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ただ何にせよ放って眠ることが出来ないと言う事実と、寝ないからと言って関わらないわけにはいかないという二つの事実はぴったり私の傍にいるようだった。 そこまではいい。いい。 私はゴミ箱に隠されたぬいぐるみを手でぐわしと掴むとそれと対座する形でベッドに置おく。 「……言いたいことを我慢する人間関係は良好なものとは言えないと思うんだ。私はね。そりゃあ、嘘は人間関係の潤滑剤だし、何でも言ってしまうことが関係を悪くすることになることは多々ある。でも、言いたい。でふううざい」 『……ぐああああんっ! いきなりひどいでふー』 「大体、かわいぶったキツネのデザインも好きじゃない。それに、ナニ? この『癒しもこもこでふう』って名前。名前がでふうだから語尾もでふうなの? ひねりがない」 これが堪えたのか、何かが喉に詰まったようなうめきのあとに、彼は悲しそうに話しだした。 『きついです、お姉さん。でもこっちだって大変なんです。手作りはいいです。心こもっているから。作り手やもらい手が心を込めてくれます。でも、量産品。自分、量産品なんですよ? しかも、アニメ化して大人気なわけでもない、ぬいぐるみ。自分たちに個性なんて無いんです。でふうと名付けられたからにはでふうと言わねばならないんです。むしろ言うのがヌイグルミ道。……だから、許してほしいでふ』 あまりにも切ないその声は音色となって心に響く。旋律が入り込んで出来た隙間には(寛容。同情)という感情が住み着いたようだった。 「もう。……よかろう。苦しゅーない。話しなさい。どーんとね」 『ありがたいでふ。実はお姉さんの弟さんの達彦には恋する相手がいるんでふ』 「はっつ耳ー。ふんふん。それで?」 『多分なんでふけど、相手も達彦に恋してるんでふよ。でも二人、なんでかそれに気づかないんでふー。あまりにじれったくて、我慢できないんでふ』 「なるほど。それで、化けたのね」 『まあ、そんなもんでふ』 はあーんと深く納得する。弟も恋をする歳になったのか。不思議な感慨が体をめぐっている。 「あれ、そう言えば動けないの? あんた」 目の前のキツネと言っていいのか、改めてみると、ネコなのかな? とも思う顔と体の丸く大きいぬいぐるみが小刻みに小さく震え、足が一歩を踏み出し――そうになって転ぶ。 こてっと言っていいのか、ぽてっと言っていいのか。ともかく柔らかそうに転ぶと後はひっくり返った亀のように、というのは動作が大きすぎるか。死にかけた生き物のようにぴくりぴくりと手足を動かし、無駄だと悟ったのか止まる。 「まあ、ぬいぐるみだもんね。歩けるわけがないか」 『でふよ。ヌイグルミでふもん』 二人で合わせたように「だよねー」と言い合う。和気藹々とした優しい空気ができあがるが、私はヌイグルミを起きあがらせ、そっと肩を抱く。 「期待する方が変よね」 「うう、ひどいでふう……」 他にも色々と出来ることを聞いてみたが大抵どうでも良かった。 |
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