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『そうめんあるぞー』 短い一文に弟の愛を感じた。いい。おつりなど要求すまい。素晴らしい弟を持ったと感激する。 「達彦、おかえりー」 一軒家である我が家の二回にある我が部屋の隣にある弟の部屋。 そこへ目指してどたどたと階段を上りあがってきた弟にそう言った。声に気づいた弟はドアを開け、遠慮を感じることなく部屋へと入ってきた。 今年で確か十一になる弟は小学五年生の割には背が低いらしく、それを補うための悲しい努力として髪の毛が少しだけつんつんと立っている。 外で遊ぶことの多い達彦らしく肌はうっすらと陽に染まり、ところどころ皮が剥けていた。視線を合わせると好意に大きめの目がきらきらと光る。 昨夜は再会そこそこで眠ってしまったため、そう言えばまともに顔を合わせるのは久しぶりだった。愛らしい弟だ。 「おっ、おはよー姉ちゃん。起きたんだ。でもさーもう二十歳でしょ? ちゃんと起きようぜー」 「ふはは……受けとれい、弟よ」 くしゃくしゃに丸めたお札を彼の額へ向かって投げる。勢い無く投げられたせいでそれは額を狙ったもの胴の高さまで落ちてしまう。 達彦は屈んで拾ったお札をぴらぴらと楽しそうに泳がせる。 「そのお心は?」 「あれ。レモンが一枚入ってるアイスを。後は好きに使っていいよ。それとね、あんたの部屋で涼んでいい?」 「いいよ。でも出かけるときは切ってね」 「出かけないから切らない」 「せっかく戻ってきたんだし、友達のところに顔を出せばいいじゃん。だらだらしてないでさ」 「顔出しにくい」 「にくいにくいってやってるからどんどこ会いにくくなるんだと思うんだけどなあ」 うっさーいと追っ払う。 達彦は笑って部屋から出て行った。早く部屋を移りたい。弟の部屋にクーラーがあるなんてずるい。 ただこれはずるいというか、去年家を出て行ってしまった私の部屋にはエアコンが無く、ずっと住んでいる弟の部屋にはエアコンがあるというだけだけれども。 立ち上がるとゾンビのようにふらふらと移動する。ドアノブを力なくひねると帰るたびに倉庫的な機能を高めてゆく我が部屋とは違う片付いた様が広がっていた。散らかってないでもないが、なんにせよぱっと見の広さが違う。部屋自体は同じはずなのになぁ。 |
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