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◆白夜◆ |
第三十三話 〜1〜 |
ただ、ひたすらに薄暗い闇の中を走る。 薄暗い通路にはもう罠が仕掛けてないらしく、終わりが近いことを知らせていた。途中で階段を降りたので、さらに深い場所へと進んでいるようだ。魔力もさらに強くなっている気がする。 なんとなく、この道が自分の人生に似ているような気がする。 薄暗くて、どうしていいかわからなくて。ひたすらに前へ前へと走って。 ……間違いだったのかな。昔感じた温かさを。憧れの光を取り戻したくて、暗い闇の仲で走り続けてきたけれど、闇の先には、闇しかないのだろうか? 十分以上走り続けたせいだろうか。そんなことを次第に考え出すようになってきた。 通路の先が少しづつ明るくなって来る。……そう、どんなものにも永遠はなく、終わりが潜んでいるのだから。 兄様。兄様。憧れの人。……僕は、あなたみたいになりたくて、生きてきたよ。今でも、あのときのあなたを目指して、走っているよ。 神様、終わりをくれないで。ずっとずっと光を目指して走らせて。 ◆◆◇◆◆ 「……おあつらえ向きの場所だと思わないか? クリス。ここには大量の風の魔力が漂っている。神竜を後継したときほどには強くなれないだろうが、それに似た状態にはなれるだろう。……絶好の場所だ」 その場所は、淡い緑の光の粒で満ちていた。 一般的な民家一、二個分の広さと、岩の橋。 橋の先には祭壇と、強力な竜の気配のする場所。しかも、ここの端もまた断崖絶壁のような感じでそこの見えない深さがある。落ちれば助からないだろう。 地面に多く、天井に少なく漂う、こぶしの半分ほどの光の粒子がいくつもあり、それがクリスに力を与える。 セトに施した高位補助魔術で消費した分もすぐに消え、体には今までに感じたことがないほどの力が、温かみが宿る。 確かに、決戦に向いた場所なのかもしれない。 体は暖かくなれど、心だけは冷たく凍る。 「兄様……。あなたは、どうやっても王にはなれません。 例え、僕を殺して神竜を一時的に後継したとしても必ず、兄様の前に後継者が現れ、竜を取り返してゆくでしょう。 今なら、今ならまだ間に合うんです……。あの頃に戻れる。だから――」 冷たい、何か物を見るような目でクリスを見つめ続けていたジョイルはその瞳に意思を、クリスをクリスと思い見つめる。 瞳に少しだけ、優しさが宿ったように思えたのは、勘違いでしょうか。 「俺には、戻りたいあの頃など、存在しない。 確かに、あの天使には王として、神竜の受け手として選ばれなかったようだな。……だが、天使ごときの意思に従う理由もない。 確かにお前を殺したとしても、お前の代わりの人間が来よう。だが、お前ほど有能ではないだろう。俺を殺すための暗殺者が来るだろう。けれど、竜の力に敗れることだろう。そう――」 「俺は王として生きる」 ……クリスは、そう言う兄の眼に狂気の炎を感じ取った……。 ここで、退いてはいけないっ! 「無理……です。そうですよ! 無理です! 暗殺者なんかじゃない! 神竜の継ぎ手がっ、他の国の王が兄様を殺しにやってきます。竜の使い手ならば力を抑えることができるからっ。でも、でもそれって……戦争、じゃないですか……」 「そう、今まで、世界には大戦が存在しなかった。天魔戦争があったが、あれは天使と悪魔の戦い。人同士のモノは初めてになる、か」 「人が、死ぬんですよ!?」 「……人を殺さない王なんていないだろう。 王は民衆の、国の上に座って生きる。生かされる。そこにはあまたの犠牲があるだろう。たくさんの苦労があるだろう。 ……王以外の生き方を教えられた、感じられたお前と違い、俺には王としての生きる道しかない」 ジョイルはしゃらりと剣を引き抜く。剣はうっすらと淡い緑に光、強い魔力剣であることを示していた。弱い魔術障壁程度なら紙のようにたやすく切り裂けるのだろう。 「さあ、始めようか」 ジョイルはクリスに斬りかかる。クリスは短刀で剣を受け、そして流す。 自身より年が上で、力強い一撃に痺れを感じ、後ろに跳躍する。 しかし、ジョイルはその隙に風の魔術を放つ。 場の力により強化されたそれ。 クリスは風属性封印の魔術で対抗する。これは一属性の魔術を使用できなくする術である。本来ならそれで消えるはずの風の魔術であったが、威力は減ることなくクリスを切り裂いた。それで死ななかったのもまた、場の力によって高められた防御力の賜物だろう。 周囲には魔力の風にえぐられた深い跡が残っていた。 「あ、あうう……」 「属性封印が竜の場で行使できると思ったのか?」 「兄様……っ」 体中にできた大小の切り傷も、治癒の魔術であっという間に癒される。 ……ここって、残酷だ。 「戦わずして死ぬか? ……それでもいいだろう」 そう、多少の傷ならばここでは簡単に、そして即座に癒せてしまう。なら、相手を倒すには? 無力化するには? 「じゃあっ! じゃあ! 僕が引きますっ。マリアさんとシモンに手を出さないでいてくれるなら、僕は王になんて……」 「無理だな」 「なぜっ」 「必ず、お前かマリアに俺を殺せという話がくる。 お前はそのマリアとシモンを殺すとルカあたりに言われても、俺を殺さずにいられるか? 意思を変える方法なんて、いくらでもあるだろう。それに、マリアのほうは俺を殺すのにためらいはしないだろうしな。 それに、お前を殺すことによって、俺の意思を知らしめることができる。 だから、死ね。クリス」 先ほどとは違い、詠唱を含んだ魔術。周囲の高圧な魔力がジョイルのほうへと流れてゆく。クリスはそれに対抗するのではなく、防ぐための魔術を唱えた。 ジョイルの手から、まばゆい緑の光が流星のごとくクリスへと襲い掛かるが、クリスにあたる前に透明の壁にあたり、消えてゆく。 威力自体は防げたが、衝撃は伝わってきた。びりびりする体に何とか言い聞かせつつ、大声で訴えかける。 「兄様っ! 話をっ! 話をっ!」 「もう、話すことはない」 ジョイルは切り捨てるようにいうと、クリスが知る、最大威力の魔術を唱え始めた。それは、大魔術師と呼ばれるレベルのものでなければ唱えても発動しないような高位の魔術であったが、この場の高魔力がそれを可能にする。 兄様は、ここがどういったものであるかを知っていた? そうでなければ、自身が使えない術を覚える必要などない。その術はクリスの力では防ぐことはかないそうになく、回避もできそうになかった。 生き残るためのすべは、打つ前に兄様を殺すこと。 けれど、最後の踏ん切りがつかず、クリスは何もできないまま、魅入られるように高められてゆく魔術を見続けた。 |
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