私は月が欠け、満ちるときの間中ずっとある人物を見ていた。
その髪はくすんだ金。肌は少々白く、だが美しいと言うよりはこもりきりの白さ。背も低いが、それは若い故にだろう。そばかすは多少にあるが、吹き出し物がないところは良い。
ようするのならば、普通の少年だ。
外で活発に遊ぶ子供たちならばそうはなるまいが、さりとて彼もののような人間の一人や二人が街にいないかと聞かれれば、いると答える程度のたわいなき一人。
いつかは誰かがその人物の良さを見出し、求婚するかされ、無難な人生を送るだろうと言う類の人種。
そう。魔王たる私が目をつけるほどの人物ではなかった。
◆◆◇◆◆
「魔王様。百組目の勇者が参りました」
王座に座し、魔物に囲まれた相手が自分たち人間と同じ外観を持つ女だと言うことに気を取られたようだ。
勇者を名乗る、見るからに目つき顔つき体つきの悪い冒険者風の男は驚愕の表情を見せ……灰となった。
魔王とは魔導の王。こことは違う異世界の覇権争いにて最たる力を見せ付けた種族の、さらに強きものを指す言葉。
そしてそれは同時に私を示す。
「あっけないな。この地の原住民は。私に似ているのだからと少々期待していたところはあるのだが……。レヴィン。私はもう勇者を殺さん。お前が代われ」
「わかりました魔王様。ではそろそろお暇を取ってください。これより百年ほどはあなた様がいなくてもなんとでもなりましょう」
「ふむ。ではどこへ行こうか。私にはこの地の知識があまりない」
「それではラーバ王国辺りへ足をお運びするのはいかがでしょうか。軍の者たちの報告によればあれほど良い場所はないとのことです。
楽園と皆は言います。長きに渡る魔王の争いの疲れを癒すにはもってこいではないでしょうか?」
「……そうだな。いいだろう」
こうして私は魔王としての責をとりあえず下ろし、一人の魔族としてラーガ王国を訪れることになった。
王国は確かに楽園と呼ぶにふさわしく、激戦を終えた我が兵には最高の休暇となる場所であろう。
王国には魔族しかいないものの、周辺には大勢の魔物たちがいる。空より見かける彼らは戦の場で見るそれとは明らかに違う幸福色であった。
「いい笑顔だった。戦場で見る笑顔も良いが、満面の笑みと言うのも良いものだ」
百年も休めばそのあとはまた我が世界にて王としての責を果たさねばならないだろうが……今は良い。まずは……寝床を見つけようか。
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