願うところの叶うところの
ユゼの日記
その5

地の月の七日:
「お主! 死相がでておるぞおお!」都一番の魔術士にそう言われました。あと金貨六枚請求されました。酒場で聞いたら、「うん。あの人に聞いたやつみんな死相がでてるって言われるよ。そのあと大金要求されるし、断るとあのばばあ魔術でのすんだよね。決め台詞は『死期が近いんだから金を出し惜しむな。罰が当たるぞ』って怪我せんでよかったねえ」ぎゃっはっはーと笑われた。しかし騙された同士仲良くなる。「奢りだ、飲め飲め〜っ」て。飲みすぎでダウン。起きたら……請求書だけが残ってた。

 ……ここにはぼったくりしかいない。宿屋で泣いた。

地の月の八日:
 今度こそと気を取り直して情報屋に調査を依頼。内容はラーバ王国王女の婚約事情について。レビの言っていた結婚の相手が誰なのか。それはどうなったのか。
 内容は予想どうり。相手は隣の強国。そして婚約は破棄でなくあくまで延期。延期期間は、一年。……僕が魔王城に行き、屍か、生身かで帰って、少々悲しみに明け暮れられるくらいな間だった。ラーバは豊かであるが、周りはそうでない。もともとに加え、魔王の被害がかさんでいる。回りすべてがラーバを少なからず欲しがっているのはなんとなく知っていた。魔王を生きて勇者が倒せばそれでよし。魔王を倒した英雄の国として牽制。死して、何らかの力で魔王が死ねば、隣国の強国と結びつきを強める。死した勇者の思いを無駄にしてはならないとか旗を揚げて。
 ……わかった情報でこれが決め付けれるかといえばそうではないかもしれない。この武具はあくまで武具。死ねば魔王を倒せる、みたいな仕組みはないかもしれない。……なら、ならこの胸の奥に、奥の奥にある強大なものはなんだろう。伝説の武具の力以上のそれはなぜ奥にあるのだろう。
 ……なんにせよ、僕は魔王に負けれない。いいだろう。僕が失敗してもそれでも国が、世界が救われるというのなら。
 むしろありがたいさ。そうわりきってみる。

地の月の十四日:
 割り切ったと書いたくせに実は全然割り切ってない自分。国の魔術士宛てに手紙を送ってみました。『勇者です。魔術士様へ。魔王戦に負けたときが不安で手紙を書きます。なんとなく感じてることなのですが、間違いであったら安心して戦えないので、確認です。僕が死ねば魔王を殺す魔術が発動しますね?』う〜ん、ストレート。
 今日届いた回答は要約するとその通り。安心して戦え。ちなみに逃亡すれば国のお母さんが悲しむぞ、とあった。人質かあ。そんなことしなくても命を懸ける気持ちはあるんだけどね。


……

………

…………

雷の月の四日:
 長い半年だったが、魔王城が近づいている。力がついた。身長が伸びた。経験と共に自信もまた、得ることが出来た。
 最初は扱いに慣れてなく、百を振ったくらいで手がぼろぼろになり、血がにじんだ剣も今は小枝のように振り回すことが出来る。
 ……本当に長い、半年だった。明日魔王城前の町へ着く。そこからすぐにあるので大荷物は邪魔だし、日記を書く余裕はないだろうから、続きは帰ってからになるだろう。
いや、もう書く必要もないかもしれない。魔王が死ねば勇者の日記は役を終えるのだから。
 ……明かりを消そう。もう、眠い。


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