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◆白夜◆

三十八





 


 

 風竜の継承を終え、俺たちは今、フリージアの力で雷竜王国へと移動しようとしている。正直、微妙だ。

 

「だってなあ……」

 三人の真ん中でぶつぶつと……固定座標だの異空間なんちゃらだのと呟き続けている少女を眺めていると、うん。ちょっと微妙ーです。

 彼女の力はちょっと前に見た。

 高位の召喚獣を消し去ったり、罠を回避したり。だが、正規の方法で……一番金のかかる手段でも半月近くかかる道のりを一瞬で移動できると言われるとやはりどうなのかなぁと思う。

 

 常識、と言うやつだ。

 それに今の状態がなんとなく気に食わない。

 転送時に近くにいないといけないとかでかれこれ十分ほど彼女を三人で囲んでいるが、邪魔しないようにお口にチャックモードだ。

 すると今度は前を……フリージアを見続けていることが気恥ずかしくなってくる。

 

 白い肌。もちの様に柔らかそうだ。翠の、美しい髪。さらさらだ。金と紫のオッドアイ。宝石はめ込んでないか?

 何度見ても人じゃないとは思えんなぁ。ある意味で人らしくないが。カラーリングとか。

 

 フリージアの腕に輝く風竜の紋。それを見るたびに俺はやったのだと、やってしまったのだと思う。

 最後に、どうなるのかは相変わらずわからない。わかるのはマナが完全に助かることと、ルカの狙いが叶うと言うこと。

 

「行きます」

 

 少女の声が頭に響く。行きます。

 足元が発光しだし、透けてゆく。十秒ほどで全身が消え……。

 

「ここ、どこかな? お兄ちゃん」

「さあ」

「大量の機械ね……」

 そう、そこはフリージアと初めてであった……というかいた場所になんとなく似た雰囲気の場所だった。

 大量の機械。透明な管とそこにはいっている魔物のような生き物達。

「雷竜のすぐそばです。反応があります」

 と言うことは一応成功なのだろう。でも何度見ても嫌な感じの場所だ。

 俺たちは周りをきょろきょろと見渡しながらも恐々と先へ進んでゆく。

 入り口らしき場所にはフリージアのときと同じく門があった。俺しか開かない? それだったと思うのだが、大丈夫なのだろうか。ここまで来て出られるのは俺だけというのはなんだか。

 しかし心配は無用のようでフリージアが手で触れるだけで扉は消えうせた。俺のときは飲み込まれたのに。ちょっと不満だ。

「井戸、の中かしらね」

 扉より十メートルくらい進むと段差があり、その段差を降りると水の張られた丸い空間に。上を見上げればレンガでできた壁。丸い空。サラの言うとおり井戸だった。

「なんだー!? お前たちなんだー!?」

「うわ〜、お兄ちゃん、妖精だよ、妖精。かわいいー」

「かわいいいうなー。ここはおれの場所だぞっ!」

「妖精さん、ここって雷流王国?」

「そうだー。ていうかこいつ話が通じないー」

  だ、だめだ。マナが妖精の魔力(?)にぴよっている。俺はマナの肩をつかみ、サラのほうへ押しやった。目で合図をすると了解してくれたようで「妖精さーん」と甘ったるい? 叫びをあげるマナを押さえてくれた。

「あ〜、とだ。君の名前は? 俺の名前はセト。ただの怪しくないお兄さんだ。なんならセトポンと呼んでくれてもいい」

「呼ばん」

 しかしそのやり取りに冷静さを取り戻したのか、おとなしくなる妖精。多分、掴まれたり、突っつかれる危険がないと理解してくれたのが大きいだろう。あとでマナには教育的指導をしてやれねばならないと思う。失礼だし。

「……おれはシルス。ちょっとこいよ。話し聞くから」

 ふわふわと宙を浮く妖精は扉にしみ込んで行った。俺たちも後を追う。

 機械や怪しい装置に囲まれた部屋をふわふわと飛ぶ。先ほどまで気にもかけなかったもののひとつにシルスが手を触れると宙に同じような扉が現れる。

「ついて来いよ?」

 扉の先にあったのは……茶の間だった。

 

 い草を縫いこんで作られた薄緑の畳と呼ばれる床。中央に配置されているのは古代伝説の暖房機、コタツではないだろうか?

 伝説の部屋だ。うわっ、すごいわ、これ。

「すご。これってコタツだろ? コタツ? みかんもあるのか? うわーうわー。すごっ! 文献でしか見たことなかったぞー」

 目を輝かせる俺の肩を掴むとマナはサラへと俺を押しやった。二人はうなずきあい、サラが俺を押さえつけた。デジャブ?

「……変な奴ら。でもようこそ。フリージアとその仲間達。ここはお前のお父さんたちが残した場所だぞ」

 シルスの言葉にその場の全員がフリージアを見た。

 

 

 

 

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