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*陰みょる者的日々*
〜番外編〜
【サンタデイ】




 十二月にはクリスマスと言うイベントがある。キリスト教と言うわけでもないし、そもそも退魔しちゃう家元なので、そういうこととはとても縁遠い人間だった。
 しかし、両親が死に、家がつぶれ……私は弟と一緒に暮らすようになった。
 そうしてみると枷が消え、多少は高校生らしくなったのだ。

「高校生はサンタを信じない。サンタはお父さん」
「よくできました」

 三人の式神に肩、右腕、左腕をもませながら清春は言った。……高校生の癖に何そんなにこってるんだろうか。
 肩こりなんて私たちくらいの年頃の人間には無縁もいいところのものだろうに。

「……で? そこまでわかっててどうしたの?」

 清春が手を軽く三度振った。あいつの周りにいた式神が消える。
 なんとなくけだるそうなその態度にむかっときた。

「変なうわさがあったからちょっと聞いてみただけよっ!」
「変なうわさねえ? 張り切りすぎたお父さんがサンタルックをしたりするのは珍しくないことだよ。……あと泥棒も」

 普段はたいしたことでなくともそれなりには話を聞いてくれていたのだが、呆れたのかなんなのかずいぶんとそっけない。

「でもさあ。去年、すごかったらしいよ? サンタ。ここら辺一体の子供にプレゼントを配ったらしいの」
「ふうん。いちいち忍び込んでプレゼントを配るんだから相当だ。見つかったら牢屋だしね」

 ふわわと欠伸をして眠そうだ。

「だから聞いてるんじゃない。“サンタっているの?”って。人間じゃなきゃできるかもしれないしやるかもしれないでしょ?」
「知らない」

 まったくをもってやる気がないらしい。良いだろう。ならば私がやってみせる。突撃レポート24時。サンタクロース大発見! だ。

「……冷静に考えると――……」

 一体何をやっているのだろうか? 今日は楽しいクリスマス♪ なのに、寒空の中、サンタを見つけようと町を歩き回っている。

「あれ、どうしたのユッキー。もしかして…………えーと、何してるの?」

 もしかしてと言っちゃった割には特に考えはなかったらしい。
 冬の寒々しい風吹く夜道の曲がり角から突然現れたのは友人である赤坂 京子。この寒さにも負けずそんなに厚みのないジャケットで歩き回っている。
 とても元気だ。

「そういう赤坂こそ。どうしたの? 買出し?」
「そう。サンタを待ってようと思ったんだけどお腹減っちゃってさあ」

 ……サンタ。単語にぴくりと反応してしまった。赤坂はそれを見ると小さく驚く。それから顔をにんまりとさせた。

「え、え〜と、赤坂もサンタ探してたの?」
「んん? となるとユッキーもですなあ? ほほう。これは気の合うことで」
「ええ? 赤坂がぁ? らしくないなあ。信じてたの?」
「いや、私のサンタは親だけど、この町のサンタ事件は放送部部長兼新聞部副部長としては見逃せないなあって。
去年うちの従弟に来たから今年も来るかなあって思って。近所に住んでるから泊まってたんだけどあの子、人使い荒い荒い。そんなこんなな買出しでもあるんだけど……」

 おっ、それはら――

「ラッキーって顔してるよん、ユッキーてば。いいよいいよ、おいでおいで。どうせ当てなく歩き回ったんでしょ? 行動派だなあ」
「でも、従弟の家なんでしょ? 別に結果を教えてくれれば私はいいよ?」
「と言いつつ外を徘徊するのね。ユッキーってば……」

 なにやら随分なため息をついてくれる。
 と言っても確かに彼女がじゃあ明日結果を教えるね、と言ったら多分帰るふりをしてまた町を歩き回っていたかもしれない。
 そうではないかもしれないけれど、赤坂にそうなんじゃないと言われるとなんとなくそうな気もする。不思議。

「そんなことあるかも」
「だよねえ。ユッキーだもの! クリスマスの夜に女の子一人は危ないよ。さ、行こう」「そか。じゃあ、お邪魔することにする」


 彼女の従弟の家にまず赤坂が入っていく。五分ほどすると小学生くらいの小さな子が駆け寄ってきた。

「噂の美人! まさに美少女! あなたは美しい!」
「あ、ありがとう?」
「達樹。何言ってるの! ユッキーが美しいのなんて当たり前のことじゃない!」
「そ、それもどうかと……?」

