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◆白夜◆ |
第十七話 |
「遅いわねー」 サラは頬杖突きながらじっと氷を見つめた。外が暑いわけではないが、別に寒いわけでもない。氷はゆっくりと解けてゆく。 場所はありふれたただの喫茶店。軽い食事のためのお店であり、夜はバーにもなる。 座る場所が外から見える位置のため、通りかかる男たちの視線を感じる。 ――もっと影のほうにしとけばよかった。 「ねえ、お姉ちゃん。ひとり?」 少女も少女な女の子がいた。ふりふりと言うわけではないがとてもかわいらしい。サラはだんだんと厳しくなっていった顔をやわらかくする。子供はかわいい。 「ひとり。でも待ち合わせがあるから、ね? 遊んであげれないわよ?」 姿勢を直し、相手に優しく微笑む。 「子供だからと言って誰もが遊び相手を求めてると思うのは単純だよ。……待たせちゃった? サラ。組織のえーじぇんとイチハチニ号でーす」 「……あ〜、微笑んで損した。ルージュ、今度は女の子なの? ずいぶんかわいいのね。あんたの趣味じゃないじゃない」 再び姿勢を崩すサラ。 「せっかくの美人なんだからしゃんとしたら? うーん、私も初めは男の子だと思ったんだけどね。これが。乞食やってた子だったから気づかなくて。まあ、誰かの心遣いかもね」 「変身のEXは健在ってわけね。かったるいわねー」 「あんま汚い口調しちゃだめだと思うんだけどなー、私。はい、一か月分の薬と第一王子側の資料」 ルージュは小さなリュックから錠剤の詰まったビンをいくつかとクリップで留めてある何枚かの髪をテーブルに置いた。サラは錠剤が詰まったビンを乱暴にカバンにしまう。 「……おー、詳しいわね。さすがにいい仕事してるわ。で、あんた的にはどいつが強そう?」 「リュークとソルト。塔出身の召喚士ね。理由は巫女の奪還だってさ。でも、バカ王子に漂流したところ拾われてこき使われてるって。他の奴はサラなら問題にもならない」 「どうやって調べたの?」 「あ、あの。お二人はどうしてこの町に来たんですか? あ、その、余計なことだったらごめんなさい……って言ったらソルトってのんきそうな方がぺらぺら教えてくれちゃった。外の人間はみんな心の余裕がないってのが定説だったけどそうでもないのねー」 「あー、なんか急にかったるく……」 「だから美人が台無しだってば。そんなキミもかわいいけどねー」 ルージュは手を挙げる。それに気づいたウエイトレスが注文を聞きにくる。ルージュはオレンジジュースを頼んだ。へらへらと笑っていた顔を真剣なものにして言う。 「……人である以上、どこかで誰かと接点ができてしまう。家族、友人、恋人。私はそれにつけこめる。変身できる。……スパイにはもってこいって能力だよねー」 サラはルージュの顔を見る。 「EX。魔術を超えた魔法の領域能力、ね……。組織の爺どもは何か言ってきてる?」 「クリス王子を王にすれば何してもいいって。あ、そういえば姫が現れたらしいよ。心を見る能力だって。しかもかわいい女の子らしいよー。興味あるでしょ。会ったら覚えて来てあげる」 「ない。あんたと違って私はない」 席を立って会計をすまそうとするとルージュが声を掛ける。 「私はまだここにいるから。……ねえ? サラ。唐突だけど私たちって友達?」 ちょっとの思案 「あんたがあんたの姿をしてさえいればね」 「わかった。もう別の姿では来ない。う〜友達かぁ。いい響きだなあ。じゃあねー」 サラは店を出る。かといってどこという目的地があるわけでもない。宿にこもるには暇すぎて、冒険に出るにはクリスとの約束を考えれば暇がない。 「中途半端って嫌いなのよねー。ぶらぶらするか」 ぶらぶらと当てもなく行き先を決めずに歩き回る。声を掛けてくる男は無視。適当にあしらって町を歩く。ぶらぶらするからには徹底的にぶらぶらしようと決めた先に見知った相手を見かける。 「セト、だっけ? あの勇気のある女の子のお兄ちゃん」 なにやら困惑しているようだ。手を前と後ろにつながれている。……子供を二人も連れているようだ。ちょっと意外だ。目つきは悪気味だったし。妹を溺愛しそうな感じではあったが……。 「子供に好かれる奴に悪人はいない。しかも私に惚れた様子もなし。よし。暇つぶし決定」 こっちを恋愛対象に見るような輩は対象外だ。めんどい。その点でも彼はポイント高だった。 ◆◆◇◆◆ 「……そこのおねーさん。一緒に飲まない? 覗き見は罪だよねー?」 店に初老の女性が入ってきた。よっこらしょという声と共に席に着く。 「……あれ、え……。おばあさん?」 「ふむ。そんなにがっかりされると悲しいねえ。これでもまだ5歳ほど何じゃが……」 ルージュはおばあさんの手をぺたぺたと触る。 「うわー、うわー。人間じゃないや。機械? どっちかと言えばゴーレム? すごいねー」 「うむ。天使製じゃがな。手短に言わせてもらうさ。ユーリアス=ヴェルトバルト=アルフィスに化けてほしい」 ルージュは心底嫌そうな顔をする。 「えー、私サラ以外の頼みとか聞きたくない〜」 「組織と天使ルカからの願いさ。断りはしないだろう?」 「……だからかわいい女の子は嫌いなんだよ。ためらいなく人を利用できる」 「ふむ。しかし今のおまえさんもかわいい女の子じゃろうて」 ぷーっと頬を膨らませ、そっぽをむく。 「だから嫌いなんだよーっだ! ふんっ。いいよ別に化けるくらい。殺せって言われてないだけ幾分楽だよねっ。あーはいはい。分かりましたーぁ」 「そう。じゃあついてきてもらうさ。小娘」 「どこへ?」 「竜の中心……雷竜王国ヴェルトバルトへ……」 老婆はそう、意気込んだ。 「なんじゃい、その不満そうな顔は」 「……転送、してくんないの?」 「はっ! 小娘が。馬車じゃい。馬車。経費でおちんのじゃからしょーがないじゃろう」 「うえええ。なんでこんな見てて悲しくなるおばーさんと雷竜王国までいっしょなのぉー」 「途中で乗り換えるからたった一ヶ月じゃ」 「えーん。サラー。助けて〜」 「ほれ、とっとと歩け」 老婆は会計を済ませるとルージュの腕をひっぱって連れて行った。 それを見ていた店の店員はお婆ちゃんと孫を見るような目で見ていたという。 |
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