願うところの叶うところの
〜第六話〜
吸血鬼(bloodsucker)


「吸血鬼? ほう。なるほどな」
「血を吸うんですか? 蚊みたいなやつだなぁ」

 依頼書には夜な夜な現れ、うら若き貴族令嬢の血を啜ると言う化け物の実態解明が依頼だった。
依頼書の裏には誰に描かれたのか、目撃証言を参考にした絵が描かれていた。
 あまり信憑性はないとも書かれている。

「退治でなくて良いのか?」
「……ああ。はじめて見るタイプのモンスターだからな。強力な魔物は実態解明をある程度してから退治へと移るんだ。まだ何もわかっていないだけに危険度も高いし、貴族の令嬢が被害にあっている。
血を吸われてる以外は異変はないようだが不気味だとギルドに依頼が来た。退治できた場合、証拠を持ってくれば報酬は二倍の額を払うことになっている。よろしく頼むが無理はしないほうがいい」

 ……ふむ。おかしなことだ。
 どうも彼らはこの魔物を知らないようだ。しかも被害が最近となれば我が軍の者を疑うところだが、見麗しい乙女の血を吸う魔物などと言うユニークな魔物など初めて知る。

「ホントに初めてなのか? 伝説や過去にこのような魔物の存在は?」
「さあ、僕は本を読むほうですがそのような魔物は知りません……。まあ、魔王の手のものなんじゃないでしょうか? 」
 ギルドを出て、歩きながら確認に聞いてみるとユゼ少年は首を振る。
「……日がかかりそうだな。仕方ない。これを換金してきてくれ。数日の滞在分にはなるだろう」

 そう言って指にはめていた、飾り気なく素朴な指輪を彼に渡した。魔族的な価値で言えばないに等しいような弱い守りの指輪であるが、人には十分のものだろう。

 魔王になって初めて城を抜け出した記念に街で作らせた他愛のないものだったがなんとなく気に入っていたものだ。
 と言うよりも魔王にふさわしいとささげられる品々はどれもこれもが派手すぎた。その反動もあるのだろう。

 数百年の間柄であったがこの国にはもっとよさそうなものも多い。また買えばよいだろう。
「わかりました。換金に行ってみますね。じゃあ僕は先に宿へ帰り――」

 そんなことを考えながら歩いていると、右から走ってくる馬車がいたことに気づくのが遅れた。

「おっと」

 馬車のほうを見ると中の窓が開き、乗客であろう貴族が頭を下げ、また場所を走らせる。
「大丈夫でした? 危ないですよ、ちゃんと前見てないと……」
「ああ。それより先ほどの男を知っているか?」
「え、ああ、最近この国にやってきたバルシェア様ですね。いい方ですよ。孤児を引き取ったり支援したり。貴族ぶっていないから市民の人気急上昇ですね」

「……そうか。わかった。ではまたあとでな」
「はい、ではまた」

 間違いない。さっきのやつは私に仕えていた臣下の一人だ。抑えていて人間にはわからないだろうが、魔力がそうであると言っている。
 頭を下げたのは魔王に対する意味もあったのだろう。

「見麗しい女を捜すして見張るよりは貴族に話を聞いて女を紹介してもらうほうがまだましか」
 そもそもにして情報が少ない。ギルドから被害者の貴族に話しを聞く権利書をもらっているが、信頼にたる人間の紹介を介したほうが口も滑らかになろうものだろう。
 すでに魔力の波動は覚えている。私は馬車の向かった先へと走った。



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吸血鬼調査です。でも魔王もユゼも知らないようです。
……普通の話だなあ。

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