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◆白夜◆ |
第三十七話 〜2〜 |
「以上をもって終了とする。汝らはこの時、この瞬間を持ってフィスを得る。マティア=レムレス=フィス。そしてルカ。姓を持たぬ汝は現在を持って姓を持つことができ、姓がもつ特権が認められる。希望する姓はあるか? あるならば今、申してみよ」 「はい。私、ルカはリーフェの姓を頂きたい」 「認めよう。ルカ=リーフェ=フィス、並びにマティア=レムレス=フィスに竜の加護あれ」 王を前にした儀式が終わる。その後、女官に連れられ、術士におへその右十センチ辺りに小さな紋章を刻まれる。普段は隠れているらしいが、本人か確認したりするときなどに使ったりするとか。 まあ、めったにないと女官さんが言っていたけれど。 「それにしても、声かけてくれなかったなあ。ユーリ王子様」 「誰がなんだって?」 廊下を歩いていた突然の声だった。内心の期待はあったものの、それははずれで幼い、だがしっかりしている女の子の声だった。 「ルカ」 「そうさよ、マティア。それよりなにやってるのさ。歓迎会の会場はそっちじゃない。ほら、目当てがいないからってしゃきっとする。歓迎会には王子は来ないらしいけどね」 「……そうなんだ」 「ほら、しっかり歩く」 ルカはマティアの腰を押した。体が勝手に前へと進む。背を押されるよりも簡単に押されてしまうのだ。腰は。 「はあーい」 ◆◆◇◆◆ 「ほー、ほー、ほーぅ。君らが新しい宮廷召喚士ねー。若っ! こっちの子若っ!」 歓迎会と書かれた案内を標に部屋へとはいれば何十人もの人の宮廷召喚士がいた。若い若いとルカのあちこちをいじる彼らとて、マティアと比べればそう遠くない年であるように見える。 パーティ会場を見渡せば見知った顔も結構あった。すなわち試験に受かったみんなは私たちが儀式を受けている間にすでに集まっていたと言うことなのだろう。 そう思って回りをよく観察してみればうっすらと顔を紅に染めるものも多数いる。酒気を帯びてるのか。 「うわー。かわいー。首席かわいー。目が赤くてきれー」 「わっ、うわっ、髪がっ。わあ、だれ!? 今触ったの!?」 大歓迎をルカは受けていた。でもまあ、そういえばこの光景は召喚士の学校に入ったときにも見た覚えがあるし、クラスを変えるたびにそこで起きていた現象のようにも思えるんですが。 「結局のところ恒例、なんですよね」 「ああ、そこっ! ため息ついてないでたーすーけーる」 ◆◆◇◆◆ 「さて、宴会お楽しみでしょうか、新入生皆様。ここで雷竜聖騎士団長からお軽い一言があります。さっ、どうぞ。お堅い担当様」 「えー、おかしな紹介から始まりましたが私が聖騎士団長です。宴会の席で堅っくるしいことを言うつもりはないので手短に。 宮廷召喚士はモンスター退治や凶悪犯罪者の迎撃や捕獲は主とした任務には本来入らないものの、最近では派遣と言う形で雷竜王国各国に聖騎士と共に行くことが多々あります。 場合によってはそこに骨を埋めることにもなるわけですが、召喚士は後衛として、指揮者もかねます。すなわち、君たちは我々騎士を率いることになります。正しく学び、多くの命と平和を守っていただけることを願っています。以上です」 「はい。以上で聖騎士団長からのありきたりで耳タコなお話は終えます。終えちゃいます。えー続いては一発芸の貴公子、宮廷召喚士のバカ男……」 こうして、宴会は長々と続いてゆく。 思ったものと違い中々に面白いパーティではあったものの、ルカはどこぞへ連れ去られ、ユーリ王子様もいない。 パーティー内の舞台では何がなんだかよくわからない曲芸をしているところだった。 ホーリラビットと言う、そばにいる生き物の自己治癒能力を上昇させると言う召喚獣に傘を銜えさせ、上にボールを乗せて回させていた。 皆が釘付けになっているうちに、こっそりと会場を出る。 ◆◆◇◆◆ 「う〜ん、疲れました」 ゆっくり背伸び。そして腕を天まで届けと大きく伸ばす。ここは裏庭。人気はなく、誰も来そうにない。 池には薄く、そして淡く光る蛍が幾匹も飛びかう。明かりの美しさに今の闇を知る。いつの間にかずいぶん暗くなったものだ。 石に腰掛け、蛍を眺める。美しい。 「だ〜れだ」 視界が一瞬で完全な黒に変わる。びっくりして顔を動かすと簡単に目を隠していた手がどかされる。 「ああ、驚かせちゃったな。ごめんごめん。マティア、宮廷召喚士合格おめでとう。第二位だそうだね。素晴らしい成績だと思うよ」 「ありがとうございます。私、マティア=レムレス=フィスは光栄に思います……なんちゃって……」 「あはは。もうちょっと修行が必要だね」 そういうとマティアの横に腰掛ける。完全に夜の闇に染まったわけではないが、空は闇混じりの紺色。蛍の光が池に揺らめき、幻想的に近い光景を作っていた。 「知ってるかい。もうじき、僕は竜を継承する。……正直、辛い。人々にとって神竜は大切でなくてはならないものだ。この国の民の生活は神竜の存在ゆえに成り立っている。平和も。だが、大きな力は人を縛る……」 マティアは静かに彼の言葉に耳を傾ける。その横顔がただただ切ない。かける言葉もなくただただ黙る。 「そして、僕は竜を継承したら妻ができる。……会ったこともない女だ。この国の、この世界のバランスを保つだけの妻。……心が苦しい」 「わ、私は……」 「君とも……あまり会えなくなるね。王になってしまえば、寂れた井戸に一人で行くなんて滅多にない。……シルにも会えなくなる」 「私は宮廷召喚士だから……」 「そうだね。そうじゃなかったらまったく会えない様になるところだった」 マティアの胸は張り裂けそうなほどに高く鼓動していた。血がいつも以上に活発に働いている心臓によって全身へと送られ、体すべてがかっと熱くなる。 ……ユーリさんも竜を私が得ることに賛同している。 知っててこんなことを言っているわけではなく、偶然の愚痴なのかもしれないけれど、元々硬かった思いが一層に固まる。 神竜を得、王女になって結婚する。 宮廷召喚士になり、住居等の問題も片付き、そして、宮廷召喚士ゆえに神竜後継の儀式にもわりと近くで参加することができる。 神様の許しがあるに違いない。そう……運命なのだ。 「ごめん。変なこと聞かせちゃったな。そろそろ戻らないと皆が心配するよ」 「あ、はい。あの、その……そんな心配しないでも……きっとうまくいきますよ」 そう言ってにっこりと微笑んだ。つられてなのかユーリもまたにこりと微笑む。軽く片を掴み寄せると頬へ甘く口付けた。 「ありがとう」 そう言って立ち上がる。「あのっ」そう、呼び止めようとした。ユーリは振り返り、小さく微笑むと軽く手を振る。 そうして行ってしまった。 「え、えへ」 マティアはもう誰もいない先を見て、ニパリと誰かが見たら怪しむような笑みを浮かべた。頭の中は先ほどのことでいっぱいになり、パーティーに戻っても何一つ頭に入らなかったという……。 |
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