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◆白夜◆

三十一



〜2〜

 

 

「奥義連二式っ」

 真っ直ぐに突っ走っりながら、ソルトは塔だけの技術、無式……つまりタメなしの低級召喚術を行う。空間がゆらりとぼやけ、そこから大量の虫が飛び出し、彼らに襲い掛かる。

 虫と侮ること無かれ。

 人間は、モンスターと違って弱い。小さな力しかないものでも、たくさんに、それも少しづつ傷つけられるのは恐怖だし、毒のある物だっている。

 そして小さいだけに、対処もまた難しい。

 金髪の女(……確かサラとか言ったか)があわてて魔術で吹き飛ばすが、死んだのは数十匹。殺される分以上に続々と召喚される虫達。

 しかし、やつらもまた緑の髪の幼い少女へと向かって行き、彼女に触れたもの、いや、触れる寸前だろうか? で消えてゆく。

「大人気の第二段っ! 来いっ! トロール!」

 大きな、そして太ったゴブリンのような怪物である、トロールが召喚されるがトロールはトールやオンディーヌみたいに惹かれては行かなかった。

「一応、技の限界はちゃーんとあるみたいだな。よかったよかった。これで、触れない限りは召喚術ありだ。……少年、元気付けといて悪いけど、本気で止めるから、本気でかかってこいよっ」

 そのまま、真っ直ぐスピードを落とさずに走る。さあ、こちらはサポートに徹しようか。

 サラがトロールへ魔術をぶつけようとしていたが、遅い。彼女の手足を水が掴む。

「オンディーヌ。掴め」

「この程度っ」

 体についた雫を払うように、体にまとわりついた水精をはじき消す。……一撃か。やってくれる。

「こいっ、ティターンの巨人よっ」

 人間の、二倍はある巨人が手に持った巨大な斧を振るうが、彼女はそれを舞い落ちる木の葉のような軽い動きで避けると、腰から剣を引き抜き、斧を持っていた右手を切り落とす。

 巨人の、筋肉を豆腐のように切るさまは見ていて、ぞくりとした。

 恐ろしい。やはり世界は広いな。

「奥義連三式、竜の火炎」

 きっと彼女は巨人を切り裂くために向かっていたのだろう。ティターンの後ろに隠れ、それを貫き炎を投げた僕には詳しくはわからないが。

 召喚主の放った炎に体を貫かれたティターンは光の粒子になって消える。

 召喚時の死は死でなく、召還だとはいえ、気は進まない戦法だが、まあしかたがない。

「必殺の奇襲だったんだが。あれでも手にやけど程度か……」

 巨体が消え去って見えた光景は手を突き出した彼女の姿。手に付けた白いグローブの先から煙が出ているが、偽竜の炎でそれだけなのだから、彼女の腕はすさまじい。

 奥義の三式は二式の逆。召喚獣の手や、足、魔力だけを呼び出す中途半端な技。召喚獣本人が出しているのでないので、真っ直ぐ放たれるだけなので命中力に欠けるが、その代わり高位な召喚でも二式と同じように大して力と時間が要らない。

「ナンパは嫌いだが、美人なお姉さん。あなたは何者だ? 僕らが塔の人間だと、知っていたように見える」

 サラは手袋を急いではずすと地面にたたきつけ、手を口の前に持っていって、ふ〜ふ〜と息を吹いていた。

「タイムっ。ちょっとタイム」

 ……ま、いいさ。こっちははなから彼女を倒せると思っていない。さて、まわりはどうなった? 後ろをちらりと見てみれば、すでにジョイルたちの姿は無かった。どうやら満足してくれたようだ。

