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◆白夜◆ |
第三十話 |
なんだか、一生懸命にハンカチを振る悲しみの聖騎士を入り口に残し、俺たちは先へと進む。洞窟は壁につけられたアーティファクトのおかげで、オレンジ色に光っている。 隅々まで照らされているわけではないが十分に明るい。 ちなみに、今の時代の人に作られた魔道の装置はマジェムとか呼ばれている。マジックアイテムの略だとか、なんだとかでよくわからないが。 何が言いたいかといえば、町にある明かりや、装置など、日常で使われるものは今の人の手で創られている。しかし、古くから存在する遺跡などの物はすべてがアーティファクトであり、大抵が現在の技術では創造しえないものだということだ。 ……つまり、まあ、なんだ。遺跡にあるものは取り外して使えるんだったら、それすら金になる。言うなればこの明かりは金の明かり? おお、ありがたや。意味わからん。 「じゃあ、明かりつけますね」 「明かり? もう付いてるだろ?」 「いえ、そうでもないんですよ」 クリスはそういうと、壁に備え付けられたオーブに手を触れる。 その瞬間、光が舞い降りた……。 というのはいくらなんでも大げさか。先ほどまで、オレンジ色だった世界は太陽の下のような感覚を覚えなくも無いようなというほどに明るく、隅々まで見えるようになった。 「すごーい」 「神竜の力の近くにある遺跡って、大抵こんな感じなのよね。今の光はクリスの与えた力で光ってるのだけど、力が無くても常にあの程度は光ってる優れものなのよ。しかも、他と比べほんのちょっとの力で良いからねー」 「そうそう。優れものなんですよ。王家にあるものより質が良いんですよね」 ふーん。すごいな。でも、王宮だって物凄いはずだ。だって、魔道士としてかなりのレベルの奴らが勤めているところだし、腕のよいアーティファクトメイカー(名のとおり。アーティファクトを作る人たちだ。失われた技術を再現したり、それを使ったオリジナルのものを作ったりする。それの一つ下がマジックメイカー。 ちなみに、たまに遺跡を改築したお城もあるが、竜王国は全部ちゃんと建てられたものだ。 うん。だから? って感じだけど。まあ。 「しかし、すごいねーここ。なんだか、博物館にでもいるみたい」 「そうですね。ですが、気をつけてください。この先、三十メートルのところにトラップがあります」 何気ないマナとフリージアの会話に皆がびっくりした顔をする。 「どうしたんだ? みんな」 「どうしたんですか、皆さん?」 「いや、トラップ、あるの?」 不思議そうな顔をする彼らに俺とフリージアは問いかける。それに質問で返すサラ。それって良くないと思うぞ。 「あるだろ」 「あります」 うーんと何故か悩む一行。……何を悩んでいるのだろうか? 第一、サラはその道のプロだろう。わからないのだろうか。 「つーか、わからないのか? あんなにはっきりありそうなのに?」 「いや、うん。私はわかんないわ。というか、フリージアちゃんがわかるのはいいわよ。その子、アーティファクトでしょ? かなり高度な」 サラはそういうと荷物から、小さな装置を取り出す。小さな音と共に、赤い光が前方に伸びて行く。 「……確かに、あるわねー。ちょっと待っててね。解除するから」 サラは腰からアーティファクトのナイフを取り出すと、それを罠のある方へと向ける。 「除け闇よ。退くは魂よ。解除の歌が今響く」 歌うように放たれる言葉とともに、ナイフは赤に光、罠にこもっていたわずかな魔力がなくなるのが感じられた。 「神竜の力に満ちた遺跡のやばいところは、装置自体にほとんど魔力がないってことね。そこら中にすでに満ちているから、必要ないのよ。つまり、気づきにくいって事だけど。……罠、わかるんだ」 「まあ」 「わかります」 サラはアーティファクトをしまうと『便利便利』と嬉しそうに呟く。 なんだ? と思っていたら、クリスがそっと耳打ちする。 「実は、罠をサーチするのってお金と時間がかかるそうですよ。 さっきの罠を確かめる装置だって、見える範囲内に罠があるかどうか確かめられる程度ですからね。なかなか罠って大変らしいですよ。……まあ、罠ですし」 「そんなもんかねえ」 「というより、何でお兄ちゃんは罠がわかるの? というか、あれ、人の目じゃわからないよ」 「いや、よくわからん。見える人に見えない人が『何であんた幽霊見えるの?』と言っているのに感覚的に近いな。……そういう類のパワーに目覚めたのかもしれん」 だったら、便利かもしれないけどな。集団で生きるのに、異質は損をすることが多い。けど、個人なら、何かのために役立つ異質ならば好都合。 「多分、リンクでしょう。マスターの安全のため、障害になる魔道装置の存在を見つける力があります。詳細はわかりませんが、その情報がマスターにも行ってるんだと思います」 「えーと、つまり?」 「今のマスターは電波さんです」 ……待てぃ。それはっ! 明らかにっ! 意味が違います。絶対です。 「セトさんは電波さんなんですね〜」 なにやら、初めてそういう存在を見た。という感じで俺を見る。けど、邪なる心は感じない。珍しいものを見たという感じ。 「だれが電波だ」 そのまま先へと歩き出す。その後は割りと簡単だった。俺とフリージアが前を歩き、罠発見。サラが解除し、マナとクリスが応援。 「……なぜか知らないけど、私ばっかりが働いているように錯覚するわね……」 「たぶん、気のせいだろ」 そういうと、ふうと大きくため息をついた。解除だけって行っても、大変だからなあ。俺らは見つけたり、応援するだけだけど。 俺たちは、緊張感なくマナの手作りサンドイッチを頬張りながら歩く。立ち食いは良くないが、シートを敷いて歩くほどには時間がない。 ウィンディー特産のブルーベリーに似ているが、それよりも上品な甘さで、後味の良いアリカの実のジャムのサンドイッチはメンバーに大好評だったようで。 皆の賞賛にマナは顔を赤くして、小さくなっている。胸張ればいいのにな。 「どーぞ」 魔法瓶(普通だぞ)に入ったお茶を一杯のみ、それをサラに渡す。サラはそれにお茶を一杯入れ、同じように飲んで今度はクリスに渡した。 そういえば、間接キスかね……。 どうでもいいことを考えながら歩いていると、道がだんだん狭くなり、今まで前三人、後ろ応援組み二人の陣形だったが、それが一列になる。 狭い通路を歩くこと十分。唐突に広くなった。 「ほう。同時か」 広くなった洞窟には三つの道があった。ひとつは俺たちの通っていた道。もうひとつが進むべき先。最後が……ジョイル第一王子一行の通った道。 俺たちは、それぞれの武器を構える。 しかし、クリスは特に警戒するでもなく、不思議そうにこう言った。 「なんだか、兄様たち疲れて見えますねぇ」 ……そう言われれば、確かに、そうだなあ。 |
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