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◆白夜◆ |
第二十三話 |
「なるほど。まてぃあは劣等生だな。おちこぼれ」 「ぶう」 今日も今日とて天気がいい。雲ひとつない、といえるほどには雲は少なくないが、大地に降り注ぐ光はぽかぽかと暖かい。 森に囲まれた中、ぽつんとある古井戸の前に座りながらマティアとシルスは勉強をしていた。 といっても勉強しているのはマティアでシルスは教える側だったが。 「ひどいです」 「うん。ひどいな。まてぃあの成績が。物分りは悪くないんだけどな」 「実の話、私つい最近まで勉学というのを一切していなかったんです」 「ふうん?」 「そのせいで勉強遅れてて」 「んで、わかんないから眠っちゃうと」 「はい!」 シルスはそれが面白いらしくけたけたと笑う。 「変なやつっ! うん。変なやつだな。まてぃあ」 「そ、そーですか?」 「うん!」 マティアは地面に寝そべる。多くもなく、少なくもない雑草がやんわりと体を受け止める。空を見上げた。明るいが、眩しくない。 何もかもがちょうどいい空間だ。 「ここって心地いいですね」 「ん、オレがいるからな」 草をよじ登るテントウ虫を見つけ、指に登らせる。天辺に近づくと下に下げ、また天辺に近づくと逆にした。 「シルスがいるから?」 「風の精霊は結構、場の調和を整えるからな。強い精霊がいると結構住みやすいとこになる」 「そうなんですか」 さわやかな風が身を包む。とても、気持ちがいい。 (まぶたが重い……) 思うだけで、さらにまぶたが重くなった気がする。ゆっくりと目を閉じた。 「シルス」 「ん?」 「私、シルスのこと結構好きですよ」 「オレもまてぃあのこと好きだぞ。ゆーりの次だけどな」 眠りに落ちた。 ◆◆◇◆◆ ぐるぐる回っている。体自体は動かず、視点だけがぐるぐる揺れる。真っ黒で視界のきかないくらい闇の中。 (気持ちが悪い) 夢だ。いつも、何度も何度も見る夢。 手も足も……体はどこも自由に動かない。 (嫌だ。嫌だ……) だから叫ぶ。助けて。助けて。 声にならない声。 けれど、その声が届いたのだろうか。靴の音がする。かつん、かつんと。 近づいてくる足音。一瞬の期待。そして期待が反転して恐怖 (嫌だ) ここを訪れる人間はどういうやつか? それを瞬時に思い出す。けれでもそれは間違いだった。靴の主はこちらに近づく。 手を、差し伸べた。雪のように白い手だった。 『助けて、あげようか?』 私は顔を上げる。視界はぐらぐらしてしっかりしないけれど、その顔だけはうっすらとしか見えないが、血よりも赤い美しい瞳。紫色の髪の毛。そして、光り輝く眩い白い翼は……。 ――天使。 そう、今はもう伝承の中にしかいない存在。 ◆◆◇◆◆ 「わあ!」 マティアは飛び起き、辺りを見回す。体を撫でる優しい風。体をくすぐる草花。 「ようやく起きたか」 井戸のふちに座りながら言うシルスを見てほっと安堵する。 「汗かいちゃった……」 首に手を当ててマティアは言った。 天気のいいなか昼寝をしたせいだ。 「よく寝てたからな。今日は帰るか?」 「ううん。もう少しいようと思います。勉強してませんし」 「そうだな。まてぃあはすぐサボるからなっ! 一緒に勉強してないと不安だな」 「そうかなあ。そんなにじゃないと思うんですけどー」 「自信過剰だぞ。まてぃあ。さっさと教科書開け」 意外だったがシルスは教えるのが上手だった。 今まで分からないところは(といっても分からないところだらけだったが)ルカに教えてもらっていたのだが、彼女は時折回りくどく、分かりにくい。決して教えるの下手なのではないのだが、うまいといえるほどではない。 だが、シルスは逆にシンプルだ。誰にでも分かる形から初めて、ゆっくりと難しい話にしていく。分からない時も、同じ説明をするのではなく、別の角度からの話をしれくれる。 「シルス、すごいです! とても分かりやすい!」 シルスはふふんっと鼻で答える。 「まあな。こう見えても……、見えるとおりにオレはすごいからな。尊敬したか? まてぃあ」 「はい。尊敬しました」 マティアは笑って答えた。 「威厳とか色々感じるだろ?」 「だれから?」 「オレから」 「そうですね」 「認めたかっ」 シルスは嬉しそうに笑う。なんと言えばいいのだろうか? 自分が作った工作を満面の笑みで母親に見せに行く子供のような顔。 「ここは、いいところですよね」 「オレがいるし、マティアがいるからな」 「私がいるから?」 「一人は寂しい。オレがいて、誰かがいるのがいいんだ」 マティアはシルスにむかって微笑んだ。 |
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