 よくわからない。まったくわからない。二人はほめ言葉を言い合いながら激しく感情を高めていました。マル。
 ほっといたほうが良いようなほっとくのも疲れるような。

「ま、まあいいじゃない。その辺は……」
「あなたがそうおっしゃるのならーー!」

 変わった子だなあ。よしよしと頭を撫でると嬉しそうにしている。尻尾があればぶんぶん振ってそうだ。

「で、達樹くん、サンタさんにプレゼントもらったんだって?」
「はい! 白月さん! ジグソーパズルをもらいました! 親からはゲームでした! ゲームのほうが高価ですが、判定はジグソーでした。やってみると面白いです」
「へ〜。最近の子はゲームなんてもらうんだ」
「ん〜、まあ、サンタさん(親)のプレゼントとしては普通かな。調査によるとどうもサンタ(怪奇)はゲームとかじゃなくてちょっとした遊び道具とかを配ってるみたいね。サッカーボールとか」

 ……いい話じゃないか。サンタって言うのはすごいんだなあ。できれば私の幼少期にも来て欲しかった。
 ……それとも知らなかったわけだからつまりは信じてないわけなのでくれなかったのかな。

「ねえねえ、赤坂は今まで親じゃないサンタからはもらったことある?」
「ないなあ。実はあるのかもしれないけど、親でしょ。それにこの現象は去年から起こってるみたいだしねえ。まあだから今年も起きるって保証はないけれど」
「起きて欲しいなあ。夢があるでしょ」
「寝てないと来てくれないって言うから起きて欲しいはなんとなく面白い感じ」
「なにがっ」

 赤坂は続けず、とんとんと階段を上っていく。達樹君もそれについて行った。多分二階に彼の部屋があるのだろう。

「さ、お食べ」

部屋に着くと彼女が買い込んだお菓子類を部屋の真ん中を陣取る丸い机に置く。部屋自体は小学生にしてはシンプルで片付いている。ただ、たくさんの絵が額に入れられ飾られていたが。
 部屋の端には半分ほど出来上がったジグソーパズルが置いてあった。

「暗くすると光るんです。すごいですよね」
「部屋に来るたび、ジグソー増えてるよね。この部屋ってば」
「京子うるさい。……いいですよね! 白月さん」」

 ……あ、ジグソーか。絵と思ったそれもよく見てみればピースの線が見える。

「そだね」

 うはーと喜ぶ彼がかわいらしい。小さい子供ってかわいらしいなあ。……そう言えば柊見てないけどどうしてるんだろ。
 まあ、今頃はテレビでも見てるか。
 
 私は座るとお菓子に手を伸ばした。

「いっぱい食べてね、とは女の子には言っちゃいけないものかな」
「ん〜、お菓子自体殆ど食べないから太るかわからない」

 カップラーメンの麺のようなお菓子を口に含む。お菓子とはおいしいものだなあ。

「……ぼ、僕がいっしょう食べさせてあげます……い、いや、なんでもないです」
「そう?」

 小さい声だったから聞き取れなかった。よくわからないけれど彼は赤くなるともじもじと揺れた。


「さあ、冬は夜」
「つとめて?」
「それもまたよし。……それはそれとして、雪が降ってきたね。明日は積もる、かもよ」
「え、ホント?」
「ん〜、あんまり積もんなさそうな」
「白月さんがそういうなら積もんないんです」
「おのれ達樹……」

 部屋に敷かれた布団は二つ。さすがに三つは入らなかった。達樹君を真ん中に三人で眠る。

「うふふ。気分は川の字お父さん」
「え、私お母さん?」
「ええ? 僕子供? の、望みが薄く……」

 なんじゃそりゃ、とも思うのだが

「それもいいねえ」
「白月さんがそう言うならっ!」
「……た、達樹……」

 はあと深くため息をつくのが聞こえたような気がする。なぜ?
 そんな感じで三人仲良く色々談話する。
 最近の小学生は色々物を知っているなあ。アルバイトに生活に修行にすべてを投げ打っているような私よりよっぽど見地が広い。
 
「それでさぁ私思うんだけど……」
 時間は十一時と半。もうすぐでクリスマスが終わるなあという辺りで急に二人の言葉が怪しくなり始める。

「く、う……」

 寝ちゃったし。赤坂は戦線離脱。達樹君は……

「ねむ、いや、起きて? ただ……眠い? あう」
 
 駄目だし。……しかしそういう私もまた心地よい眠りに落ちそうだった。しかし、おかしい。赤坂とは前に友人宅で一晩を過ごした仲であるし、この間一日耐久カラオケ大会をやったと言っていたほどのつわものだ。
 それが十一時半程度で眠くなるのだろうか?

