「レビさんっ! レビさーん!」
ユゼが扉を叩く。鍵は掛けていないのでそのうち空けるだろう。
私は書き終えた手紙を机へ置くと彼に見えないよう私を不可視化した。体が透明になり、見ることがきなくなる。
意味は、さほどないはずだ。
会っても会わなくても彼は勇者として旅立つのだから。でも、会いたくなかった。顔をあわせたくなかった。だから隠れる。
「入りますよー。レビさんも勝手に入ったんだからお会いこですからねー……っ。っていない……最後なのに……手紙?」
鎧の上にマントをかぶっているのだろう。少々大きく見える。
彼は手紙を空けて読む。といっても大した内容ではない。急用で別の街に行くことになった、ということと魔術書がペテン物ばかりだということ。そして少々のお小遣いだ。
ユゼは苦笑する。
「……知ってましたよ。偽者だって。でも良かったんです。それでも。本物でなくても想うだけで満足できた。……今までは。でも、なれるといのななら僕はなる。――ありがとうレビさん……。あなたにとって何気ない一言なのかもしれないけど、僕は自分が何が出来るかを考えました。その上で、僕は勇者をやります。力が足りないなら足りる男になります。……魔王を倒せるように」
ユゼは手紙を懐へ入れると部屋を出て行った。
「……?」
なぜか、胸が痛んだ。
私は、彼の後をつけて回った。不可視にして、空を飛びながらなので彼は気づかないだろう。
貧弱坊やで本の虫の彼にとって旅は過酷以外の何者でもなかった。
何の障害のない街から街への移動さえもが困難であり、半日を歩き続けるだけで足にはいくつも豆を作っていた。
自称魔王だったとはいえ、魔族を倒した剣を使用しているけれど、彼は素人。他愛無い魔物を狩るのにも命を懸けた。
時には鼻水をたらして逃げ惑い、魔物の姿を見つければ避けて通る。食料を得るのにも苦労し、腹を鳴らせて眠りについたことが何夜あっただろうか?
しかし、彼は次第に成長していった。
剣に振られるのではなく、剣を振り、人に迷惑をかける魔物を倒して回る。髪の毛と木の枝、それに糸を使って魚も取れるようになった。
ただ、孤独にだけはなれなかったようだけれど。
彼は変わった。
けれど、変わっていない。彼は魔術の訓練を受けたこともないし、素質もない。
そう、魔力的になんら変化はない。
なのに……私は彼に惹かれている自分がいることに気づく。
逃げ回り、泣き喚くたびに情けない、情けないと思いつつも目を離せなくて。初めて魚が釣れたときは届かないが褒めて。
彼の成長をずっと見つめてきた。彼は……カッコいい男になった。
美しくない、美しくないはずで、なんら惹かれるはずがないのに。
遠かった目的地。だが彼は足を進め、魔王の居城へと近づく。
……最近は、質の違う痛みが増えた。
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