back/home/index/next
◆白夜◆

二十二



 

 

 時間ってのは結構早くすぎていくものだ。気づけばクリスとの約束の日時が近づいてきた。

 それまでの間、俺は風竜各地の図書館を巡り、竜や天使なんかの資料を読み漁っていた。あと、人型のアーティファクトのことも。

 しかし、どれもこれもたいして情報が無かった。まあ、仕方ないと割り切るしかない。

 マナは毎日ルカと何かの練習をしていたようだ。

 聞いてみたんだが、『そのうち見せるから』とか言ってはぐらかされてしまった。

 毎日をゆったりと過ごしてしまった気がするがなにぶん何をしていいかが分からない。

 しかし、それも終わりだ。俺とマナとフリージアはサラの止まっている宿『城ヒゲ』を訪れた。

 ちなみにルカはもうここにはいない。

  

 

◆◆◇◆◆

 

 

「あ、ボクは一緒にいかないから」

「え、なんでですか?」

 店を閉め、宿へ向かう準備をしているときにルカはいった。

「マナは知らないかもしれないけど、ボクは元々この継承争いには参加しないことにしてるからね。まあ、キミ達なら何とかできると思うよ。それにボクは風竜以外の竜を手に入れるための準備をしなきゃいけないからね。フリージア。雷竜への転送ポイントはわかるかな? 城の付近の隠された研究所の転送装置が生きている。キミなら分かると思う。風竜を手に入れられたら今度は雷竜へといってほしい」

 ルカの言葉を聞くとフリージアは目をつむる。声に出さずに会話するように口を動かし、

「ポイント……。はい、分かりました。大丈夫です」

「雷竜ね。お前って色々やってるんだなあ」

「まあね。といっても、計画はボクがこの地へ来たとき……いや、それ以上前からあるらしいからね。まあ、キミらは目の前に現れる出来事を自分なりに処理していけばいい。セト、キミが最後までキミらしく生きればきっとすべてうまくいく。世界は答えてくれる」

「恥ずかしいセリフだな」

 ルカの言った恥ずかしいセリフに俺は頭を掻きながら答えた。

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

「よく来たわね」

 城ヒゲに付いた俺たちが見たのは城ヒゲ特製パフェ『ヒゲボン』(何をもってこの名前にしたかは問いただしても答えてくれない)をおいしそうにほおばるクリス王子と一緒にそのどでかパフェをつっつくサラの姿だった。

「ラブラブだな」

「んー? ああ、見てたら食べたくなったのよ」

 テーブルには他に空になったコーヒーがあった。

 なんとなく言葉を交わしづらいような気がする。なにせ最後にあったのはルカとの争いのときだ。そんな俺の様子を察したのか、サラが口を開く。

「トイレなら奥にあるわよ」

「ちゃうわっ! あんたがルカに怒ってたみたいだから気まずくしてただけだっ!」

「あ〜、それね。別にもうルカどっかいったんでしょ? じゃあ、関係ないわよ」

 あれほどに怒りを感じていたサラの姿と今との差が大きくなかなか納得できない気もするが……。

「ルカはネットワーク広くてね。大抵の権力者や強力な力の持ち主にはアプローチしてるわ。ってことはあなたたちもそれなりに力か……素質がある。例えば、竜を継承できる力とかね」

 俺の目をまっすぐ見るサラ。深い、紫色の瞳が俺の心を探るように見る。その視線に耐えられず、俺は顔を背けた。いつの間にか『ヒゲボン』を食べ終えたクリスはおしぼりで口を拭いて言う。

「皆さん、準備はいいみたいですね。外に馬車を待たせていますから、どうぞ」

「あー、ちょいまち。そういえば、残りの一人とやらは見つけたのか? 俺とマナだけだと足りないんだろう?」

「え〜と」

 クリス王子は曖昧に返事をするとフリージアの方に視線を向ける。

「お名前は?」

「ふ、フリージアって言います」

「あ、フリージアちゃんっていうんですね。よろしくお願いします。……よかったら、一緒に来ません?」

 フリージアの手をとり、ぶんぶんと激しく上下した。驚いている。

 どうしたもんか。フリージアはどっからどう見ても人間で、アーティファクトには見えない。けれど、竜を集めるのにかかわるらしい。だとすれば、ここで連れてくのがいいかもしれない。けどなあ。

 一緒に生活してきたこれまでを振り返ってみる。確かに見た目よりは力がある。要領もいいし教えたことは何でもこなす。けれど、強いわけじゃない。いや、はっきり言って弱い。肉体的な強さで言えば普通の大人なら十分に倒せる強さだ。

 そんな少女を連れて行っていいものか? 

