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◆白夜◆

二十



 

 

「油断したね。ネコに見つかったか」

「猫、ですか?」

 さっきまでアホのようにびんびん手をひっぱっていたルカが立ち止まり、俺の手を離す。

 大きいというほどには大きくない道。周囲を見渡してみるが、人はいるものの、猫はいない。

 視界に見知った人間を発見する。

 クリス王子の知り合いの、確かサラだったか。

 ……ちょいと様子がおかしいな。なんというか、どんなときでも余裕でこなす! って感じのオーラを放っていたような気がしたんだが。こっちを貫くような視線。注意してみれば、それはおれへむかっているものではないようだ。相手は……ルカ?

 

「やあ、サラ。久しぶりだね。三年ぶりくらいかな? ……どうしたんだい? もっとこっちに来ればいい。ずっと、探していたんだろう? ボクを」

「な、ぜ?」

「知ってるかって? それこそたくさんの人間が教えてくれたよ。キミは友達が多いみたいだからね」

 サラは視線をルカから外さずに、ルカへとゆっくり近づく。

「そうじゃないわよ! あんたなんでっ!」

「ボクはあのときのことを悔いたことはないよ。キミにも悪いことをした。でも謝る気はないし、謝ったところで気はすまないだろう?」

「当たりまえよっ」

 サラは腰に付けていた短剣に手をかける。バカな。ここは街中だぞ。しかも、ただの短剣じゃなさそうだ。強いオーラというか何かを感じる。多分、アーティファクトだろう。

 俺はとりあえず、フリージアの前に出る。

「あんたら――」

 そういいかけた時、ルカもまた、言葉を発した。

「やる気だね。でも、キミにそれができるかな? この体を斬る心積もりは? よしんば、それができてたとして。――もし、その剣を抜いたらこの町にいる人間すべてを殺すといったら?」

『なっ!』

 俺とサラは驚愕する。つーかなんだそれ。事態はまったくはからないが、ルカが本気だというのは分かる。近くにいると感じるのだ。黒く、重いオーラ。近づかれて、纏われるだけで窒息しそうな苦しいもの。禍々しい……そう表現するしかなさそうだ。

 ホントに、天使か? こいつ。

「本気だよ。悪魔の力ならそれができる。天使の方の力じゃやりにくいけれど、ね。キミも三年でなかなか強くなったようだけど、まだ届かないよ。魔術も、精霊術も、キミの中に宿らされた何かの力だって届かない。天使と、悪魔の力を持つボクには届かない」

 サラは剣から手を離し、警戒を解く。顔はさっきよりはずっと和らぎ、それと同時に、ルカも力を抜いた。周囲に撒き散らされた黒いものは一瞬にして消え去った。

「まだ、届かないのか。三年間、がんばったつもりなんだけどね……」

「キミのなかにある力を、きちんと使いこなせるようになれば、ボクを傷つけることができるだろう。まあ、修練することだね」

「ルカ、あんた死にたいわけ?」

 ルカはこっちを振り返るとこっちにこいと手で合図する。

「行こう。――別に、死にたくはないよ。ただ、死ぬことが運命付けられてるだけさ。ボクも、この体も」

 俺は再び手をつながれ、ひっぱられていった。ルカに連れられ、サラの横を通る。

「あ、そうそう。セトも、フリージアもボクのことをそう深く知るわけじゃない。王位継承の争いあたりまでは一緒に行動する気だけど、その後は別のところへ行くからね。まあ、強くなったらまたボクを探すといいよ」

 凍りついたように動かないサラを置いて俺たちはアイスを買いに先へ進んだ。

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

「なあ、なんだったんだ、さっきの」

「う〜ん。前、言ったよね? ボクは英雄王の張った封印を超えてきたと。封印が弱まる時期があるっていっても天使用に特化している封印を抜けるのはつらい。だから考えたんだ。天使でありながら悪魔の力を併せ持つものを作ることを」

「白と黒で混ざっちゃわないんですか?」

「もともとはそうなることを期待してのものだったらしいけどね。前例がいるから」

 前例……。つーとそれは

「大天魔ルシフェル……?」

「そう、天使と悪魔の戦いに終止符を打とうとした第三勢力。まあ、人間にとっては迷惑な存在だったから真っ先に英雄王に封印されちゃったけど。ともかく、それでできたのがボク。だから天使だけど悪魔の力も使えるってわけ」

「せつめーになっとらん。力うんぬんより、なんで恨まれてるのかって方が気になるし」

 ルカはアイスをなめながら言った。ちなみにフリージアは三段に重ねられたアイスがこぼれないよう夢中だ。

「その辺はプライベートだから黙秘だね。まあ、気になるならサラ本人から聞くといい」

 ……ぽんぽん自分の秘密ばらすようにゃ見えないが。仲良くしてみたら、とかってことか?

「ルカ、お前ってほんとさ、……秘密ばっかだよな」

「だてに長く生きてないからね。嘘もうまくなるし、隠し事だって増える。まあ、いいじゃない。キミたちには嘘ついてないつもりだから。隠し事はするけど、ね」

 

 アイスを食べ終わったあと、ルカは一人だけ先に帰ってしまった。用事がある……と。

 俺は頼まれていたキノコを買うと、木陰に腰を下ろす。

「なあ、フリージア」

「なんですか?」

「大切なものを守るために、そうでないものを見捨てちまう……犠牲にするってやっぱいけないことか? なんか、竜を集めるってのはそーゆーことなんだよなって、ルカが街の人間を殺すっていったときから思ってな」

 フリージアはほんの少し残っていたアイスのコーンを口に入れると、手に付いたかすを払う。

「わかんないです。でも、マスターがそこまで悩む必要はないと思います。あなたが大切な人を守りたいと思うように他の人だってそう思うと思いますから」

「でもなあ。……まあ、いいか。どーせ今悩んでもしょうがないしな。どっちにしろ、今の俺にはマナを助ける力はない。けど、可能性だけは握っている。フリージア。お前がその可能性だっていうなら、何があるか分からないが、その、よろしく」

 フリージアは笑うと

「何度もよろしくって言ってます。マスター」

 う、そうだったか。

 

 

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