願うところの叶うところの
〜第十話〜
ネコ(cat)


 時間がゆっくりと流れている。
 私は裏庭でユゼ少年の母親が洗濯する様を眺めながら、世間で言うところの日向ぼっこを堪能していた。
 陽光は優しく、ぽかりと暖かい。
 この辺に住んでいる猫と言う生物もそれを心地よいと思っているようでくあ〜っと口を開きながら体を伸ばしていた。
「小さくてかわいらしい生物だな。 ……来い来い」
 人差し指を揺らして誘ってみるもこちらへ関心を抱かなかったようで、ごろりと寝転がり、瞼を閉じられてしまった。
「……ふうむ? ユゼ少年の持っていた猫なんたらというやつでないとダメなのか?」
 左右に振るだけでびっくりするほどに関心を引いた面白い植物だった。じゃれし、とか言う名だった気がする。帰ってきたら聞いてみるか。
 チェトの屋敷訪問後、私はこの宿を拠点に悪さをしすぎている魔物に注意て回った。もちろん依頼を受けてだが。おかげで金には困っていない。
 読み書きのほうも二週間もかかったが、おおよそ完璧だ。
 このままずっとこうやってのんびりしても良いが、そろそろ何か別なことへ手を染めても良いかもしれない。
 先ほどまでさんさんと輝いていた空に雲がかかる。
「……ギルドへでも行くか?」
 受付の男とはそれなりに言を交わすようになった。最初の殺さずを貫いていることを評価したらしい。「あんたは一人でも大丈夫だな」そう言われてから、彼は関係のない井戸端のような話にも付き合ってくれるようになった。
 おかげさまで少々物事を知ってきたと思っている。
 無血の魔女と名が知れ、変な輩に付けねらわれたり、絡まれたりするのが面倒ではあったが、来るたびに出される茶はチェトのところのもの以上にうまいもので、それだけのために言ってしまいそうなほどだ。
 と、出口へと向けた足に猫がじゃれる。
 どうやら隠れた太陽を恋しく思いつつも日向ぼっこをやめたのは彼も同じようで、暇になったのだろう。
「引き止めるな。後ろ髪引かれる思いをしてしまうだろう?」
 しゃがみこみ、ブーツにじゃれる彼の体を撫でる。二、三程そうすると彼はじゃれるのをやめ、おとなしくなる。
「では行ってくるよ」
 最後にもう一度彼を撫でると、ここ二週間ほど聞かなかった音でない音を聞く。

『魔王様』
 ……念話で聞こえた魔王という言葉。それは間違いでなければこのかわいらしい猫から聞こえてきたもので、さらに間違いがないのならば……腹心、レヴィンのものであった。




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ネコと魔王。
二週間で異国の字を覚えられるって羨ましい……。

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