昼下がりの町並みを歩く。共もなしに自由に歩けると言うことが喜びだと感じるとは思わなかった。
足は敷き詰められた石を叩く。町を出ればそうでもないが、さすがに王都。
すべての道が整備されている。
賑わいもよい。
どうやら王城内にすでに魔族が入り込んでいるようなので、寝泊りする場所を用意させることは出来そうだが、出来れば人の庶民の暮らしを見てみたい。
「すまないが、尋ねたいことがある」
辺りをきょろきょろと眺めながら歩く。宿屋らしきものがなかったので、路地を歩く少年に声をかけた。
「あ、はい? なんでしょうか?」
「ここら辺に宿はないだろうか。いい宿じゃなくていいんだ。普通の宿がいい」
「あ、それなら僕の家がそうです。今買い物中なんですが、良かったらあんない――」
労せず宿を見つけられ、喜びを感じていると少々に暗がりであるここよりさらに裏の路地から彼よりがたいのよい少年たちが数人現れた。
「よう、ユゼ。ずういぶんと美人さんを連れてるじゃねえか。お前のコレか? 」
少年たちの中でも一番醜く、体の太い男は彼、(ユゼか)の面前に拳を持ってくると小指のみを引き上げ、ゆらゆらと揺らす。
「まあ、そんなわけねえかあ! モヤシに花は似合わねえもんなぁ? なあおい」
何がおかしいのか、げらげらと彼らは笑い、一人がユゼ少年を押さえ込み、もう一人が私の後ろへ回り、表通りへの道を塞ぐ。
「美しいお嬢さん? こーんなモヤシじゃなくてたくましいオレと付き合いませんかぁ?」
「お、お客さん、逃げて……」
太った男はユゼ少年の腹を殴りげはげはと楽しそうに笑う。
「まだ客ではないが」
その言葉を彼はなんと受け取ったのだろうか。再び逃げてと言うユゼ少年を(今度は顔を)殴るとこちらへ嬉しそうに歩み寄る。
「まあ、店員とは仲良くしておいたほうが良いかな?」
太った男の顔面が見えぬ拳で殴られたかのようにゆがみ、吹き飛ぶ。左右に小刻みに顔を揺らしてから男はがくりと首を落とした。
「気絶させた」
取り巻き達は彼に駆け寄る。逃げなかったのだから彼は実はそれなりに信頼があるのか、それとも逃げると後が怖いのか。
どちらでも良かったが、私はユゼ少年の手を取り表通りへ歩み行く。
「あ、えっとすいません……。魔術師の方だったんですね……」
通りに顔を怪我したまま出るのもまずかろう。頬に触れ、傷を癒す。
「あの、その、ありがとうございました。顔の刺青からもっと早く気づくべきでしたね……。あいつらも……」
「それはいいさ。自業自得だ」
「えっと、それで、僕の名はユゼです。あなたの名前は?」
名か。遥か昔には名があったが、今は魔王だ。王とは最高の覇者。一人のみであるので魔王となりし者はかつての名を捨て、魔王と名乗る。
前の名を用いることに不便があるわけではないが……すでに記憶にない。
困ったときのレヴィン頼み。
彼の名を取らせて貰おうか。
「レヴィだ」
「レビ、さんですか。……名は体を示すと言うか、可愛い名前ですね」
……人間には発音しにくかったのだろうか? 言い直すのも面倒なので、これより私の人に呼ばせる名はレビになった。
|