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◆白夜◆

三十二




 

 

 体の周りにばちばちと電気を帯びた騎士がゆっくりとこちらに近づいてくる。隙だらけのトロールとは違って、こちらには隙すらない。

「近づくだけで、髪の毛立っちゃいそうだなぁ」

「そうですねー。ヘアースタイルのこだわりとかは無いですけど、痺れるのはごめんしたいですねぇ」

「だよな〜」

 俺とクリスの間に生まれたなんとなく暖かいものも、バロンの方を向いてみればすっと冷えていった。なんというか、目がマジでした。

「……冗談は通じないらしい。で、どうする? フリージアは光ってて、サラは足止め、マナは格闘。残るのは大してこれと言った力の無い素人と王子様だ」

「うーん、シェルをかけて、電気を防ぐようにしますね。あと、身体能力をアップさせて、ケガもリジェネで回復するようにっと。はい、補助終了です」

 クリスに手を握られたかと思ったら、青色、黄色、赤色、白色の光の玉が体を駆け巡り、なんとなく体が軽くなったような気がする。

 しかし、早い。見た目は子供だが、熟練した魔術士のような力を感じる。

 俺は、なんとなくやれるような気がして、バロンに切りかかる。

 きんっ、ぱしっ、げしっ。

 ……切りかかったものの、剣は受け流され、蹴りを入れられて吹き飛んで戻ってきた。手を地面にこすってできた擦り傷がすぐ治ったのを見て、さすがだなあとは思うが、なんというか。

「……うん! やっぱ俺には無理だわ。アレ強すぎ」

「僕だって、アレはちょっと……。見た目が怖いですし」

 しかし、音を立てずにバロンは近づいてくる。アレだけ立派な騎士装束なのに、音を立てない。まあ、普通の騎士じゃなくて、召喚された存在なのだからそんなものなのかもしれないが。

 40くらいのきりりとした顔。そしてヒゲ。顔は笑ってなくて真剣そのもの。付け入る隙も、逃げる場所も無い。救いを求めようと、サラの方を見てみる。

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

「さ、少し強めにやるわよ。……大地は掴み、空は閉鎖し、金は突き刺し、森は育み、雷は輝き、炎は燃える。七精よ」

 サラが歌うように言い、手をくいっと上げると、何の変哲も無かった平らな地面が召喚士の少年の足を掴み、どこから生えたんだか、緑が体を這い上がってゆく。

「がっ!? 息がっ。 せ、精霊術? ……まずいっ、風精召喚っ」

 現れた風を纏った女性が少年についた植物と、足を拘束していた岩を弾き飛ばす。

 少年は倒れるようにしてしゃがんで荒く息をつくが、大地が足を掴んだ時点でサラは近づき始めている。倒れた少年の体をボールを蹴るようにしてサラは蹴り飛ばした。

「……うわ。蹴り飛ばされてるし」

「あれ、金と雷と炎ってどうなったんでしょうか?」

 ……わかりません。

 吹く飛ばされた少年は、ふらふらだが、立ち上がると何かを召喚し、体を癒した。

「……まだ、やれる。リュークより先に倒れる気は僕には無い」

 どうやら、彼はまだ続けるようだ。

「そこの二人。もういいから先行って。ここは私たちが残るから」

 しかし、とバロンの方を見てみると、彼の放っていた電気が消え、鎧からはじゅーっという何かの焼ける音がした。

「鎧が、焼けてる? 動けないみたいですし、全身鎧が災いしたみたいですね」

「金と、雷と炎かあ。えぐい技だなあ。結構」

「は〜や〜く〜行きなさいってば」

 俺たちはバロンの横を通り、先に進もうとしたが、

「させるかっ。ゴーレム召喚。先をふさげっ」

 少年の呼び出したゴーレムが先に向かう道へと駆け出す。俺とクリスはお互いうなずき合うと、走り出した。俺らとゴーレムはほぼ同じだが、すこしだけ、ゴーレムの方が先を走っていた。

 これでは、ふさがれてしまう。

 そう思ったとき、何かが壊れる音がした。運命はあるんだなーって感じだ。

 なんと、洞窟に穴が開き、何者かがゴーレムの上に落ちてきたのだ。突然のことにゴーレムはバランスを崩し、倒れて光の粒子になって消える。

 落ちてきた人物は、すねをゴーレムにぶつけたようで、うめきながら転がっていた。

「〜〜〜っ」

「うわっ、僕なんだかどこかで見た事ありますよ、この人」

「奇遇だな。俺もなんだか見た事あるぞ」

「ま、マイライバ……ル。セトよ。このような姑息なトラップをセットするとはっ!」

「うわ、やっぱ記憶あるわ。マイケル=ダンディーだっけ」

 俺はそう言うと、転がるのをやめた彼の横にしゃがみ、優しく抱き起こす。

「大丈夫か?」

「ま、マイライバル……。ユーのハートはホントは優しかったのだな……」

 俺は彼の手をとる。

「ははは。バカいうな。ライバル同士には友情が芽生えるものさ。……これでよし」

 そういうと俺はマイケル=ダンディーを乱暴に下ろす。

「……な? こ、これは、ロープ!? いかんっ! 行かんぞマイライバル! ユーの趣味はユーだけのものにしてお……っておーい」

 俺は何かを言うマイケルダンディーにハンカチを噛ませる。手と足を縄でくくられ、ハンカチをかまされたので、もう何もできない。

 助けにはなったので、ありがたいのだが面倒はごめんだ。

「勝負の世界って厳しいんだぜ……」

「……なんで、神竜の守りのある洞窟には入れたかも疑問ですけど、セトさんが縄を常備してるあたりも謎ですね……」

「……さて、先へ行こうか?」

 クリスの問いには答えず、先へ行くように促す。

 ちなみに、問いの答えはおじさんがくれたから持っている、でした。

 

 進み先には、罠らしい罠が……すでに掛かってあり、俺たちは罠に掛かることなく先に進むことができた。いくつもの部屋や、曲がり道を越えてゆくと、先ほどよりは小ぶりだが大きいところにたどり着き、そこにはジョイル王子の残った付き人二人がいた。

「待っていたぞっ」

「そうだぞ。何もない洞窟で待たされるのは寂しいんだぞっ! 謝れ!」

「むお。兄弟、それは秘密にしておけ」

「さすが、兄貴! 秘密の男っ!」」

 

 ……ごめん、帰りたい。俺の前にいるのは少し太ったのと少し長身な男。なんだかふざけた会話ではあるが、実力はありそうだ。

「補助ってどのくらい効く?」

「今日一日くらいなら続くようになってます」

「……俺が二人相手するから、先行けよ。兄貴と話するんだろ?」

 

 こくりとうなずくと、魔術を唱える。魔力の風がおき始め、かまいたちとなって彼らに向かう。彼らも、その程度はなんでもないのか、すばやく移動するが、土煙によって、少し見づらい。脇に避けた彼らにかまわずに、クリスは真っ直ぐにかけてゆく。

 がんばれ。

 

 ……あれ、俺、神竜手に入れなきゃいけないんだよな。じゃ、早く追って、二人が争っているうちにちゃっかりゲットがベストか?

 

「兄貴! 王子行っちゃったよっ!」

「そうだな! こいつ倒して早く追うぜ!」

 

 ……ていうか、進めるか? あー、やっぱクリス王子と一緒だった方が良かったかもなーあ。

 

 

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