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◆白夜◆

二十六



 

 

 俺は宿のベットに寝巻き姿で横たわっていた。

 

 結局、まんまとケインには逃げられてしまったが、だからと言って盗賊たちは逃がすわけにはいかない。彼らを馬車の備品であった縄で硬くしばった。意識を取り戻し、『ほどけ!』などと騒いでるのを無視し、彼らをひとまとめにすると、馬車から馬を一匹はずすと(馬車は馬二匹で運んでいた)それに乗ってサラのみ一足先に城へと向かっていった。

 彼らがここにいる彼らだけとも限らない。縄で縛ったからと言って、生きているなら仲間に助けられる可能性がある。

 まあ、盗賊は犯罪だ。今までに俺ら以外にもたくさんの人間をその毒牙にかけていただろう。死刑になるか、長い禁固刑になるかは知らないが、彼らのお先は真っ暗なわけで。

 ちなみに関係ないが暗い森の中、さらに暗くなって俺たちも真っ暗だった。

「あ、明りつけますね」

 クリス王子はそういうと、魔術で光を生み出す。やっぱり魔術は便利だよな。魔術の使えない自分を呪うぜ。

 で、一時間半ほどでサラはたくさんの兵士を連れ、戻ってきた。彼らは手際よく、自分の馬車に盗賊を運び込み、俺らに例と少々の金を渡した。ま、それはいいんだけどな。

「……何やってんだ?」

 明りをつけてから兵士が来るまで、フリージアとマナとごそごそやっていたクリスに問いかけた。

 明りの下、クリスは、紛れもない美少女だった。

 腰まで届く長い髪は(ウィッグだろ)かわいらしい白のリボンでとめてあり、ポニーテイルになっていた。服はどこか見覚えがある。……フリージアのものか。しかしぴったしだ。

「いえ、ただの女装です」

「かわいいねー。クリスくん」

「ですね」

「いやいやいや。そういうことを言ってるんじゃねーし。というか、なんだかやりなれてないか?」

 その言葉にクリスは頬をかく。

「まあ、必要性があって。王子って言うのも大変なんですよー。兵士や国民は僕と兄様の王位継承の試練をすることを知りません。大々的にやると他国との関係やらなにやら色々絡むし、なんだか最近世界的に怪しげな動きがあるんですよ。そのせいで各国弱みを見せたくないらしくて。新たに王になるものに汚点を残したくないって言うのがあるらしいですね。ともかく、秘密裏なんですよ」

「はあ。兄弟で争ったり、大変だなあ。おい」

「そうですね。でも、竜王国の王とはそれだけ大きな存在ですから。しかたがないんですよね。ともかく、僕はこれから試練の時までこのままです。この姿はシモンって子に似ているので、僕のことはシモンって呼んでください」

「わかった。シモン、だな」

「ああ、それと、私は薬師をやっている、というかスキルがあるから。……クリスが、じゃなくてシモンが、だけどね。だから実際にはできないけど、話だけはあわせてね。いい?」

「……うわ。まあ、いいけどな。……王族のイメージ変わるなあ」

「今までどんなイメ――」

 そういいかけたとき、サラに指示されて、盗賊を彼らの馬車に詰め込んでいた兵士の中のリーダーぽいのが近づいてきた。

「あ、シモン。……知り合いなのか?」

 だれが、と聞くまでもなく、俺たちのことだろう。クリスを見ると、表面的にはさっきと変わらないが、なんとなくあせってる気がした。実在の人に変装するべきじゃないってことだな。うん。

「うん? まあ、そうだけど。それがどうしたの?」

「いや、すごいなって思って。あの人、サラ=ワードウェルだろ? 最強の冒険者。俺の妹、彼女のファンなんだよ。……なあ、サインってしてくれるかなあ? 最近仕事ばっかで妹そっけないんだよ。えさで釣っとかないと。あ、そうだ、このあいだの育毛剤ってできた? 最近なんだか毛が抜けてきてさー。俺思うんだけど、うちに髪の毛の伸びる人形があるんだよね。あれのせいじゃないかなあとか。シモンってその辺詳しくないか?」

「ないわよ。というかそんな人形捨てちゃいなさいよ。呪われるわよ」

「やっぱそうか。あれか。俺の髪の毛取ったの。……明日捨てるわ」

 そういうと彼はポケットからペンとハンカチを出すとサラの方へと向かっていった。

「……あれだな。城の兵士のイメージも変わったわ」

「……ですかー」

 兵士たちを先頭に俺たちも馬車を走らせた。大した時間をかけずに、入り口である門へとたどり着いた。

 そこで、なんだかよーわからん手続きをちょちょっとサラがやった。俺たちは馬車の中でポケッとそれを見ているだけだった。何もできることがないと言うのは退屈なことだ。

 兵士たちは門を通るとどこかへと去っていった。サラは宿の無料券を人数分手にして戻ってきた。おお、ラッキーだな。気前いいな。呪われた兵士。

「まあ、サイン代みたいなもんよね」

 俺たちは宿に行き、飯を食い、風呂に入り。

 部屋に分かれた。

 

 

「……いや、部屋の中じゃ女装はやめろよ……」

「……やめたら、部屋から出れないんですけど……。宿の人だって第二王子の顔は知ってますし」

 部屋は、女部屋(マナ・フリージア・サラ)、男部屋(俺・クリス)に分けられた。

 わりと雰囲気のよい部屋。それはいい。小さな絵画が飾ってある。よし。OK

 

「なんでベットひとつなんでしょうね? ソファーとかないし」

「うむう」

「一緒に寝ますか?」

「や」

「やなんですか?」

「うむ」

「……わがままですね」

 そうなのだろうか? いや、なんというか。不条理な。というか。

 変態みたいでやだし。

 というわけで俺は床で寝た。うん。思うに、この部屋、一人部屋なんじゃないだろうか?

 明日が戦いで体調を整えねばならないのに。

 割と床は固く、冷たかった。……冷たかった。

 

 なんだか、ちょっと悲しかった。

 

 

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