 しかし瞼は次第に下がりがちになり、閉じられる。このまま意識も閉じるのは時間の問題だ、という時に、窓の開く音がした。

「さ、プレゼントを配りましょうか。ここは確か達樹君の家ですね。去年はジグソーでしたか。今年は……うん。船の模型を……」

 どこぞで聞いた幼目の声が聞こえた。雪降る聖夜の夜に響くその声は美しい鈴のようで心地よい。けれどここで寝るわけには行かない。

「ひ、ひいら……ぎ 」
「……? 冬歌? 冬歌ですか? あれ、なぜこんなところにいるんです? あ、そう言えば確か彼の従姉が冬歌の友達なのでしたっけね。ま、また明日。おやすみなさい」

 子守唄を歌うように優しく言葉は紡がれる。紡がれるのに意識が絶つとはこれいかに。そう思ってもどうしようもなく、やはり意識は閉ざされた。

「寝た……寝た」
「うーん」

 再び覚醒したのは朝で、なぜか体育座りで落ち込んでいる赤坂とサンタのプレゼントに喜ぶ達樹君の姿だった。

「……今年も来たね〜。サンタ。また取材とか来るかもねー」
「サンタの来る街って感じだっけ? 去年のやつってさ」
「うん。素敵だよね。知ってる? おかげで子連れで引っ越してくる人がちょっと増えたらしいよ。この街。親も夢見て欲しいらしいね」
「じゃ、感謝だね。サンタに」
「そだねえ。生意気な従弟だけど、サンタにお礼はしたいねえ」
「うん。じゃ、言っておくよ」

 よくわからなかったのか赤坂は目をぱちくりさせた。

「じゃ、帰るね。楽しかったよ」
「はい! いつでも来てください白月さん!」
「ばいばい、達樹君、赤坂〜」

 家を出た私。では、サンタさんに街中の子供に代わってお礼を言いに行こうか。

「はい。私がサンタです。去年も私は家にいなかったでしょう?」
「いなかったね。でも、式として出されてないといるかいないかってわからないから……」「……夢を与えてあげたかったんですよ、冬歌。子供に夢を知って欲しかったのです」

 朝になっても雪の降り続けている外を眺めながら柊は言った。夢を与えたいと。

「で、ホントのとこは?」
「夢を与えたいんですよ」
「で、ホント言っちゃうと?」
「……いや、まあ、私は無知でしたから、サンタというものをよく知りませんでした。白月の家で生きたころはあまりそういう話が聞こえてきませんので、プレゼントを配り歩く精霊、サンタという存在がいても不思議でないと思っていましたので、子供たちと遊んでいるとき、「え、いるのではないのですか?」と。笑われてしまったので、ならばとやってしまったのですが、予想外に喜ばれたので味をしめてしまって……まあ、善行です」
「ふーん。でもま、感謝してるみたいね。いろんな人が……。いいんじゃない? でも配ってるものってどうしたの?」
「あ、はい。それは清春様から。あまりお金を使われない方なので……」
「ほか」

 窓を開ける。冷たい風が吹き込んでくるが、外を歩いてきた身としてはたいしたことないし、柊も寒がりはしないだろう。
 手を伸ばすと降る雪に触れる。

「サンタ、いてもいいね」
「もしかしたら生まれるかもしれませんね」
「生まれる?」
「はい。妖や精霊の中には信じられることで形をなすものもありますので。私のやっていることでホントにいるんだって信じてくれる人が増えれば、いつか生まれるかもしれませんね。今はいないと信じる人が多くて生まれることができませんが」

 今、子供である子達が大人になっても信じていてくれれば。柊はそう呟く。きっと難しいだろう。でも、もしかしたら。

「それも素敵だね」
「でしょう? 私の壮大な計画です」

 雪を眺めていると近所から「サンタさんだー」という歓声が上がる。近所の誰かが枕もとのプレゼントに気づいたようだ。

 確かに、こんな日が一年に一日くらいあってもいいよね。

「さ、清春様の分も朝食作ってください。冬歌」
「……も、も少し浸らせて欲しかったなあ」
「何言っているんですか。このあとアルバイトでしょう。さあさあ。早く働きなさい」
「はいはい」

 こうして、聖夜は終わり、再び日常は始まる。



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