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◆白夜◆

四十一








「さてと、新入り主席のおふた方。今日はま、竜の継承儀式だから警護を頼むよ。と言っても学生上がりにたいして難しいことをしろなんて言わない。ただ立ってればいいのさ。要するに。すると不思議なことに明日の朝には現金の詰まった袋がもらえて、明日は休日。祭りを堪能。……こういう仕組みなわけだね」
「へえ? それは素敵だね」
「だろうだろう。てなわけで明日は俺と過ごさないかい。二人とも」
「悪いけれど、先約があるからねえ」
「そりゃ残念。まあ、三十分ほどはこの持ち場を担当することになっているからよろしく」
 マティアとルカが配備されたのは城に入って五、六分程度歩く適度な位置だった。
 王に遠く、しかし入り口間近、と言うほどでもない。
 と言っても周りを見てみると誰しもが明日の祭りの楽しみを思い描いているのは間違いなさそうだ。
 警戒、と言えるものでもない。
 
 とはいえ、配備されているのは上の水、下の火を支える中立、雷竜の兵士達だ。いざと言うときにはしっかりと行動できるだろう。

「大丈夫でしょうか? 私、竜を手に入れられるのかな……?」
「さてね。仕込みは上々、って所だけれど。まあ、まだ時間はあるよ。……ばあさんのところへは行ってきた?」
「はい。お守りだって腕輪を渡されました」
 鈍く光る翡翠色の石がはめ込まれた質素な腕輪。
「制御リングか……。まあ、多少の役には立つかもね。まあ、少しのんびりとしてよう」

 マティアはびしりとした体制を崩し、壁に体重を任せる。

「これが叶ったら、こ、告白……です。受けてくれるでしょうか?」
「さあね。もしかしたら断るかもしれないね。わからないけれど」
「ひどいです。励ましてくれてもいいのに〜」
「励ましてるさ」

 ぼっと立っているとそれなりに眠気を感じる。マティアは自分の瞼が重くなりだしていることに気づいているが、なんともしがたい。
 腕をつねる。舌をかむ。
 ……眠気が飛ばないなあ。

 そんななか、二人の横を一人の女性が通る。
 
 美しさに目を奪われた。
 
 目も覚めるとはこのことなのだろう。
 眠気が去ったことにすらしばし気がつかなかった。

「びっじん……。すごい! ルカ見て見て!」

 しかしルカはそれに答えず、顔を背けて見ようともしなかった。

「もう、行っちゃいましたよ?」
「知ってるからいい。彼女はサラ。女性の冒険者では最も有名で最も強い人だよ。王族、特に竜王家の人間とのコネを多く持っている。……心配せずとも今回の邪魔にはならない。今回は譲ってくれるはずさ」
「ふうん。あんな美人とも知り合いなんですねー。ルカは」
「まあね。……それより、そろそろ行こう。……レヴィアのバラよ……」
「?」

 ルカはその小さな手のひらを強く握り締め、開く。
 すると不思議なことに手のひらから真紅のバラが水のように出現し続ける。

「城には魔術を感知する装置がある。その装置の仕組みは簡単。七大属性の結晶石がはめ込まれたアーティファクトと城のシールドを共鳴させているだけだ。
変な魔術が使用されればシールドが振動し、魔術を行使できるもの……つまり城の殆どのものが異変に気づくと言う仕掛けだ。だけれど、七大属性以外……すなわち天使や悪魔の魔術は……感知されずに使い放題だと言うことさ。命ずる。すべてのものよ。合図まで私とマティアを知覚するな」
「……天使? でも……」
「例外って言うのはいつでもあるものだよ。別に天使の力を使える人間がいたって変じゃないだろう?」
「……そーいわれるとそうですね」
「うん。そうだよ。じゃ、行こうか。君の王子の下へ」



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