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◆白夜◆

四十







「お父さん。いたのか」
 フリージアは作られたものだとばかり思っていた。
「研究者たちだけどな。ここにはフリージアが竜の力をきちんと所持できるようになる装置が置いてある。大体、換装に半月ばかりかかるから雷竜の継承にはちょうど、ってところだな」
 ちっこい妖精はくいくいとフリージアを誘う。
「行ってきます」
 ぱたぱたと手を振り、フリージアは妖精と共に奥へと消えていった。どうやら待っていろと言うことらしい。
 ……そう言えば、フリージアのこと、よく知らないなあ。一緒にいるのに。
 なぜだろう。心のどこかで違う、と言う声がするのは。
 ……何が何と違うんだか。
「さて」
「はて」
 さてと言ったサラに反射ではてと言ってしまった俺はぱしんと頭を叩かれた。
「……さ、そろそろ落ち着いてきたし色々話そうか?」
「……なーんか話すことあったか?」
 どうやらお気の召す答えではなかったらしく、般若を内面に宿したような笑顔でもって迫る。
「ルカに関係する物事すべてを教えなさい。あとあんたの目的も!」
 う〜ん。そう言えば彼女はルカを追っかけまわしているんだっけか。ルカの情報はともかく、目的のほうは教えていいものかどうか。
 普通に考えて後者はどうなんだろう。すなわち言えば全世界の国家転謀を狙ってるって言えなくもないわけだしなあ。
「黙ってても良いけど……私、この中じゃ一番強いわよ?」
 ぎゅっと硬く握られたこぶしが恐ろしい。
「実はだな!」
 俺はサラにマナが魔力を集めすぎてしまう病気だと言うこと、それを今ルカに一時的に止めてもらっていること、そして、完全に治してもらう代わりに俺は神竜を手に入れなければならないことを話した。それを話した上で俺は俺の知っているルカについてを話したが……。
「……結局何にも知らないんじゃない」
 おしゃるとおり。サラはよくそれで信じる気になったなという顔をしているが実際、他に手がなかったのだからしょうがない。溺れる者は、と言うやつだったのだから。
 サラは今聞いた話をよく吟味しているようだった。俺は彼女の反応を待つ。……最悪、この瞬間から敵になるわけだから。
 もっとも、前半には大きく反応しなかった辺りその可能性は低いと思うが。
「……あんたについてきた理由は二つ。一つはルカに遭遇しやすそうなこと、もう一つはさっきのあの子、フリージアちゃん」
「へ〜。サラも知ってるのか」
「まあね。……色々伝承と言うか話が残ってるみたいでね。謎だらけの召喚英雄王の遺産とも書かれてるらしいし、それを連れているあんたが神竜を手に入れても、ああ、そう言う事なのねとしか思わないわね」
「……で、それを踏まえてサラはこれからどうするんだ?」
「……とりあえずついて行くわ。いくつかルカを倒せそうなカードがあるんだけど、今のままだと勝ち目のほうが薄いのよ」
「悪いけど、あんたの命よりマナの命のほうが俺にとっては上だ。病気を何とかしてもらう前にルカを殺そうとしていれば俺は止めるし、最悪……」
 殺す。
「いいんじゃない? 私だって私の目的のほうがあなたたちより上よ。止めるなら……」 殺すわ。
 そんな物騒なことをお互いに言い合いながらもくくっと笑う。利害不一致のとき、俺たちは命を掛けて戦いあうだろう。お互いに譲れないものがあるのだから仕方がない。
 でもそれまでは、こうしていていいんだ。
 マナがかばんから出したお茶を皆で飲む。ゆったりのぼる湯気。場がほのぼのとしたとき彼女は言った。

「……さて、それはそれとして、あんた足手まといよね」


 ぐさ。

「魔術使えないんだって? 体術も人並みだし、根性だけかぁ」


 ぐさぐさっ。

「な、なんだよ」
「いやね? 風竜はよかったわよ。ちょうどよく継承の時期だったから。雷竜も良いわね。ルカも色々やっているみたいだし。じゃあ他は? 今のままでいけると思っているの? はっきり言ってあなたくらいなら新米の聖騎士でも十分に勝てちゃうわよ? ん?」
 正直言うと痛いところではある。ルカの特訓を受け、マナは攻撃の瞬間に魔力を爆発させる格闘術を手に入れたし、フリージアは召喚術を無効にできる。
 サラは何でもこなせる上級者だし。
 俺はオヤジに鍛えられていたせいでなんだか妙な強さは持っているものの、彼女の言う通り、魔術が使えない上に格闘も弱い以上、新米聖騎士にも劣るだろう。(聖騎士は剣と魔術両方が要求される職業だ)
 だがまあ、ホントの事とはいえ、腹が立つものだ。
「だったらなんなんだよ」
「鍛えてあげるわ」



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