願うところの叶うところの
〜第九話〜
人目つかぬよう(secret)


「ユゼですか? あの子なら今は裏庭にいます。……この時間はいつもなんですよ。何遊んでいるのでしょうかね……あの子は」
 おや、裏庭か。ギルドの報酬に金貨を十枚ほどもらったのでその価値がどれほどかを聞きたかったのだが。あと、いくらで売れたのかを。
 色々と気苦労があるのだろう。どこか生命力の希薄なユゼ少年の母親に指された先へと歩いてゆく。裏庭か。

 太陽が沈み始めている今、朝は洗濯物を干されているだろう、日の当たる庭も今は薄暗い。そんな裏庭の壁際に生えた木の上にユゼ少年はいた。
「ほう」
 正直何気なくで木に登るようには見えないが、これは彼のいつもの行動なのだろうか。闇が木を隠し、木が少年を隠す。夜目が少々効かねば発見しづらいくらいかもしれない。

「……じゃないの? ――たしは、――なのに」
「僕に何――ろって……だよ」

 少々遠い。聴力を強化すれば聞こえもするが、盗み聞きは趣味でない。

「ユゼ!」

 ユゼ少年は二、三相手に告げ、木をそろそろと慎重に降りだした。
「……き、聞こえました?」
「いや? 聞こえなかったよ。それより、依頼を果たした。金貨と言うのはどの程度の価値があるんだ?」
「そうですねえ。普通に三日ほど食べて飲んで出来る程度です。それでも余るくらいかな? 指輪、高い値がつきましたよ。二週間はうちの宿を借りれます」
 そういうと彼は金の入っているだろう布袋を渡そうとする。私はそれを手で止めると、
「いやいい。先払いだ。では二週間頼む」
「確認しなくていいんですか?」
「信じてるさ」
 と言うよりは見てもわからないのだが。ユゼ少年もそれがわかっているようで小さく笑う。
「ではお客様? お部屋にご案内いたします」
「よろしく」


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secret:(人目につかぬよう)隠れた。

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