたからな。めんどそうだ。ルカに話して問題ないなら教えればいいんだから、問題ない。あいつはしばらくうちにいつくんだろ? 面倒ごとは避けるべきだ) (わ、わかった。あとで聞いてみるね) (ああ、それがいい) 「ねえ。聞いてる?」 「あ、ああ。その、なんだっけ?」 「私は城ヒゲって宿に泊まってるから、そこに来てくれればいいって、言ったんだけど。もし私がいなくても宿の人に伝言預けてくれれば大丈夫だから。クリスもそれでいい?」 「はい。城の方だと、兄様の妨害が入る可能性がありますから」 やな兄貴だな。 「城ヒゲか。いいぜ。あそこの定員さんなら知り合いだ。じゃあ。また」 「はい。お待ちしてます」 俺とマナは一行と別れ、家に戻る。 「そーいえば、ルカどうしてんのだ? 迷子なんじゃなかったっけ?」 俺はノブを回しながら顔を後ろにいるマナに向け、言う。 「誰が? 迷子だって?」 長めの何かで頭をぺしぺしと叩かれる。 「ルカ。なんだ。いたのか」 ルカは俺の頭を叩いていた長ネギをおろすと、疲れたようなため息をつく。 「まあ、ね。それにボクは迷子じゃあない。残り香があるからやっぱり、彼女がいたんだね」 「彼女?」 「サラ。金の髪の女。彼女には気をつけたほうがいいよ」 はて。気をつけたきゃならんような人物には見えなかったが。美人だし。美人だし。いや、関係ないけど。 「なんでだ?」 「彼女は冒険者だしね。キミが赴き、手に入れなければいけない、竜の器たる人形を、取られたら……困ったことになるんじゃないかな? あれを手に入れることはキミにしかできない。けれど奪うことなら誰にもできるから気をつけるといいよ」 「あ、じゃあやっぱりここのこと教えなくて正解だったんだね。お兄ちゃん。ルカちゃんはクリス王子様と知り合い?」 ルカは何ともいえないようなむずかゆそうな顔をする。 「ちゃ、ちゃん……。まあ、いいけどね。クリスも、サラも知り合いだね。サラには恨まれてるけど、クリスの方は、まあ、普通の友人ってところかな?」 「子供同士違和感なさそうだしな」 「ボクはキミより年上」 「知ってて言ってる」 ルカは眉間にしわを寄せるた後、犬でも払うかのようにしっしっと手を振る。 「あー、もういいからキミは今からいきなよ。そう遠くないけど、半日近くかかるから、現地で宿を取るといい。ほらっ、行った行った」 ルカは俺から食材を奪い取ると(分かれた後買った。なんでもハンバーグを作るとか)俺を押し出す。真面目にやっているのだろうが、傍目は『お兄ちゃん! 恥ずかしいからもう出てってよ〜』な感じだ。いや、別に恥ずかしがってないけど。 外へ出された俺はとりあえず、城ヒゲへと向かった。 「あ、セっちゃん」 「誰がセっちゃんだ。相変わらずほんわかしおって。しゃきっとしろ。歯ごたえ満点なくらいにな」 「無理〜」 このトロが城ヒゲの看板娘だ。ほんわかなところと、寝てるんだか起きてるんだかな顔を除けばいたって普通の女だ。でもまあ、いい笑顔をするってんで看板。 他に取り柄がないってのもあるがな。 「あ〜、なんかひどいこと考えてるぅ〜」 「ねーよ」 嘘だった。まあ、それはどうでもいい。俺は彼女を連れ、宿に入ると女主人に話しかける。と言ってもこいつの母親だが。 「ようこそ城ヒゲへ。……どうしたんセっちゃん」 この母親が呼んだのが最初だったな。そーいや。 城ヒゲは名前の由来はその名のとおり、城とヒゲにある。お城に代々使えていた会計係がものすごいヒゲの男系一族で、あだ名が城ヒゲ。しかし、先代の城ヒゲは若いころ、城をやめ、宿をやることを決意。城ヒゲの誕生だ。 だが、その城ヒゲの子供は娘。当然ひげはない。城ヒゲの娘の選んだ男はヒゲのない男。生まれたのも娘。城ヒゲの歴史は終わったと言うのがこの町の皆の意見だ。 「いや、馬借りたい。いい馬いただろ」 ママさんはポケットからタバコを出すと火をつける。タバコの先が赤く染まり、そこから煙が立つ。 「いい馬ってほど良くないよ。ここら辺ではまし程度だけどね。まあ、深くは聞かない。でも、勉強ばっかやってて私に会いに来ないようなセっちゃんは料金割り増し。2ミラね」 「やすっ! いいのかそれで」 「いや、本来ならただで貸してあげてたよ。まあ、死なせちゃったり、紛失したらそれなりの額を請求するつもりだけどね。セっちゃんを馬小屋に案内してあげな」 「あ、うん〜」 宿を裏口から出てすぐのところに馬小屋はあった。ドレイクやワイバーンなど空の飛べる偽竜を使えるような金持ちは別だが、それを他にすれば馬は庶民から貴族まで幅広く愛されている乗り物だった。ゆえに旅人をターゲットとする宿は馬小屋は必需品である。 宿によっては馬の貸し出しをやっているところもある。城ヒゲもそんな宿のひとつなわけだ。 「ん。いい馬だな。あ、いい忘れてたが、お前のところの客にサラって奴いるだろ? そいつに何か伝言頼まれたらマナに伝えてやってくれ」 「あ、うん。い〜よ〜。あ、でね。その〜、私、彼氏ができたんだよ〜」 「……ヒゲがすごかったりするのか?」 「しつれ〜だよ〜。あの人はぁ〜胸毛はすごいけどヒゲはないよ〜」 ……城ヒゲ。別な意味で歴史終わったな。そしておはよう新たな歴史。城胸毛。 「幸せにな」 「うん〜」 俺には、そう言うしかなかった。 |
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