「金と紫の瞳……伝説に語られる……? そのうち分かるか……」

「ん? 何か言ったか?」

「なんでもない。それより、いいじゃない。大丈夫。元々私一人で守るくらいなんとかなるし」

「……そーなのか?」

 確かに彼女は強いだろう。俺も、ほんの少しだけなら格闘技をかじったし、オヤジからモンスターを食材としてゲットするときの修行として相手の強さを感じ取る技能を高めたことがある。

 でも、世の中には困ったことに魔術という存在がある。

 その力に疎い俺には彼女の総合的な戦闘力がどのくらいなのか全然とは言わないまでもあまり把握できない。

「そうですね。サラさんはものすっごく強いですから。冒険者としても最高のランクであるマスターランクですしー。それに僕は王になる気はないんです。ですから熾烈なぶつかりあいとかないですから心配ないですよ。」

「なるきないのか?」

 クリスはにっこりと笑う。なんだかその笑顔を見ていると『なんかそんな気がする』とか思い始めた。……はっ、これが王の魔力というものなのか。

 あれだな、なんか嫌っぽい。そう思いつつもなんとなく安心感が芽生えていた。ちいっ

「はい。ですが、争いが始まったら短い間だけでもいいので、兄様と話をさせてもらえませんか? 大事なことですので」

「まあ、やれたら」

「それで大丈夫です」

 俺たちは会計を済ますと、裏に待っていた馬車に乗り込んだ。その馬車は普通の馬車で王族たちが使うような豪勢なものではなかった。

 サラいわく、最近この辺に盗賊が住み着いたらしく、余り豪勢な馬車だとまずい、らしい。まあ、面倒ごとは避けるべきだしな。

 

 がたごとと揺れ、あまり乗り心地の良くない馬車の中、俺はクリスに話しかけてみた。

「なあ、王族ってどんな感じ?」

「変わらないですよ。どことも。いじめも、嫉妬も、尊敬も。優しさも、喜びも。どこにだってあるものがあそこにもあるんです。僕はあそこで生きてきて、セトさんは街で生きてきました。別に大して変わらないと思います」

「そーんなもんかね」

「はい。でも、僕には大切な人が二人ほどいます。二人ともとても優しくて、強い人なんですけど、権力と言うのは個人の力を封殺することができます。時と場合ですけど、とりあえず二人に関しては、そうです。ですから、僕はこの争いに参加しなくてはなりません。そして、兄様とできれば、二人だけで話したい」

 大切な人間、ね。俺と同じって訳だ。俺は馬車の中を見回す。

 決して綺麗ではないが、汚くはない普通の馬車。

  フリージアは馬車の窓からずっと外を眺めていた。なんでも、どんなものだって大抵が珍しく見えるらしい。まあ、そんなものかと放っておいている。サラはフリージアとは逆側で窓を眺めていた。だが、なんとなく眺めているだけのようで、ぼうっとしている。残りの一人、マナは静かに眠っていた。

  俺の住んでいる街、クレイドルから風竜王国まではちょいと時間が掛かる。クリスは街にある転送装置を使ってここへ来たといっていたが、今回はそれを避けるそうだ。『兄様に仲間を知られたくありません。転送装置は一箇所ですから、確実に知れてしまいます。事前に情報は与えないに越したことはありませんから』だとか。

 そのせいで、今はもう、それなりに暗くなってきている。でもまあ、このままで行けば、後半日程度でつくはずだ。

 疲れ、緊張……。いや、馬車の振動かもしれない。すうすうと寝息をたて、安らかな寝顔を見せる妹。

「そうか。まあ、俺なりにがんばってみるよ」

「はい。ありがとうございます」

 俺はそれを聞くと、体の感じる振動に身を任せるためにまぶたを閉じたのであった……。

 

 

モドル><メールフォーム><ツヅキ
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
Copyright 2003 nyaitomea. All rights reserved