 で、ソルトのほうを見てみれば、少し予想外の状況だった。

「うああ〜。なんだかお腹一杯です、マスター。というか溢れてます」

 と、召喚術を打ち消す緑の少女が淡く光りながら言っていた。どういう原理で無効化するのかはわからないが、体中の淡い光は召喚の魔力のようだ。まあ、これはいい。

 なんだか、別の世界がそこにはあった。

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

 ソルトは、トロールを男にぶつける。トロールの持つ棍棒を避け、体を剣で切り裂いたのはいいが、トロールは自身の持つ驚異的な再生力ですぐに回復した。

 あいつ、腕はいいけど他と比べると見劣りするな。

「名前は? 俺はソルト。短い間だけどよろしくな」

「こっちはセト。隣が妹でマナ。光ってるのがフリージア。って和んでるばあいかっ」

「いやー、向こうと比べると戦力が落ちて余裕あるみたいだし。さて、じゃあセトとマナちゃんはトロールに任せて、俺はクリス王子の相手でもしようか?」

「うわっ、なめられてますよ〜。セトさん」

「むう。しかし俺らのような一般人にはなんともしがたい壁があるんだが。俺から見るとこいつとか超人に見えるし」

「大丈夫っ! 私はやれるよっ!」

 セトの妹さんのマナちゃんがトロールに向かって走る。その動きから武術の技を感じたが、正直、魔術の伴わない体術ではトロールを倒すのは至難の技だ。トロール自身も小娘など取るに足らないと思っているのか、防御行為すら行わずに彼女のパンチを受けた。それが、彼にとっての命取りであったが。

 ばごーんと普通ありえない効果音をたて、トロールは吹き飛び、壁にぶち当たり光の粒子になった。それはすなわち即死と言うこと。

『い、一体!?』

『ん?』

 ソルトとセトの声がはもる。あっちも知らなかったのか。

「やるな……」

 ソルトは召喚獣を呼ばずに、単身でマナへと走る。彼女の鋭いパンチを腕で防ぐ。トロールを一撃で葬る力だ。人間じゃ、生きられるかも疑わしい。

 が、彼女の攻撃を無傷で受ける。驚く彼女に蹴りを食らわそうとしたが、すばやく後ろに下がられたためあたらなかった。

「奥義連四式、召喚体術。ホントはもっと難しい名前があったんだけど、わかりやすいしな。目には見えない精霊を呼んで手伝わせる体術で、まあ、パンチくらいならあたらないようにすることができる」

 多分、彼女の力の秘密は魔力だ。人としての怪力じゃないし。

「マナ……何、あの怪力」

「お兄ちゃん、怪力とか言われると少し傷つくよ。これはね、ルカちゃんとの訓練の成果なんだよ。私の体に集まる魔力を攻撃が当たった瞬間に大放出するの」

 うーん、やっぱりそんな感じか。となれば、召喚獣に相手をさせるわけにもいかなそうだし。

「雷の騎士、ここに光臨。……ライトニングバロン、行けっ!」

 ずっしりと、重量感のある白い豪華な鎧を着た騎士が現れ、ソルトに礼をしてからセトのほうに槍を構える。

「クリス王子とセトはこいつの相手でもしていてくれ。……ちなみに触ると、痺れるぜ?」

 ホントは一度はかっこよく言いたいセリフだったが、あまり意味なさそうだし、そういう場合でもないのでさらりと言っておく。

 マナちゃんがバロンの方へと行きそうだったので、間に割りはいる。

「相手は俺ね。すまないけど」

「くっ」

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

 向こうにあったのは、武道大会のような激しい肉弾戦を行うソルトと少女と、バロンに切りかかり、すぐ逃げて、また切りかかると言うヒット&アウェイをクリス王子の補助を受けながら繰り返す男の姿だった。

 

「ま、まあ、順調ではあると言えるか……」

「そーみたいね。まあ、君が敗れなきゃ、だけど」

「そうだな。実力であなたに勝てるとは思っていない。僕ができるのは、せいぜい時間稼ぎくらいだ」

 

 次に呼び出すものの候補を頭に思い浮かべながら、サラの出方を待った。

 汗がすっと首を伝い、集中のせいで、世界が音を失う。

 自分だけの静寂を感じながら、リュークは構えたのだった……。

 

 

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