「すごかったですね。僕は結婚式は初めてでしたが、こんなにすごいものなんですねえ」
「私だって初めてよっ!」
「あ、や、したのじゃなくて参加したのって言うか……うん。最初で最後だ。もう誓ったけれど、君を愛するよ。今の僕なら君を守れるから――レビ。愛してる……」
そのレビが指しているのが魔王でなく王女であるというのは理解している。苦味を感じ、だけれども幸福感も感じていた。
口付けを受け入れる。
このまま、こうやって百年を過ごすのだな……。
彼が老いて死ねばお別れなのだと思うと寂しさを今から感じる。百年は短いな……。
だけれども、幸せな百年になるのだろう。
そう思っているとユゼは私を乱暴に手で突いき、距離をとる。
……? なんだ?
「……レイシャ。お前は、レイシャ……じゃない。恐ろしいほどの魔力……。まさか……魔王……?」
「なにを……?」
「ならなぜ! なぜ 僕が倒した魔王よりも強い魔力を持っているんだっ! レイシャはそんなものもっていなかったっ!!」
「それは……」
なぜだっ! なぜなのだ! なぜばれる? なぜなんだっ!
そのふざけた武具のせいかっ!?
ユゼの体をみるみるうちに鎧が覆う。守る。私という存在を拒絶するものになる。
「レビを、乗っ取ったのかっ!」
「や、め――……」
そういうと彼は私の首を絞める。『出て行け、出て行け』と叫びながら。
……どうすればいいのだ。なんなのだこれはっ!
搾り出すように声を出す。武具さえ、何とかすればっ。
「武具よ堕ちよっ!」
魔王としての力に鎧と足具が力を失い始める。だが剣は輝きを減らすどころか増したようにさえ見えた。
……そう、少量とはいえ、我が魔力を含んだ剣は魔王の力に抗体を作っていたのだった。
「レビをっ! ……レイシャを返せっ!」
剣を物質化し、私に振る。
……殺す気だった。他愛無き剣とはいえ、我が力を吸っている。私はそれを避け、剣には触れないように魔力を放つ。
剣に触れさえしなければやはり魔王の力の前になすすべはない。
「……なんて、力なんだ……。レビ、さん」
一瞬、どきりとした。ユゼは王女レイシャを呼ぶときはレビといい、私のことは……レビさんと言っていたのだから。
けれどそれは私への呼びかけではなく、自分の中の私への呼びかけなのだろう。
「自分の出来ることを知れ。……僕は君にまだできることがあると知っている……」
何のことだ、と呟く。
聞こえないのか聞こえたのか。こちらを睨む。何かを決心した目で。
「レビ。今君を救うよ」
彼は剣を――自らにつき立てた。
「ぐっ、あ」
なにを……。剣を抜き、治療を施そうと近づく。
けれどそれをすることは出来なかった。剣が使用者の死を感知し、すべての魔力を暴走させたのだった。
アーティファクトの暴走は大爆発を呼ぶはずだった。
そう、この機能こそがたくさんの魔術師を集めた理由なのだろう。
勇者を魔王にぶつけ、死んだ場合は爆発させる。彼らの計算違いはだだ一つ。
魔王のレベルの違いだった。
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