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◆白夜◆

二十八



 

「ええ。まあ。ごほんっ。それでは、説明させていただきます」

 クリスを見てシモンと言った兵士が説明を始める。

 しっかし、どいつもこいつもシモン、シモンって間違えるな。そりゃ、一国の、第二とはいえ王子が女装してるとは思わないものかもしれないが、それ以上にシモンって子がウィッグをしたクリスにそっくりなのだろう。

「ではまず、確認させていただきます。クリス様の連れてきた四名の仲間をお教えください」

「サラ=ワードウェルさん。セト=ムーンライトさん。同じくマナ=ムーンライトさん。フリージアちゃんの四名です」

 兵士は手に持った用紙に名を書き込んでいく。

 軽めの調子にわりと弱そうに感じる城の兵士だが、俺の周りにいる兵士たちはずいぶん鍛えられ、精錬された感じが見受けられる。

 抑えてはいるようだが、魔道士の持つ特有の空気を感じるから、彼らが風竜の誇る最高騎士である聖騎士なのだろう。彼らは剣でも一流であるが、魔術も使えるスペシャリストだ。

 (なるほど。そりゃ、不正されて、何人も参加、なんてなったら勝負にならないしな)

 彼らは公平な裁判官の役目を果たすだろう。

 聖騎士団の王への忠誠の高さは随一だからだ。

「……はい、確かに。皆様、これを身に着けてください。肉体に触れるのであれば手でも足でも結構ですが、失くさないようお願いいたします」

 そういうと、脇に控えていた兵士の一人が手に持っていたカバンを開け、こちらに差し出す。カバンには赤く光る宝石のはめ込まれた、羽をイメージさせる腕輪みたいなものがあった。

「これを?」

「はい。腕でも、足でも」

 俺はそれを手に取ると、留め具をはずし、腕につける。足はなんだか邪魔だし。しかし、何とも言えんなぁ。アクセサリー。

 そんな似合わない俺とは違い、女性陣とクリスは中々に嬉しそうであった。綺麗だしな。変なのよりはずっといいだろ。けど、クリス。おまえは、どうなんだ? 正直。そういうと、

「僕は結構、翼とかのデザインのアクセサリーは好きなんですよ。着けませんけどね。でも、王宮のものは竜に関係するデザインばかりですから」

 まあ、竜王国だしなぁ。

「着けましたか? これは、試練の場……正式名称は一応、舞い散る桜のように降り落ち、一休みすればここは極楽かもしれないと言えるような風吹く谷の下にある、私の元にいらっしゃいダーリン洞窟らしいですが、歴代の風竜王も覚えなかったらしいので、皆様も覚えなくて結構です」

「な、なんだ、その名前……」

「はい。一応、私は一月ほど前にこの任務に就くことを言われましたので、調べたのですが、これは風竜王国創始者、初代風竜王クーヴェル王の残した書物である『後継者』に載っていた言葉です。

なぜそのような名なのかは、『竜とは、そういう存在である』と書かれているだけなので理由はわかりません。しかし、とても呼ぶのに面倒であるため、試練の場、試練の洞窟、後継の場など、様々な名前で呼ばれています」

「あっそ」

「はい」

 むう。しかし、なんてどうでもいいことなのだろうか。

「竜って素敵なセンスをしてるんですねえ」

「うーん。俺もそう思う。なんだか神聖な感じがまったくしないあたりがすばらしいな」

「親しみやすいというか」

「あほくさって感じでもあるがな」

 クリスと一緒になって笑いあう。というか、いいのか風竜王国。そんなんで。

「お兄ちゃんにクリスくん。もうちょっとちゃんとしなきゃ。兵士の皆さんも見てるのよ?」

「むう。あれだぞ、外面だけ整えるって言うのはどうかと思うぞ」

「内面を整えないなら外面くらいは整えるべきだと思います。マスター」

「フリージア、少し厳しいぞ……」

 そうやってわいわいしているとサラが手をたたく。

「ほらほら。そろそろ時間だから。準備は良い? 装備は持ってるだけじゃ意味ないのよ? 装備してる?」

「わ、訳のわからんことを……」

「でも、基本ですよね」

 そりゃそーだ。俺は腰につけた剣をぽんぽんと叩いてその存在を確かめる。うーん。もっといいのがほしいなあ。オヤジは武器系のアーティファクトはほとんど持ってなかったからなあ。

「それでは、お時間です。ジョイル=シルフィード=ウィンディー様は別の入り口から入ることになっています。途中で同じところに繋がるので、ご安心を。封印を解除します」

 彼は洞窟の、やけに浮いている扉に手を触れる。

 それまでのふざけた空気がちり、皆はその一挙挙動に集中する。

 場は、静寂に満ちた。男は、呪文を唱えだす。

「ず、……ズンズンズンガバ、ズンガバチョッ!」

 ……いろんな意味で静寂に満ちた。

 呆れ、というより驚きでもって、(いや、呆れてるんだけどさ)何もいえない俺たち。呪文? を唱え、真っ赤になった兵士にクリスが話しかける。

 かわいそうに。エリートなのにこんな仕事させられて……。

「な、なんですか、それ」

「わ、私だって恥ずかしいんですよ、クリス王子。でも、悪いのはこの封印の解除の呪文をこーした奴であって。ハイ。私は悪くないと主張いたします。ええ」

「いや、いいですけど……」

「実はこの仕事、代々聖騎士団員でアミダで決めるんですが……。今、自分の運の悪さをのろってるところであります……」

「はあ。強く生きてくださいね……」

「うう。ありがとうございます。クリス様」

 彼の決死の努力は報われたようで、封印された扉は、自動的にずっ、ずっとゆっくりと開いてゆく。

「最後にひとつだけ。渡した腕輪が肉体より離れますと、腕輪の魔道効果により、洞窟外へと転送されます。諦めたり重傷を負ったりした方ははずすようにしてください。本人以外は外せないようになってますので、その辺もご注意を」

 なるほど。色々親切だな。

 俺は翼をイメージさせるそのわっかをじっと見つめているクリスを見る。

 年若く、そして誰もが彼を大切に思う、そんな魅力のある王子。

 俺は知っている。彼が悩んでいることを。

 もし俺が、竜を奪うことを目的としてるとしたら、クリスはどう思うのだろうか。兄と決着をつけなくて良いと喜んで協力してくれるのだろうか?

 そもそも、竜を奪うとはどういうことなのだろうか?

 普通に、今までの王達のように、竜の力を手にするだけ? なんとなく、違う気がする。それに、それならばフリージアの存在がわからない。

 たくさんの権力者や竜を継ぐ素質を持つものにコンタクトをしてきた天使であるルカ。歴史上、竜を奪い王になった例はいくつかある。しかし、それと同じであるのなら、竜を一つ継承した時点で、俺という存在が明るみにで、それ以降継承の隙をうかがいにくくなると思う。

 

 ……世界は、俺に何を求めているのだろうか?

 

 魔力の光に照らされた洞窟を皆で進みながら、俺は思った。

 

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