願うところの叶うところの
〜第十四話〜
狼(wolf)


 怪しげな地下だったが、やることはたいしたものではなかった。配られたクリスタルに魔力を込めるだけ。そしてこめた分だけ金が支払われるのだ。
 五個ほどにこめ終えると、指導していた宮廷の魔術師が声を掛けてきた。
「いい腕ですね。……こちらへ」

 王城への入場の時点で力量の検査もなにもなかったのはこのためだろうか? 連れられた別の部屋には目当ての武具……剣、鎧、足具があった。その周囲を魔術師が囲み、術を唱え続けている。部屋の床には床を埋め尽くすようにクリスタルが置かれていた。
 ……これがか。

 今彼らが掛けている術の魔道書が渡される。私は剣を担当するようだった。ただたんに彼らと同じようにやってもいいが、少々話が聞きたかった。
 ちょっとばかり、力を入れて術を唱える。
 ……全員が唱え終えた。私は倒れるようにしゃがみこむ。顔は真っ青だった。作った顔色だったが、引っかかったようで彼らのリーダー格であろう若き宮廷の魔術師が私に駆け寄る。

「大丈夫でしょうか? ――ああ、大丈夫ですね。素晴らしい腕前ですね。この場にいるのは大体が宮廷の最上級の者たちなのですが、あなたの腕は彼ら以上です。……儀式はもう少し続きますが大部分は終わりです。後はこの者達で出来るでしょう」

 任せたよ、と彼は周りにいい、私の腕を握り立ち上がらせる。人が触れていい肌ではないが、まあいいだろう。
 休憩に、と地下から上がり、別室へ私を連れてゆく。 時刻は昼近く。彼は食事を用意させた。適当に話をしながら食を進める。そろそろいいだろうと思い彼に尋ねた。

「あの武具は一体? ただの勇者のそれではあるまい」
「あれですか? あれは想像の通り、アーティファクトです」
 魔術道具の中で、最上の質を持つものだった。
 道具に魔力を込める魔術道具と違い、アーティファクトは道具に魂を込める。生贄の魂を封じて生み出す魔具だ。魂ゆえに道具自体が魔力を生み出し続けるので劣化せず、威力もまた段違いになる。禁忌のものだ。魔王と言えどそんなものを作れば批判は避けられないだろう。

「……よくやる」
「僕もそう思いますよ。あれは良くないものだ。しかし、魔王がいて、勇者が現れた以上、勇者が魔王を殺せるようお手伝いをするのは当然でしょう。魔王を倒せるよう最善を用意しなければ」
「勇者……」

 ……誰が何のために。そう、何のためにだ。私は、少年の母を連れてゆく理由を考えていた。……逆なのではないだろうか。ユゼ少年が連れて行かれたので彼の母もまたついて行ったのではないだろうか? 想像が正しいとするのなら――。

「ワインはお嫌いで?」
 考え込んでいたせいでグラスに赤い液体がグラスに注がれていることに気づかなかった。気がついてみるとおかしなことにグラスは一つのみであり、彼のほうにはなかった。

「あなたは飲まないのか?」
「ええ。勇者の前に立つものが酔っていては申し訳ないでしょう?」
「なら私も飲めんな」
 彼がなぜです、と言い切る前に彼を気絶させた。腕こそ勇者ご一行の魔術師より少々良かったが、私は

「魔王だからな」

 私は彼の体を少々奪わせてもらった。気絶している間は私の思いのままだ。幽霊達で言うところの憑依になる。レヴィンが猫に使ったそれと同じものだ。
 ……二人っきりの部屋に案内したのがまずかったな。男を狼とここでは言うらしいが――女が魔王であることもあると知るがいい。
「……さて、そろそろ王の元へ行きましょうか。……こんなところか。こいつのしゃべり方は」


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送られ魔王に会いました。合掌。

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